表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

かいじゅうのツメ

作者: 武倉悠樹

(たまご)()って()まれてきたのは、(ちい)さなかいじゅうでした。


かいじゅうが、まわりを見渡(みわた)してみると、そこには怪獣(かいじゅうがいっぱいいます。


するどいキバや、とがったツノ。(おお)きなツバサに(なが)いシッポ。(いろ)んな怪獣(かいじゅうがいました。(なか)には()()くものや、地面(じめん)をゆらすものまで。それはもう色色(いろいろ)です。


みんな、じまんのキバやツノでたたかいます。()()て、なみだがながれました。


(ちい)さなかいじゅうもりっぱなツメをもっていたのですが、たたかいはしませんでした。


だれかをきずつけるのも、だれかにきずつけられるのも、こわくてしょうがなかったのです。


(おお)きなツメをもつ、(ちい)さなかいじゅうは(こころ)のやさしいかいじゅうだったのです。


「なんできずつけあうんだろう」


「なんで自分(じぶん)がつよいといばるんだろう」


(ちい)さなかいじゅうはたたかいがイヤで、やがてかくれるようにして(もり)のおくふかくにうつり()みました。


(おお)きくみのったくだものを()べて。()っぱと()っぱの(あいだ)(あお)いお(そら)にうかぶくもとおしゃべりをして。


そうして、かいじゅうはこっそりくらしました。そうすればたたかいにまきこまれずにすんだからです。


たまに、(もり)を出ると、ちいさなかいじゅうを「よわむし」といじめる怪獣(かいじゅう)()ました。トゲを()った(やつ)でした。


トゲの(やつ)にいじめられても、(ちい)さなかいじゅうはけっしてそのツメをふるったりすることはありません。(もり)のおくふかくにかえり、お(そら)()かって()いてしまうだけです。


いつの()か、かいじゅうは(もり)から()ることもなくなっていきました。


やがて、月日(つきひ)がたち、(ちい)さなかいじゅうはせいちょうし、(おお)きなかいじゅうになりました。


()んでいた(もり)(おお)きくなってしまったかいじゅうの(からだ)は、(ちい)さすぎました。いっぱいあったくだものもなくなってきてしまいました。


(もり)(そと)()なければなりません。


「このまま、(もり)のおくでおなかをすかしてたおれてしまおうか」そんなことを(かんが)えたかいじゅうでしたが、グーグーとなるおなかの(おと)()んではくれません。


やがてかいじゅうは、ハラペコに()け、こわがりながらも仕方(しかた)なく(もり)()ました。


(そと)世界(せかい)。みんながみんなできずつけあって、こわい、こわい、(そと)世界(せかい)


でも、そんな世界(せかい)はありませんでした。


なんどもなんどもたたかったからでしょうか。じまんのキバは()け、ツノはくだけてなくなり、ツバサは()れて、きずつけあった(からだ)(まる)くなり。


そこに怪獣(かいじゅう)たちはいませんでした。


そこには、だれかをきずつけるためのぶきを()くした(ひと)たちがいるだけでした。


かいじゅうは(こま)ってしまいました。


(もり)のおくでさびしくくらしていたかいじゅうは(そと)世界(せかい)のことなんかぜんぜん()らなかったのです。


みんなとちがう自分(じぶん)にとまどっていたかいじゅうのことを、一人(ひとり)()つけました。


わすれもしません。そいつは「よわむし」とかいじゅうをいじめていたトゲの(やつ)でした。


かいじゅうをきずつけたトゲも(いま)はけずれてなくなったそいつは、かいじゅうの(おお)きなツメを()て、(おお)きな(こえ)をあげます。


「みんな! こいつ(おお)きなツメを()っているぞ! 怪獣(かいじゅう)だ!」と。


その(こえ)でみんながかいじゅうを()ます。そして、その(おお)きなツメを()て、ひめいをあげました。


「「「怪獣(かいじゅう)だ! 怪獣(かいじゅう)だ!」」」


かいじゅうはあわててツメをかくします。そして、こう()いました。


「ボクはだれかをきずつけたりなんかしないよ」と。


それでも、みんなのひめいはおさまりません。


怪獣(かいじゅう)だ!」


(おお)きなツメを()ってる怪獣(かいじゅう)だ!」


「きょうぼうにちがいないぞ!」


()ろ、あのおそろしいすがたを!」


かいじゅうは今度(こんど)はあわてて(かお)をかくし()いました。


「ごめんよ。みんなの()にふれないようにするから」と。


かいじゅうは、もうどうしていいかわからずに(こま)ってしまいます。


仕方(しかた)ない。(もり)へかえろう。せまくてさみしくておなかもすくけど、(そと)にはいられないから。かいじゅうがそう(おも)った(とき)でした。


だれかがおそろしい言葉(ことば)をはっしました。


「あんな(なに)(かんが)えてるかわからない(やつ)にがしちゃダメだ! やっつけられてしまう(まえ)にやっつけよう!」


かいじゅうはその言葉(ことば)に、()(まえ)がまっくらになってしまいました。


「ボクは(なに)もしていないのに」


「ただ、自分(じぶん)がきずつきたくなくて」


「ただ、だれかをきずつけたくなくて」


かいじゅうをかこんだ人達(ひとたち)は、みな、()にぶきをもち、かいじゅうをやっつけようとたたかいました。


怪獣(かいじゅう)をやっつけなければ、(わたし)たちがやっつけられてしまう。みな、(こころ)のそこからそう(おも)ってたたかったのです。


けっきょくかいじゅうは、そのツメをふるうことはありませんでした。


「ボクは(なに)もしていないのに」


「ボクは(なに)もしないのに」


そう(こころ)のなかでさけびながらかいじゅうはやられてしまいました。


一人(ひとり)ぼっちのやさしいかいじゅうはやられてしまいました。

寓意の解釈やそれをどう受け取るかは読んだ方のお考えにお任せしたいと思いますが、ひとつのテーマとして、読んだあとの子供からの質問で、大人が困るような、そんな童話で有って欲しいとは作者の拙い希望です。


もし、作者の考えに興味が有る方は、この作品の執筆した時の心境の背景を活動報告に載せておきますので、よろしければ合わせてそちらもどうぞ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 辛い結末ですが、ある意味世の中ですね。人は自分の評価でしか他人を判断しないところがありますから……。そうなりたくないと日々思っていますが、難しいです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ