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主人公、足蹴にされる。

空は美しい。雄大で、刻一刻と移ろい行くその中に、厳格な父の表情も優しい母の表情も備えている。こういう美しさは、空の他には海くらいだろう。その二つに共通するのは、目を刺すほどの青だ。

水平線の先で空と海が入り交じり、汽船の煙が鏡のように平らな水面を走っている。俺の故郷である瀬戸内地方では見られない光景に、不思議とドキワクしてしまうのも許されたし。ただ、一つばかり我が儘を言えば、この両手首に嵌められた手錠が目障りカナ?


「ほらほら、さっさと歩きなよ、盗人くん」


弾むような明るい声、そしてかまされる蹴り。背中はじんじんと痛み、泣きたくなるが、振り向けば天使のような笑顔で俺を見つめる悪魔がいるので振り向きたくない。過去は振り返らないことにしているのだよ、俺は……。


「はいはい、早く歩きなよ」

「やめて! リズミカルに蹴らんといてぇな!」

「じゃあ早く歩けばいいじゃーん」

「脚の長さのせいだから! あんたみたいな長くて綺麗な脚を神さんからもらわなくてごめんなさいね!」

「褒めてくれてありがとう。だからもっと蹴ってあげるよ」


ああ、コイツただ蹴りたいだけや。しかし悪いのはコイツではなく、そういう人間にした社会が悪いので我々にはチョコレート革命が必要痛い! アタイがボケようとすると蹴るとか、コイツ確実にボケ殺しの才能持ってる! ボケキラーギフテッド痛い!


平穏な海の脇で、俺は蹴られながら歩いている。町行く人々は俺を見ている、ええこら見せ物じゃねぇんだぞと叫べば黙ってと言われて蹴られる。あかん、段々自分がサッカーボールかなにかに思えてきた。

俺はこの人生16年間、人様に蹴られたことはなかったのだが、それがまるで罪悪かのように今何度も何度も繰り返して蹴られている。何故かというのも、俺は知らず知らずのうちに無実の罪を着せられ、犯罪者として取り扱われ、蹴られているのだ。アムネスティがいたら人権無視だと怒ってくれるだろうがここにはアムネスティがいない。何故か。俺は今、異世界にいる。


よかろう、安心して欲しい。ここは精神病院の個室ではない。完全なまでに外であり、そして俺は若干のノイローゼである以外には精神的な病は持っていない。俺が狂っていないのは、俺と一緒に振り返ってくれれば分かることサ。ごめん、カタカナ語尾がキモいから嫌だとか言わないで一緒に見よう。先っちょだけでいいから!


「ん、なに見てるのぉ? そんなに蹴られたいんだ」


ほのぼのとした口調で悪鬼羅刹のような言葉を吐く青年、おそらく20半ばの辺りと見たがどうですあなた。頭は俺よりも20近く高く、見るのも一苦労だが、見上げてみれば、なかなかに色男といえる顔がそこにある。

コーカソイドの肌、しかし、そばかすだの酔ったように桃色になる日焼けなぞは見当たらない。まるで・白人種の理想像を抽出して形成した美青年像に世の女性どもはノッカーウだろうと思う。瞳には、才能のある者特有の星が浮かんでいるし、睫毛なんぞはマッチを載せれるんじゃなかろうかと疑うくらいにバッサバサ。鼻が少し、辺りの人々と比べて低いのだが、それもまた日本人の美的感覚に合致しておる。口元には嘲るような微笑、目を惹く碧空のような髪は、そのまま伸ばせば肩まで付くと思われるのだが、それを後ろで一つに纏め、淡い緑色をしたリボンで結っている。


さてお分かりだろう。青色の髪なんて存在しないんですよワトスンくん。染色ではなさそうだ。つまりこいつは非実在青少年でありここが異世界であることも帰納法によって辿り着ける命題なのであがはぁっ!


「だからさぁ、早く歩いてよ。僕もお昼ご飯食べたいんだからさ」

「あかんて……前蹴りはあかんて、兄さん……」


痛み出したストマック、けらりと笑う青年、世は世紀末である。男はやけ酒をくらい女は想像上の男どもを互いにカマ掘らせている。俺はこんな社会を望んだ訳じゃない!


「歩きますから……歩きますから後生です蹴らないでください」

「うんうん、その言葉を早く聞きたかったね。さあ、早く行こうか盗人くん」


盗人。実に嫌な響きである。俺は憂鬱になりながら、歩く。一人ぼっちの世界で、俺になにがあったのか、これから何が起こるのか。出来れば、俺の脳髄が産み出した君らにご随伴願い、手助けとなってくれたら嬉しいことである。分かりやすく言えばつまり、後ろのイケメンが蹴ってくるんです怖いんです一緒に来てください、というところか。

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