神父と悪魔編 28
郁芳家へと着く。
すでに出迎えられる準備は整えられているようで、黒色に家紋が5つついた和服を着た男性が、私たちを待っていた。
「ようこそいらっしゃいました。わたくしが郁芳本家当主となります、郁芳貞信と申します。どうぞ、よろしくお願いします」
聞いた事がある、5つの家紋の黒色の和服は、最上の格式があるという。
それほどの態度で臨んでいただけるなぞ、私は考えてもいなかった。
「枢機卿ですね、お待ちしておりました」
貞信さんは、私と握手をしようと、両手を差し出す。
私はその両手を受け取ると、ゆっくりと握り返す。
「どうぞ、ただ、ピスキスとお呼びください」
「では、ピスキス猊下と」
手を解き、それから貞信さんが家を案内してくれる。
途中、靴を脱ぎ、郁芳家の歴史を語ってくれた。
その先で、大きな広間のような畳敷きの部屋へとたどり着くと、同じ家紋の人がもう一人待っていた。
「こちらは西郁芳家当主の西郁芳鉦貞です。どうぞお見知りおきを」
正座して待っていた鉦貞さんが、立ち上がって私と握手を交わしてくださる。
「鉦貞、こちらはピスキス猊下だ」
「お話はすでに伺っております。どうぞ、部屋へお入りください。後ろの方々も、どうぞ」
言われ、悪魔もともどもその部屋へと入る。
椅子はないのかと騒いでいた悪魔であったが、貞信さんの視線を見ると、急に黙ってしまった。
何かあるのかもしれない。
部屋の襖と呼ばれるドアを閉じると、鉦貞さんがさて、と言って話し始めてくれた。




