龍乃牙編 5
祠は小さく、そして忘れられているわけではないようだ。
「んー、名前がよく読めないなぁ……」
定期に掃除をしているようで、整った境内をしている。
大きな平たい石が3つ、祠へと続いていて、それが参道となっているようだ。
周りとの仕切りとして、そこだけが塗装されず、土のまま残されている。
参道には鳥居があって、土の部分をくるりと囲むように垣根があった。
私は鳥居にかかっている額を見ようとしたものの、字がかすれていて読めない。
「お客さんかね」
するとみかねたのか、近くにいた初老の男性が助けてくれた。
「おはようございます、あの、ここってどんな神様をお祀りしているのですか」
私が聞くと、彼は記憶を少したどってから答えてくれた。
「伊豆能売神と呼ばれる女神さまだよ。禍を直すための神様で、この世界の均衡を、禍をつかさどっている神様と一緒に保っている役目があるそうさね。ただ、今は万病の神様だとか、満願成就の神様だとか言われているねぇ。たまにお参りに来る人もいる、現役の神様だよ」
彼の説明はそれにしては詳しかった。
聞いてみると、どうやら手野駅中商店街の会長さんだったらしい。
駄菓子屋をしているということで、また行くと約束をした。
彼が歩いて去ったあと、私はその境内に入る。
そしてお参りしてふと、空を見上げた。
彼女が何かを思い出そうとしているような、そして思い出した顔をしていた。




