神父と悪魔編 21
再び空港へと戻り、この日の最終便となっているチャーター機で一路関西へと向かった。
飛行機の中で、私は彼に聞いた。
「聖書は読まれますか?」
「いえ、私は神道派なので」
「そうですか」
深くは追求しない。
この飛行機は、中を見るだけで特注だということがわかる。
まるで映画か何かで見るようなエアフォースワンに乗っているような気分だ。
「何か飲まれますか」
彼が手持ち無沙汰なのか、私に聞いてきた。
同時にメニュー表を渡す。
スコッチや、ウイスキーなどなど、見るだけでも一万ドルはくだらない酒類が並ぶ。
「では水を」
「どの水がいいでしょう」
水も、日本のあちこちで採取されたものがあるようだ。
「軟水でしたら、どれでも」
「分かりました」
壁際にあるボタンを一つ押すと、壁の一部が開き、冷蔵庫が出てきた。
「どうぞ」
ペットボトルそのまま渡してくる。
「コップは…」
「失礼しました」
冷蔵庫には、拳くらいの小さなガラスのコップもあった。
私は新品のペットボトルを開け、コップにそそぎ入れる。
「それで、これからどこに向かうのでしょうか」
「猊下は、悪魔の存在を信じられておりましょう」
「ええ、人の心を惑わす存在です」
「この日本にも、それに相当する存在がいます。彼は見た目は完全な人間ですが、中身はそうじゃない。そこに、あなたが探しているものがあります」
「何を探していると、お思いなのでしょうか」
私は、あえて彼に聞く。
「それに、あなたの正体も聞いておりません」
「これは失礼しました」
そういう彼は、お辞儀をしてから話し出す。
「わたくし、手野産業株式会社の役員をしております、岩屋繁雄と申します。前は手野通信の社長をしておりました。猊下が探しておられるのは、詩篇に登場するもの、でお間違いありませんでしょうか」
「あの詩篇を知っておられるのですか」
私は思わず聞く。
「これからいくところには、ある伝承があります。いつ頃から語られているものかは定かではございませんが。それでも、今後のヒントにはなりうるものでしょう」
手野グループは、全世界の隅々にまで諜報網があるという噂を聞いたことがある。
どうやら、それは本当のようだ。




