書物編 20
「大丈夫ですか」
店長が俺の頭の方から覗き込んでいる。
床に大の字になって俺は倒れ込んでいた。
「え、ええ……」
本当に大丈夫なのか、俺には自信がない。
立ち上がろうとして、手をやると、こつんと何かが当たった。
大理石でできたような石像だ。
俺があの夢で見たのと同じ人にみえる。
「その像……」
「これですか」
店長に言われて俺はその像を持ち上げる。
中身がないと思うほど、簡単に上がってしまった。
「その像は、聖ベルベッドの石像です。彼女は今からおおよそ650年前に、敵対する宗教家によって宗教裁判にかけられ、棄教することもなかったので火刑に処せられました。しかし、カトリックはその魔女裁判を否定し、殉教したとされ聖人として祀られるようになったのです」
「しかし、そのような方が、なぜここに……」
「さあ、私にはわかりかねます」
店長がいうのも当たり前だろう。
俺だってついさっきまでどこかの宮殿にいたのだから。
それでもなお、あれが現実だと思えるのは、この石像のおかげだ。
「何はともあれ、大きな音がしたので見に来たのは正解でした。あなたが倒れているとは思わなかったので」
全身確認するが、少し頭が痛いと思う他は、特に異常はないようだ。
まずはよかった、そう思うことにした。




