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鈴木多佳子は特に何の取り柄も無い少女だった。小心で見栄っ張りで怠け者だった。虐められっ子でもあった。プライドだけは高く、負けず嫌いで泣き虫だった。彼女は一部の人間に蛇蝎の如く嫌われた。代わりのように、一部には熱烈に好かれた。一部は普通に友達で、残った大多数は興味も無い。
彼女は安息場所を隣町に見付けた。そこにも虐めっ子がいた。
ブスブスと云われた。生きる価値が無いみたいに云われた。自分でもそう思った。
「違う違う。ちゃんと好きになってくれる人も居る。大丈夫。ブスでも無い。………美人でも無いけど。」
根強く残ったコンプレックスは大人になっても完全には消えなかった。
男の子なんか世界から滅びろ。昏く念じた。大人になっても時々念じている。多佳子は執念深い性格であった。
隣町の遊び場には余り行かなくなった。友達には会いたかったけれど、ヤツを見掛ける嫌悪が勝った。
嫌いなら近付かなければ良いのに、ヤツは多佳子を見掛けたら走って近付いてくる。
「また来たのかよブス。お前人前に出れる顔だと思うのかよブス。うわあそんな顔に産まれたら俺なら外出らんないね!」
「やめろバカッ!」
「お前いい加減にしろよ!」
他の男の子達に引っ張られて離れても、また直ぐに来る。
「みんなは優しいから云わないけどなあ。俺が教えてやるよ!お前は」
「だああっ!やめろっつってるだろっっ!!」
「ゴメンね多佳子ちゃんっ!ちゃんと捕まえとくからっ!!」
――死ね死ね死ね死ね死ね死ね滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ
多佳子はエンドレスで呪った。
泣き虫の多佳子を心配して女の子たちが慰めてくれた。
「大丈夫?気にしたらダメだよ?」
「ったく、どこまでガキなのかしら。」
――滅びろ滅びろ滅びろ
小さく呟く多佳子に女の子たちは顔を引き攣らせた。
「た…多佳ちゃん?」
「多佳子もどって来て。怖いよ……」
「…………うん。ゴメンね。ありがとう。」
何とか無理矢理でも笑顔を作った。
しかし気付いていた。
ヤツは彼らの友達であり続けるのだ。
倖い学校の虐めは鎮静化していた。だからといって今更お友達面されてもと思った。
中学に上がって、多佳子は更に足を伸ばした。
好きな男の子が出来た。
何かと気が合った。楽しい時間だった。
ある日ヤツが訪ねて来る迄、多佳子は不快な日々を忘れていた。
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