2話
サン・ジャン駅構内は、これぞ芸術の都フランスの名に相応しい実に壮麗な造りで、2階建てではあるが中心は大きく吹き抜けになっているため、外観より広く感じられる。
声が聞こえたのは、その駅構内の2階に位置する大きなフランス南西部の地図の真下からだった。ゆうに100人はいるであろう野次馬たちは、1人の若い女性を囲むようにして集まっていた。
その女性は、青く大きな目とナチュラルカールの金髪が特徴的で、服装も白いブラウスに茶色いベルトと、清麗でおしとやかなイメージが漂う女性であった。
しかし、そのイメージとは裏腹に、彼女は大きく腕を組み、持参していた大きな旅行用トランクに腰掛け、あたりを見回しながら誰かを探しているようだ。しかも相当苛立っているようで、見回す目つきが如何に彼女が苛立っているかを物語っている。
と、そこへ先ほどの青年が到着した。青年はその女性を見るやいなや、
「やっぱり。」
と呟き、大勢の野次馬たちをかき分け、ようやく彼女の目の前へと出ることができた。
「ごめん。道が...」
と青年が申し訳なさそうに言い訳をすると彼女は、
「ふぅん。目は真っ赤、髪はボサボサで、よく『道が…』なんて言えたわね」
と隠しようの無い証拠を突きつけられ、青年は返す言葉もなく、ただうなだれていた。
「まあいいわ。 とりあえず、今あたしの置かれてるこの状況、何とかしてくんない?」
女性の問いかけに、青年はうなだれるのを止め、とりあえず彼女を車のある場所まで連れて行くため旅行用トランクを片手に彼女の手を掴み、また野次馬たちをかき分けて集団の外に出た。そして一休みする事無く、そのままの勢いで駅の階段を駆け降り、入口まで猛ダッシュで走った。
2人が入口に着いたと同時くらいに野次馬たちは2人がいなくなった事を知って、2階で騒いでいた。
「よしっ、今がチャンスだ。」
そう言って、駅前に停めてあるクラウンまでまた走り、車まであと5メートルという所で持っていたキーレスリモコンを取り出してロック解除ボタンとトランク開閉ボタンを押してリアトランクを開けた。トランクが開いた瞬間、旅行用トランクを突っ込んでリアトランクを閉めると同時に彼女に、
「助手席乗って!!」
と一言言って、彼は運転席の方へと向かった。そしてドアノブに手をかけたその時、駅入口から先ほどの野次馬たちが2人を探すために出てきた。
「いたぞーっ。あそこだ!」
2人の居場所に気付いた野次馬たちが一気にクラウンの方へ近づいてくる。
「隼人っ!!」とっさに彼女が青年の名を呼んで車の発進を促した。
そして青年はクラウンのエンジンをかけ、ギアをドライブに入れて一気にアクセルを踏み込んだ。
彼女が後ろを振り向くと周りが見えなくなるくらい白煙が起ち、野次馬たちの集団がみるみるうちに小さくなっていった。