1話
フランス、ボルドー。この街は、フランスの南西部に位置し、世界でも有名なボルドーワインの生まれた街である。 また、寺院や歴史的建造物などもあり、毎年多くの観光客がこの街を訪れている。
そんなボルドーの玄関口である「サン・ジャン駅」は、ボルドーの中心部にあるマルヌ通りの端っこに位置し、1898年に建てられた歴史ある駅である。また、TGVの乗り入れもある駅であるため、首都のパリから来る人も多く、利用者が非常に多い駅でもある。
そんな、サン・ジャン駅の駅前タクシーの列に、一台の黒い高級セダンがその列に到着した。
そのセダンのリアトランクには、真ん中にトヨタのマーク、右端にはCROWNの文字が輝いていて、その外見たるや、周りの車とは違った存在感を放っている。
それもそのはずだ。その列で客待ちをしているタクシーすべてが白のプジョー407なのだから当然といえば当然である。
そんなクラウンの車内からスーツ姿の一人の若い日本人男性が出てきた。身長は170cm後半と日本人としてはごく平均的な高さで、髪は黒髪でツーブロックと、多少迫力のある男性である。
青年は、あたりをキョロキョロさせながら、
「あぁ~、なんて言い訳しよう...。寝過ごしたなんてホントのこと言ったらシバかれんな...」
と、その外見に似合わずとても気弱なことを言いながら、誰かを探していた。
このサン・ジャン駅は人の出入りがとても多い駅であるため、探している人物と連絡を取るか、もしくはその人物がよほど目立つ人物ではない限り、一人で探すのは、砂浜で指輪を探すに等しいほど無理があるのである。
青年は携帯電話を取り出し、その人物に電話をかけた。
(プ・プ・プ.....、プー.プー.プー)
「マジかよ、電源切ってるし・・・ 最悪」
最大の頼みの綱である携帯も、相手が電源を切っていては話にならない。
途方に暮れて、とりあえずクラウンに戻ろうとしたその時、駅構内から喚声とざわめきが入り混じった声が聞こえてきた。
「まさか・・・な」
そう言いながら、若干の望みを胸に、青年は車に戻らず駅構内の方へと向かった。