表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

2.夢の地下は現実 Under the ground

1.


夢を見た

広い青の世界に、白い海が地平線まで続いている。海のように波は立っていない

完全なる静穏。僕はその白い海にいる。ゆりかごのように、軽い振動が体に伝わってくる

居心地が良かった

明るいのに太陽が見当たらない

ここが天国ってとこなのかも知れない、と思った

ふと手前に見覚えのある機器が並んでいることに気がついた。足の間には操縦桿がある

あぁ、そうか。僕はコクピットにいるのだ

戦闘機で天国に行くなんて、聞いたことがないな

パイロットはこうなのだろうか

昔の映画かなんかで、天使が迎えに来ていたのを思い出した

あれよりは、僕はこっちの方が好ましい

操縦桿を引いてみる

反応がない。ハイドロは異常なし

反応がないところをみると、計器が狂っているのかもしれない

遠くで何か光った

2時の方向

じっと目を凝らす……ミサイル

ミサイルだ。どこから撃ってきたのか、敵は見えなかった

とっさに舵を倒す

反応がない

もうだめだ、当たる

体中から汗がひく

爆発、体が浮くような衝撃

右翼が吹っ飛んだ。激しい振動が続く

さっきまでの安定が嘘のようだ

機体が落ちる

回転しながら落ちていく

遠心力で体が張り付く

エンジンが止まった。凄い勢いで、高度が下がっていく

いつの間にか、地面が見える

これまでか、操縦桿を握り締める

神に祈るように……

いつものコンクリート製の冷たそうな天井が見えた

息が荒い

興奮しているのがわかる

嫌な夢だった

腕時計で時刻を確認する

まだ、7時前だった

嫌な夢から、意識が離脱する

今日は非番だから時間は余裕だった

昨日のようなことがなければ、だけれど

ベッドから出て、机の上にあるコーヒーメーカに豆と水を入れて、スイッチを押す

コーヒーがドリップされる音を聞きながら、昨日のことを考える

帰還後にすぐ会議室に集合がかかった

竹島のコーヒーを飲む時間もなかった程だ

僕と渡辺さんがついた時には、基地のパイロット4人と幹部が3人、既に席に座っていた

佐倉は、3列あるうちの最後部に1人離れて座っていた

暗い部屋のせいか、気分が悪そうに見える

無理もない

僕たちが席に座ってから、すぐに始まった

「最初は、脅しだと思っていました。何度か、緊急出撃は経験していましたし、今回もいつも通りの威嚇的偵察行動だと考えていました」佐倉が、ときどき天井を見ながら、状況報告をする

「警告を出した後に、すぐ混戦になりました。吉田機を先頭に、敵機、自分、敵機という形になりました。最初に、ミサイルロックをされたのは私でした。それから、すぐに目の前の敵をロックしました。脅しに脅しをかけるつもりでした」パイロットは黙って聞いているが、幹部は足を組んで耳打ちをしたりしている。彼らには、責任がどこかにあることを求めている

僕らは、自分が落ちないために、状況を頭に浮かべるのに必死だ

佐倉は続ける

「その後すぐでした。吉田機がロックされ、敵機が撃ちました。テール部分に被弾して、機首を上にして落ちていきました。爆発は確認できませんでした。被弾と同時に私は回避行動をとりました。……以上です」時折、ジェスチャを加えながら佐倉は言った

前席の左に座っていた髭の濃い、いかにも偉そうな幹部が口を開く

「君は、吉田機が撃たれる前に撃ってはいないだろうね?つまり、先に手をだしたわけではないのだろうね?」

「初弾は向こうからです。吉田機含め、発砲はしていません」佐倉は、はっきりとした口調で答えた

「なるほど。それから、つまり、吉田機が撃たれてからは反撃を行ったのか?」横の男が言った

「ミサイルを1発、それから機関砲をいくつか放ちました。いずれも、はずしましたが……」佐倉が応える

「よろしい。では、次の報告を」同じ男が言った

普段は目にしないので、名前がわからない。暗い部屋の中、座りながら佐倉がため息を吐く

僕の横に座っていた渡辺が、こちらを見て顎を前に突き出して、発言を促してきた

パイプ椅子を床にすりながら、僕は席を立つ

「佐倉機を追っている敵機の注意をそらすのが先決事項でした。佐倉少尉が話したように敵機に損傷は確認できませんでした。2手に分かれた敵機をこちらも、別れて追撃しました。この時、佐倉機が離脱に成功しました。それからは、速度を落とし、敵のインメルマンを誘いました。上昇軌道かつ、背面飛行ではこちらに分があると考えたからです」思い出しながら、話していく

パイロット達がさっきよりも真剣な顔をしているように見えた

「敵がピッチを上げ、背面に入る動きを見せてから速度を上げ、一気に距離を詰めました。多少、旋回半径はオーバー気味でしたが、背面からロールで水平に戻ったあと、撃ちました。少し、相手よりも上の位置でした」僕は、両手を使って軌道を表現しながら話した

席に座る

渡辺がダラッ、と立つ

「相手を下に追い込んでいった。最初の右旋回中に相手が減速ミスをして大きく膨らんだ。すぐに敵機の上の優勢位置を取った。機首を上げてきたので、すぐに終わらせられた。気を付けるべきだったのは、フェイントからのストール、それだけだった」手短に言った

ストールか、確かに僕の相手も背面と見せかけてストールにいれてきたら、僕は追い越してしまったかもしれない

そしたら、形勢は変わっていたかも、と考えた

僕らの後に、最後に司令官の上和田かみわだが話した

「墜落した吉田機は、救援隊が捜索したがみつかっていない。それと、今回の敵はブーゲンビルとは関係がない、という報告が入った。未確認機として、調査中だ。各員、守秘を忘れるな」鋭い眼だった

パチッ、コーヒーメーカのスイッチが切れる

淹れ終わったようだ。仄かに焦げた匂いが、部屋中をつつむ

棚からカップを取り出して、かるく水でゆすいでからコーヒーをいれる

僕はブラックコーヒが好きで、砂糖やミルクはいれない主義だ

座って本を読みながらコーヒーを飲んでいると、飛行機のジェット音が聞こえた

窓から外をのぞくと、エッジが2機飛んでいったのが見えた

きっと定時の飛行だろう

朝日がまぶしい

コーヒーを飲み終えた後、食堂で食事をすませた

食堂では、だれとも会わなかった

それから、宿舎の後ろにある駐車場に行くと、竹島が車の整備をしていた

「やぁ。」僕は声をかける

竹島は、いつもと同じ整備員のつなぎを着ていた

スパナやら、工具がコンクリートの地面にひろげてある

「おはよう。どっかお出かけかい?今日は、天気がいいからね」作業をやめて、機嫌がよさそうに答えた

「あぁ、うん、ちょっと街にでも行こうかな、って。天気がいいし、もう寒くなってきたから、バイクに乗れるのもわずかだしね」僕は彼の2人乗りのスポーツカーを眺めながら言った

「バイクは、今月で終わりだろうな。調子はどうだ?エンジンとかさ。おかしいなら、見てあげるけど」

「いや大丈夫、だと思う。最近は調子がいいよ。竹島こそ、なんか悪いの?」僕は、竹島に尋ねる

「マフラの調子が悪い。それに、クラッチもちょっと。たぶん、劣化が原因。それにマフラは社外性だからかも。まだ、始めたばかりだから何とも言えないな」顔をしかめながら言う

「邪魔して悪かった。それじゃ僕は行くよ」僕は歩き始める

「あっ、今朝は佐倉をみかけた?」足を止めて聞く

竹島は振り向く

「いや、見てないな。何か用事か?」

「……いや、なんでもない。ただ、彼は元気かな、って」足元をみながら答えた

「ありがと、じゃあ」

「あぁ」不思議そうな顔で見られた

僕のバイクは駐車場の入り口側に停めてある

カバーをとると、単気筒のスタンダード型のバイクが現れた

始動方式はキック式だ

バイクにまたがる、キックペダルを思いっきり踏み込む

元気よくエンジンのピストンが動き始めた

一発でかかった

やっぱり、調子が良い

街まで30分くらいでつく

フライトジャケットのチャックをしめて、ゴーグルをかける

スロットルを回して駐車場を出る。低い音があたりに響いた


2.


街の市役所の近くにある、周りよりも古そうなビルの一階に喫茶店がある

暇な時に、行くところだ。店の前の駐車場にバイクが滑り込む

スタンドをかけて、ゴーグルをハンドルにかけた

階段を2段ほど登って、ベルがついているドアを押す

嫌々しく音がなる

カウンタ越しにマスタが軽く会釈してきた。髭が豊かで、知的な雰囲気をかもしだしている人だ

奥のカウンタに座った。フライトジャンパから、煙草を取り出して、口にくわえながら店内を見渡す

客は2~3組しかいないように見えた

静かなジャズのような音楽が流れていて、空気が圧縮されたように店内は静かだった

少し、話し声が聞こえる程度

ふと、視界に手が入った。マスタが、プラスチックの灰皿を置いてくれようと、手をカウンタから差し出していた


「あっ、ありがと」お礼をいって、灰皿を受け取る

煙草に火をつける。一息吸い込む

そういえば、今日は始めて吸うな、と思った。その思いを煙にして吐き出した

「何にする?いつものかい?」マスタは、両手をカウンタにつけて聞いてきた

「いつもので。よろしく」僕は煙草を口から離してから答えた

煙草を一本吸い終わる頃に、コーヒーと、バター付きのトースタが出てきた

コ―ヒは、ブラック。地獄のように熱く、オイルのように黒い

僕好みだ

「今日は1人かい?いつもの、若い男は一緒じゃないみたいだね?」マスタが聞いてきた

「若い男?」同じ言葉を繰り返す

「髪の短くて、元気な男だよ。ほら、この前、一緒に来ていたじゃないか。」マスタは多少笑いながら言った

「あっ、犀川のことですか?今日は一緒じゃないです。そんなに一緒にいるイメージがあります?」僕は首をかしげた

若い男といっても、3つしか変わらない、24の男を十分に若いといえるのだろうか

店内は相変わらずの静けさを保っていたが、マスタの小さい笑い声が響く

「そうそう、犀川君だ。イメージ的には、一緒に来ている方が多いなぁ」

「マスタ、彼はいつもビールです。僕はコーヒーを頼むし、たまに頼むのはウィスキ、夜に来る時は確かに一緒ですね。昼間は誘っても来ないし、今日は仕事していますよ」答えながら、コーヒーを飲む

「確かに、そうだね。彼はビールだ。ビールを愛している、とさえ言っていた気がするよ。朝野君は、ビールはあまり飲まないよね?嫌いなのかい?それともウィスキがたまらなく好きとか?」マスタが聞いてきた

「ビールは嫌いじゃありません。ただ、苦手です。この違いはあまり分かってもらえませんが……。それに、アルコール自体が強くありませんし、ウィスキが好きなのはコーラで割れるからです」笑いながら答える

コーヒーは順調に減っていく

「なるほど。つまり、コーラ好きから生まれる、ウィスキ好きか」マスタが、くだらない内容なのに、考え深く言う

「いえ、正確にいえばコーラより、コーヒーです。けど、コーヒーで割る酒はないですから」僕は答える

「コーヒー、もう一杯どうだい?」マスタが聞いてきた

ちょうど、トーストも食べ終わったところだった

「あっ、じゃもう一杯頼みます。」答えてから、煙草を箱から取り出した

マスタは、空の食器を片づけてカウンタの奥に入って行った

煙草を口にくわえたとき、ドアのベルが鳴って小太りの眼鏡の男が入ってきた

店内を見渡すことなく、僕の隣に歩いてきた。あまり身長が高くないように見える

「ここ、座ってもいいですか?」男は、息を荒くして聞いてきた

「席、他にあいていますが?別にかまわないですけど」煙草に火をつけてから、注意深く答えた

眼鏡の太った男は、軽く礼をしてから座った

「いらっしゃい。」と男に言ってから、マスタは僕にコーヒーをだした

「どうも。」僕は煙を出してから、お礼を言う

コーヒーは相変わらず熱そうで、もうちょっと煙草を吸っておこうと思った

「あの、トール基地のパイロットの方ですよね?」男は、僕を観察しながら言った

「……どこから、そう思うのですか?」質問に質問で返した

バツが悪い証拠だ

「フライトジャンパ、き、着ていますし…。」男は息荒く、言ってきた

「フライトジャンパぐらいどこでも売っていますよ。そこの近くのデパートにもあった気がします。」軽く微笑みながら答えた

男が口を開きそうな時に、違う声がそれを制止した

「何にしますか?」マスタが男に聞いた

いいタイミングだったので、コーヒーを一口飲む

相変わらず美味い

「じゃぁ、あの、カフェオレで。」マスタは下がっていった

男がまたこちらを向いて口を開いた

「実は前に一度、き、基地の航空祭で見かけたことがありまして……。私は、新聞記者です。よろしくお願いします」

そう言いながら、スーツの胸ポケットから名刺を出した

名前だけが大きい字で書かれている

沢木和見、という名前らしい

「僕は名刺をもっていないので、失礼ですが、いただけません。すみませんね」僕は、軽く頭を下げた

「いえいえ、かまいません。さっそくなんですが、この前の事件について聞きたいのです。1人亡くなった、という情報は、確かですか?」沢木という男は、名刺をしまいながら突拍子に聞いてきた

目はこちらの反応を確かめている。自分の弾が当たったか、見届けているような目だ

「事件?いえ、知りません。」煙草を取り出して火をつけた

国境での事件や出動に関しての情報は機密なはずだ

この男はなぜ知っている。ここに来たのも偶然なのだろうか

「本当ですか?正確に言うと、3人、なんですが。な、亡くなっているのは、3人です。ご存知ありませんか?」相変わらず、息が荒い

興奮しているせいか、顕著になってきた

「この国で、3人亡くなっている人がいるんです。昨日だけで、3人です」

「いえ、知りません」煙を吐いて、答える

目の前のコーヒーは、冷めてしまっているだろう

マスタが、戻ってきた

「どうぞ」カフェオレをカウンタにだした

それを見て、僕は立ちあがりながら煙草を灰皿に押しつける

「それでは、失礼します……。マスタ」カウンタにお金を出して、入り口に向かって歩く

マスタはただ、うなずいただけだった

「あっ、ちょっとまだ、聞きたいことが……。あの、何かありましたら連絡ください」男は後を追ってきて、名刺を無理やり渡してきた

「たぶん、そんなことないと思いますが。それでも?」手にした名刺を沢木に出しながら言った

「えぇ、構いません。また、あ、会う機会があると思います」眼鏡の小太りの男は、おおげさに頭を下げてきた

僕は、何も言わず店を出た。日は沈みかけていて、道路が反射して光っている

バイクに跨って、キックペダルを踏む

気持ちを代弁するかのように、反応がなく、静かな音でくすぶっているのが聞こえる。3回目でようやく始動した

ゴーグルをかけてから、店を見る

「ブルースカイ」と書かれているはずの、店の上の看板が反射して見えない

ガラス越しにあの男が見ているだろう、と思った

アクセルを回して、気持ちいい音を響きだしながら、光る道路に滑り出る

近くによると、光は消えていった


3.


しばらくして走ってから、基地へ続く田舎風の1本道に入った

平坦な道が、頭の回転を無駄に速くする

なぜ、あの男はあの情報を知っていたのだろうか

いや、まぐれかもしれないが……

確か、3人と言っていた。消耗は、1人だ

間違っている

そこまで、気にかけるほどでもないか、と考えて思考を停止した

そのうちに、基地のゲートの灯りが見えてきた

「貴博、どこに出かけてきたんだ?」宿舎の談話室を通りかかると、犀川に話かけられた

他に、竹島がいた。手にはビールの瓶を持っていて陽気そうに見える

明らかに酔っている

「街までコーヒーを飲みに行ってきた」僕は、空いているソファに座る

談話室は、宿舎を入ってすぐだ。この部屋を通り過ぎるとパイロットの個部屋があって、整備員や事務の人たちの宿舎は、この建物の横にある

長方形の丈の低い机を囲むようにソファがならんでいて、僕は玄関の扉を背にするように座っていた

目の前の犀川が、机の上にあるビールをこちらに置いてきた

「あぁ、僕はいいよ。」僕は手の平をだして、遠慮した

酔いたい気分ではない

「で、吉田についての連絡はあった?」僕は2人に聞いた

犀川は、竹島を見て2人でアイコンタクトをした

「死んだよ。今日、正式に殉職という形になった。遺体とかの情報は聞かされてない。これももちろん、機密なんだろうな」犀川は、酔っているわりに流暢に言った

犀川もパイロットだから、吉田のことは知っているはずだ

ただ、本来あまりパイロットは社交的でない生き物が多いみたいで、僕は吉田とは話をしたことがあったか、曖昧なほどである

犀川はどうなのかはわからない

「海流があって、だいぶ流されちまうからな。それに、墜ちるときに電気系統がやられたらベイルアウト(*脱出のこと)は限りなく無理に近い」竹島は、ビールを飲みながら言った

「運が良ければ、外に出られる。そして、運が良ければ生還できる」犀川は笑って言った

「一生、神に祈ってもそんな幸運ありゃしないな。」竹島も、犀川ほどではないが笑って言った

確かに。僕もそう思う

「けど、死のうとしてる人にとっては最悪についてないね。それに、相手からしても。殺そうと思っているのに相手が助かったらついてない。幸運も不運も結局、個人的なものでしかない。神は全体的だとしても」僕は言う

「まぁ、もともと神は信じていない。パイロットはたいていそうじゃないか?」犀川は言う

「少なくとも、僕と犀川だけじゃないかな。他は知らない」笑って答えた

僕は、ポケットから煙草をだして火をつけた

彼らは、いいペースで瓶を空けていく。腕時計を見たら、時刻は七時を過ぎたところだった

「そういえば今日、整備士の連中の間で転任の噂が流れていたよ。誰か、この基地に来るそうだ」竹島が思い出したように、急に言った

「パイロットか?」犀川が身を乗り出して聞いた

「確か、パイロットって言っていたな。本当かは、わからないけど」竹島は瓶を空けながら言った

きっと、吉田の代わりだろう

犀川と竹島はまだ飲んでいるので、一人で部屋に戻った

帰るときには、引き留められたが、素面では付き合えなくなってきたので逃げてきた

夕飯を簡単に済ませて、煙草を吸いながら部屋で本を読んでいると、ドアがノックされた

小さい、控えめな音だった

ドアを開けると、佐倉が立っていた

「遅くにすまない。今、あいているかい?」佐倉が言った

「あぁ、大丈夫だよ。どうした?……立って言うのもなんだから、とにかく入れよ」僕は彼を椅子に座らせて、自分はベッドに座った

「煙草は吸っても構わない。僕も喫煙者だから。あと、コーヒーでもどう?」僕は、佐倉に聞いた

「すまない。」佐倉は一言ですませた

数分でコーヒーをいれて、彼に渡す

沈黙を破るために僕から声をかけた

「で、何か話でもあるの?何もなし、とは見えないけど」彼は、苦笑いをした

「朝野はなぜ闘う?いや、なんで飛んでいるんだ?」彼はそう言ってきた

驚いて、コーヒーを飲むのをやめた

「僕は、空が好きだから。それに、付加価値で闘っているだけだと思っている」

「それで、墜とされたとしてもか?」佐倉は、間髪入れていった

「……好きなように生きれれば、しょうがない」多少、口調を強くした

「そうか。うん、そうだな。俺も空は好きだ。ただ、……敵に追いかけられるのは恐ろしかった。吉田は……」彼は言葉を詰まらせた

「パイロットはいくら編隊で飛んでいたとしても、孤独なんだ。そして、それを求めていると思う、本音ではね。佐倉はそう思わない?勝者でありたい。空を独占したい、って気持ち。吉田は墜ちた。君のせいではない」僕は考えてから、ゆっくり話した

佐倉は、しばらくの沈黙の後に、僕を見てうなずいた

「コーヒー美味しかった。あと、すまなかった。できたら、この件は忘れてくれ」佐倉は立ちあがってから言った

「問題ないよ。それに、僕は記憶力に自信はないから」笑いながら答えた

「ありがとう」彼は一言残して、部屋を出ていった

出る時も静かだった


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ