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1.幕開け  the dawn of the fight

まだ不慣れですので、ご容赦ください。


1.


夜の暗い部屋中に騒音が響いた

スピーカから、感情を抑えきれない声が響く

「距離72マイル、未確認機を2機確認。繰り返す。未確認機を確認」

スタンドライトをつけっ放しに、それに飲みかけのコーヒーも机に残して、部屋を飛び出した

すでに、隣の部屋のドアは開いている

「ちっ、遅れた」悪態をつく

宿舎を出ると、格納庫に向かって走る影が見えた

格納庫までは宿舎から、走って3分もかからない

走っていると、奥の滑走路から轟音を立てて2機離陸していった

待機組の連中だ。アフターバーナで飛行機に光の尻尾が生えたように見える。あっという間に見えなくなった

待機の連中は、格納庫内で当直なので行動が早いのだ

息を切らして、格納庫のシャッタをくぐる

「遅いぞ。30秒も遅刻だ。」竹島が声を張り上げて言った

慌ただしく、何人かの整備員が整備をしている

「30秒しか、だろ。いいから、メットをくれ」コクピットへの梯子を登りながら言った

「装備は?」

「ワーム(*短距離ミサイルのことを表す)4発、機関砲200の増槽なし。燃料に注意しろ」ヘルメットを渡しながら竹島はまくしたてた

コクピットに入って、座りなおしながらヘルメットを被る

ヘルメット内のスピーカから無線が聞こえた。管制塔からの声が聞こえる。ベルトを締めた

「朝野、幸運を祈る」コクピットの横にいた竹島が敬礼をする

これは、一種の儀式だ

「了解。コーヒー淹れて待っててくれよ」僕は笑いながら言う

梯子をもって竹島が離れていく。整備員が一人誘導棒を持って目の前に立った。シャッタが開く。きぃきぃと音を立てて視界が開けていく

キャノピィを降す。エンジン始動と共に、軽い振動。出力ドライのまま、控え目な音を立てて滑走路に移動する

周囲を見渡すと、隣の格納庫からも同じヘッジホッグが出てきた

ヘッジホッグとは、この基地の戦闘機だ。双発の高出力のエンジンと、軽量の機体と大きな翼による高い旋回能力が特徴だ

圧倒的なエンジン出力で優位な位置にもっていける

この基地には、この機体と単発のエッジという飛行機しか配備されていない。

横から出てきた機体は、ウィングマンの渡辺だった。

「アサノ、聞こえるか?」無線から渡辺の声が聞こえた

「聞こえます。良好」僕は答える

「同じく、良好」

機体はゆっくりと滑走路に向かう。途中、竹島を含めた整備員にコクピットから敬礼をする

キャノピィに、少しビビっている自分の顔が反射して見えた

先遣隊が、未確認機を視認したようだ。滑走路に待機していた僕らに無線が入った

「未確認機を確認。時速800キロ、高度1万2千。敵味方識別コードを発信中」

「未確認機は単発、目視で二機を確認。後続機は確認できず。12時の方向。向って航行中」

「識別コード反応なし。未確認機の左翼から接近、後方をとる。」無線の声が耳元で激しく聞こえる

声は聞き覚えがあった。きっと、佐倉と吉田だろう。あまり、仲は深くない

ただの同僚といったレベル。どうやら、彼らが待機組だったようだ

ついてないが、ついてないだけの手当てがつく。割には合っている、と僕は思っている

エンジンを馴らすために、たまにスロットルを回してやった

「上がったら、右後方につけ。ベースを右に。後は俺の指示に従ってくれ」渡辺が無線越しに言った

「了解。中尉の指示に従います。ベースを右に、バックアップします」応答する

そのやり取りのすぐに、ピーピーと音を鳴らして緊急連絡が入った

「未確認機、当機をレーダロック。交戦許可を。交戦許可を」

「佐倉機がレーダロックされている。未確認機の撃墜許可を。管制、撃墜許可を。当機の後ろに一機。もう一機は、佐倉機の背後についている。戦闘許可を」無線を聞く限り、かなりまずい状況だ

「撃たれるまで反撃はするな」管制からの指示が飛ぶ

「渡辺・朝野機、離陸許可。ブルーサイン」管制から、ゴーサインが出た

横の渡辺とハンドシグナルを交わす。先に渡辺が、轟音をたてながらかなりの加速度で発進した

渡辺機が視界から離れていく。離陸を確認してから、エンジンスロットルをフルにする

アフターバーナにいれる。体が途端に、座席に張りつく。耳には轟音が響く

胸に圧迫感

座席に体が張り付いていく

速度が上がっていき、機体が地面を離れたいと言ってくる

振動

エレベータを引く、両足でラダーを操作。左右を調整、タイヤが地面をじわじわと離れた

高度をとって、タイヤを格納。操縦桿を上げ、さらに上昇。どんどん地面から遠ざかる

空へと、雲を抜けて、重力を振り切っていく。先に上がった渡辺が、翼を振っているのが見えた

僕を待っているのだ

スロットルを戻して、先ほどの指示通りに右翼につく。渡辺機よりやや上だ。雲を抜けてしまえば、地面にあった灯りなどない。灯りと言えば、夜空の星や月、飛行機の赤色灯くらいだ。他には何もない

舵具合からすると、無風に近いだろう。最高のフライト日和だ。風があると、進路修整がややこしくなる

多少ではあるが、軌道にも影響する

それに、着陸の時に横風を受けるのは、たまったものじゃない

レーダーを見ると、機影が4機。まだ、攻撃はされていないみたいだ

そんなことを考えながら、上空を中心に目を凝らす

最近のレーダーは進歩したが、上空や低空域などの高度条件、機体同士の距離によって探知できないときがある。やっかいなのが、機体数の間違い。視認してから、まずいことになる

この高度なら、来る可能性があるのは上空だ。それに、目を慣らすこともできる

現場空域が近くなってきた

ピーピー、また緊急無線だ

「被弾。エンジンストップ。メーデー、メーデー」

「吉田機が撃墜された。反撃行動に移る。応援求む。頼む、応援求む」

そのちょうどに、機影が3つになった

「聞いたか?全速力で向かう。武器管制を解除しろ」渡辺は、いつもよりも低い声で言った

「了解。距離をとる」渡辺機と距離をとった

「未確認機を敵機と識別せよ。ブーゲンビル共和国の可能性ありとの情報が回された。注意せよ」管制からの無線がきこえた

ブーゲンビルと言えば、西の海を挟んだ隣国だ

確かに、トール基地から一番近い国ではある。可能性は高いはずだ

しかし、僕らにはあまり関係がない。誰であろうと、どんな奴だろうと、敵であれば、排除しなければならない。それしか、考えていない

降りかかる火の粉は払うのが当然。誰だってそうだ

相手を考えるのは、いつも後方の人たち

僕らパイロットには関係がない

空の世界では落ちていった奴も関係がない

飛行機じゃなきゃ空にはこれない

重力にひっぱられてちゃここにはこれない

落ちることは、それは劇のステージから降りることと同じだ

スポットライトはあたらない

「あと少しでつく。持ちこたえろ。南東の方角から接近。佐倉、もちこたえるんだ」無線で渡辺が声をかける

応答はなかった。きっと、混戦になっているはずだ

2対1は、なんとかなる比率だ

圧倒的にはやられない

「吉田は大丈夫かな?」僕は聞いた

「さぁな、運がよければ助かってる。下は海だしな。それはそれで、ついてないかもしれんが」

「海ならなんとかなる。少なくとも、山よりはいい」

「山?それなら安心しろ。ここら辺は海だけだ。落ちたら、久々の海水浴ができるぞ」笑って渡辺が言う

上司が部下を気遣ってのジョークかもしれない

あまり笑えない

前方に見えてきた

光が3つ。かすかに見える黒煙

閃光の筋が時々見える

下から割り込むように、上昇しながら近づいていく



2.


佐倉機のヘッジホックと二機の単発機の間を上空に突き抜けた

すれ違いざまに状況を読み取る

洞察力は、この職業で一番大事なことだ

敵機は小型の戦闘機。デルタ系の翼で、垂直尾翼が1つ

小型の機体は運動性能が高いのでやっかいだ。佐倉機は無傷に見える

渡辺機とともに右に旋回

かすかに見える黒煙は下に伸びている

吉田機の軌跡にちがいない

無線が入る。ノイズが凄い

きっと相手の無線と干渉を起こしている

「やっときたか。現在、被弾なし。燃料がやばい。早くなんとかしてくれ」佐倉の焦る声が響く

旋回中にも、状況を確認する

この距離でのレーダーは、使い物にならない

見失ったら途端に不利になる

佐倉機は、左右に回避行動をとっている。ロール、右にバンクして旋回

上下の動きと360度のバレルロール

いい腕だ

「合図する。佐倉、下に緊急回避しろ。背面にいれて、一気にいけ」渡辺が言った

旋回は、すぐに終わる。相手の後ろについた。敵機の反応は早い

佐倉機を追撃していた機は右にフルバンク、急旋回していく。もう一機は急上昇

「ブレイク(*緊急回避行動のことを表す)だ」渡辺が歯切れよく言った

佐倉機が、背面で急降下していく

「上を追え。俺は右をやる。最適の健闘を」渡辺の指示

「幸運を」短く答える

渡辺機は右に急旋回していった

仲良くの編隊飛行も終わりだ

スロットルを開く。操縦桿を徐々に引いていく

佐倉機が、離脱していくのが見えた

相手は、どんどん上昇していく。だんだんピッチが上がっている

このまま宙返りに、はいるつもりだろう

相手の速度、動きに注意する。親指を立てて、ミサイルの準備

キャノピィの前面のディスプレイに敵が入れば、ロックできる

しかし、ワーム(*短距離ミサイルのようなものを表す)は、熱探知式の兵器だ

相手のジェットの排気の熱を感知して飛ぶ。距離が離れていると途端に命中精度が落ちてしまう

高度があると、太陽の光に間違って飛んでいくこともある

この距離では無理だ

相手はさらに機首を上げた。相手に気づかれないように、スロットルを絞る

エアブレーキは使わない。失速

この軌道からは、宙返りか、インメルマン以外では切り返しは難しい

どちらかで来る。反撃を狙っているはずだ

相手もこの機体の馬力を見ている。このままのスピードでは仕掛けてこない

ガタガタと、機体が軽い微動。失速のせいだ

相手が機首を上げた。背面に入る

そのタイミングで、一気にスロットルを上げる

エンジンが、元気よく吹き上がる

一瞬の加速。距離をつめる。軌道を追う。相手が途中でロール

機体が水平になる

インメルマンだ

すぐに、僕も背面からロールして、水平に戻る

世界が回る

距離を一気につめた

相手の挙動がぶれている。慌てているようだ。この距離は完ぺきだ

失速からの加速では、機体の馬力がものをいう

上昇ではなく、下にいれるべきだ。少なくとも僕が、あの機体ならそうするだろる

降下なら、馬力の影響は少なくなる。馬鹿な奴だ

ディスプレイに相手の機体が入る。画面上の赤い円が、相手を追う

捉えた

右手の親指でボタンを押す

機体の右翼から鮮やかな光

光の筋が、敵機をめがけ飛んでいく

相手は、フレア(*光の球の様なもの)を出しながら、右に急旋回しようしている

間に合わない

閃光、爆発、音と振動

左にバンクする

旋回しながら相手を見る

翼の一部らしきものが、フラフラと落ちていった

すぐに回りを見渡す。ロールをして下も確かめる

レーダーには機影が1つ。渡辺機か敵機かわからない

「中尉、応答を。目標を撃墜。繰り返す、目標を撃墜」周囲を見渡しながら問いかける

「見つけた。合流する。」下から上がってくる機体が見えた

無事のようだ

敵の後続機の機影もない。管制から帰還せよ、の指示

2機で帰れることは嬉しいことだ

佐倉は1人で帰って行ったが、行きの人数が減ると取り残された気分になる

落ちていく方が気分的には楽かもしれない。けど、落ちたら飛べない

横に渡辺機が現れた

「損傷は?」渡辺が業務的な口調で言った

「何もなし。そっちは?」

「なしだ。」短い応答。無言の状態が続いた

しばらくして、基地の灯りが見えてきた。燃料は残り20パーセント

ぎりぎりでのお帰りだ

着陸する時になって、吉田の顔が浮かんだ、が良くわからない

輪郭があいまいだ。どんな奴だったかも

無事だろうか

タイヤを出す。スロットルを絞る。出力ダウン

エアブレーキ。ラダーを操作

ガシュッ、とタイヤが接地する音

それを聞いた頃には吉田の存在は僕の意識から消えた



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