俺と写真屋
『楽しいのは一瞬だけだ。あとは永久の苦しみだけ』
オレンジ色に染まった商店街の真ん中にあった写真屋と、そこに住む写真屋のおっさん。
『それでも俺は……いや、だからこそ俺はレンズの向こうにあるその一瞬の輝きを残すんだ』
商店街の真ん中にあった今にも壊れそうなボロ写真屋。
その中でおっさんは誰よりも楽しそうにカメラを構えながら笑っていた。
『俺は死ぬまで写真を撮っていたいね』
……馬鹿だよな。本当に馬鹿だ。おっさんは死ぬその瞬間まで写真を撮り続けていたんだからな。
『オラ笑いやがれ。テメーの辛気くせー顔なんざ撮っても仕方ないんだ。笑ったら笑ったぶんだけ幸せになれるんだぜ、なんつってな』
友達が事故で死んだのに笑えるわけないだろってあの時は思ったさ。でもあの時、俺はあんたに救われたんだよ。あんたがいなけりゃ今の俺はないんだ。
『一瞬だ。被写体が「俺を撮ってくれ!」つって輝くのは一瞬だけ。もしお前が写真を撮る機会があるならこれだけは忘れんな』
片時も忘れたことはないよ。俺の座右の銘ってやつだからな。
あんたが死んでからいろいろ考えたよ。
俺はあんたに憧れていた。
どうしようもない位写真が好きで、馬鹿みたいな笑顔でたくさんの人を幸せにするあんたの生き様に憧れたんだよ。
俺は写真家になった。あんたみたいに写真を撮りたかったからな。
でもやっぱり難しいな。
個展を開いたし、何冊か本も出した。
でもあんたには全然届かない。
俺はまだあんたみたいに人を笑顔にする写真は撮れないぜ。
でも、いつかはあんたを越えてみせる。
馬鹿みたいな笑顔で写真を撮り続ける。
あんたみたいに写真を通して人を救ってみせる。
そして最後は、あんたみたいに写真を撮り続けながら死にたいな。
天国であんたに会えたなら、今度は俺があんたを撮ってやるよ。
おっさん。
おっさんが生きている間は恥ずかしくて言えなかったけど、今なら言える。
ありがとう。あんたの写真は……最高だよ。