オーバーラップ―誰かと同じ夜
―彼の夜
深夜のコンビニに、何気なく立ち寄った。
そこが、最初に出会った場所だった。
ホテルに行くでも、飲みに行くでも、いろいろ選択肢はあったけど、
家に連れ込んで、ただ二人で眠った。
手は繋いでたんだっけ。
そもそも、なんでそうなったのか、今でもよくわからない。
ただ、欲とは少し違う何かがあった。
翌朝、目が覚めると変わらない自分の部屋で、
なんとなく朝ごはんを二人分用意して、
当たり前みたいに二人で食べた。
それから、ぼんやり付き合い始めて、
旅行も行ったし、誕生日だってお祝いした。
どれくらい経ったころだったか、同じ大学の先輩が彼氏と別れたって聞いた。
先輩のこと、好きだったんだよなぁ。
でも、彼氏がいるからって諦めてた。
先輩と一緒に、いろんな場所に行ったっけ。
「先輩には彼氏がいるから」って諦めたのに、
俺には、彼女がいるままだった。
先輩と過ごすようになって、何日か経った後、
突然、家のドアが開いて、彼女が入ってきた。
なんて言ってたかは忘れた。
ただ、泣かれて、怒られて、そのまま出て行った。
カウンターの写真。
夏の写真だったかな。
めっちゃ笑ってるなぁ。
今度捨てるか、いや、謝るか……
写真を見ると、やっぱり「ごめん」って思う。
ただ、本気になれなかったんだよ。
俺も悪いんだろうけどさ。
今日の夜は考えよう。
多分、まだ何も決まらないけど。
⸻
―彼女の夜
いつも、なんだかふわふわしてる。
どっちつかずで、時々頑固に「あれがいい」って言う。
なんだか、猫みたいな人。
身長はあんまり高くない。
顔は……まあまあ、かっこいいかな。
どこが好きって言われても、
答えられないけど、面白い人。
そもそも、好きな理由があるより、ない方がいい。
そしたら、代わりは見つからないんだから、理由はなくていい。
そんなふうに思ってたのに。
先輩なんだってね。
聞いちゃったよ。
私はさ、運命だと思ったんだよ?
あの時、コンビニで話しかけてくれたでしょ。
私だけだったの?
違うよね?
そっけないのは、元からじゃなくて、
私に冷めたからなの?
ぐちゃぐちゃの思いで家に向かって、
最後には「さよなら」なんて……。
私、そんなこと言うんだ。
ちょっとカッコいい?
そのまま家を飛び出して、
歩き疲れて、考え疲れて、
知らない公園のベンチに座った。
子どももいない、静かな公園。
少し落ち着いたかと思ったら、
今度は、だんだんイライラしてくる。
LINEで、みんなに報告する。
「別れた」
すぐに返ってくるメッセージ。
他人の不幸は蜜の味?
そんなこと、思っちゃう私。
私も悪かったのかな。
謝っても許すもんか。
でも……わかんない。
もう、わかんないよ。
⸻
―友人の夜
スーパーで、カップ麺とお菓子をたくさんカゴに入れる。
普段通りで、何も変わらない。
そこに、突然スマホが鳴る。
「別れた」
「えっ」って、小さく声が出る。
こういう時のマニュアルは決まってる。
とにかく慰めること。
とりあえずLINEで話を聞いて、
その後は、カラオケか居酒屋。
どうするか……。
お菓子売り場で立ち止まる。
少しお腹も空いてるし、
居酒屋行く方向で進めるか
グループLINEに送る。
「いつもの居酒屋で話聞くよ」
少し軽すぎかな。
まぁ、大丈夫か。
その後、裏で作戦会議。
「結構、本気だったよね?」
「今日は、私たちで奢りにしよ」
「え、私いまお金ないよ?」
いつもの旅行が嘘みたいに、
サクサク話が進んでく。
なんか、ちょっと羨ましいな。
別れてすぐに、慰めてもらえて。
つらいことなんて、私もいっぱいあるのに。
でも、わかってる。
そういうことじゃないよね…
気持ちを切り替えて、集合時間に合わせて向かう。
居酒屋に入ると、
さあ、作戦開始。
まずは、ビールかハイボール。
こんな大事な時なのに、
バイトは新人。
注文取るの、遅いなぁ。
確認なんて、しなくていいよ。
こっちは忙しいんだから。
ハイボールが来て、店員も下がる。
やっと始められる。
こっから大変だなぁ。
私も、本当は慰められたいよ。
今度は、私を主役にしてね?
それが言えないのは、
親友じゃないから?
そんな気持ちを、ハイボールで流し込む。
「私、ハイボールおかわり!」
⸻
―新人の夜
やっぱり、向いてない。
てか、なんだよこの機械。
スマホかタブレットにしろよ。
注文聞いて、
酔っぱらいどもの相手して。
時給も低い。
家庭教師、続けとけばよかった。
まぁ、先輩、可愛いし、優しいし。
てか、俺にだけじゃね、優しいの。
「先輩、彼氏とかいるんすか?」
……おっ、いないんだ。
マジで、俺いけるんじゃね?
「なんか、好きなものとかあるんですか?」
「あー、それ、俺も知ってますよ」
とりあえずで話を合わせる。
こういうの、恋愛の基本なんだよ。
「へー、映画やってるんだ」
これはチャンスだな。
「じゃあ、今度一緒に観に行きません?」
返ってきたのは先輩からの、冷たい目線。
冷たい言葉。
あー、ミスったな。
前のことを思い出しながら、血の気が引いていく。
俺、やっぱダメだわ。
無理だ。
⸻
―先輩の夜
新人のあいつ、
なんか勘違いしてるよなぁ。
そりゃ、新人には優しくするだろ。
店長に怒られるんだから。
ちょっと優しくしただけなのに、
距離詰めてきて、正直きつい。
バイト終わりのコンビニで、
そんなことを思う。
……ダメダメ。
切り替えなきゃ。
甘いドーナツとコーヒーを、セブンで買う。
バイト終わりのルーティーン。
ドーナツをかじりながらぼーっとする。
夜の公園で、ひとりぼっち。
夜空を見上げたら、月が浮かんでる。
丸くもない、うすーい月。
あいつは、みんなのこと見えてるのかな。
黙って見てるだけで、ずるい。
……いや、ちょっと違うか。
「あなたはどんな気持ちなの?
こっちはみんな、大変なんだよ?」
なんて、人じゃないのに言ってもね。
ドーナツみたいだなって思う。
ちゃんと丸く繋がってるのに、
真ん中が、ぽっかり空いてる。
でも、丸いドーナツもあるよね。
穴がなくて、クリーム詰まってるやつ。
今度は、そっちにしようかな。
⸻
空気は澄んでいて、街は明るい。
夜空に浮かぶ月が、ただ人々を見つめている。
来週は、新月らしい。




