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片角の君へ  作者: 葉柚
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結界の選択

結界は、壊れなかった。

 それが、橙佳にとって最初の異常だった。

(……抜けた、のではない)

 術式盤に浮かぶ紋様は、乱れていない。

 亀裂も、反発も、暴走の兆候もない。

 むしろ――整っている。

 結界の輪郭が、一段、縮んだ。

 守るための円が、役目を終えたかのように、静かに形を変えている。

「……通した、のですね」

 誰に言うでもなく、橙佳は呟いた。

 拒絶されたのなら、結界は軋む。

 力で押し破られたのなら、必ず傷が残る。

 だが今起きているのは、そのどちらでもない。

 結界が、選んだ。

 橙佳は、袖の内で指を組む。

 冷静さを保つための、長年の癖だった。

(龍血が、自己判断を始めた)

 想定より、早い。

 だが、想定外ではない。

 術式の奥、最深部で、ひとつの符が静かに失効する。

 “遅延”のために組み込んだ層だ。

 それが、誰にも壊されず、正しく終わった。

 橙佳は、短く息を吐く。

「……第一境界、突破」

 声に出して確定させることで、次の段階へ移る。

 視界の端で、翠が走ってくる気配がある。

 だが、まだ声は掛けない。

 今は、判断が先だ。

(琥珀は――連れ去られたわけではありません)

 その認識だけは、譲れなかった。

 呼び戻しは、暴力ではない。

 血と、地脈と、存在の整合だ。

 だが同時に、個の意思を置き去りにする力でもある。

 橙佳は、術式盤に手をかざす。

 深層の反応が、確かに“応答済み”に変わっていた。

 還りは、始まった。

 途中で止めることは、もはやできない。

「……次は、こちらの番ですね」

 声は静かだが、その奥に覚悟が宿る。

 完全な回収に至る前に、“戻る道”を残さねばならない。

 橙佳は、結界の残存層を書き換え始めた。

 守るためではない。

 追うための結界へ。

 誰にも聞こえないよう、低く言葉を落とす。

「あなたが選べる場所を……必ず、用意します」

 結界の中心が、わずかに明滅した。

 それは、越境が確定した合図だった。

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