表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
片角の君へ  作者: 葉柚
12/21

血脈

血脈

 玉座は、静かすぎる。

 かつてこの場には、幾重もの龍気が満ちていた。

 今は、私ひとり。

 ――静寂は、王にとって友ではない。思考を深く掘り下げてしまうからだ。

 琥珀。

 その名を思うたび、胸の奥が軋む。

 百年前、あの子は黙って消えた。怒りがなかったと言えば、嘘になる。だがそれ以上に――恐怖があった。

 龍神族は、血で繋がる。力も、寿命も、記憶さえも。それは誇りであり、同時に呪いだ。我が血を引く者が、異族の地で成龍を迎える。その事実は、王として看過できぬ。龍は、龍脈の上で成熟してこそ完全となる。血の流れが外れれば、力は歪む。

 ――否。

 歪むのは、力ではない。

 “継承”だ。

 龍王の位は、単なる地位ではない。龍神族全体の均衡を束ねる“核”である。

 次代の王が不在となれば、血は割れ、派は争い、やがて族は滅びへ向かう。

 私はそれを、見てきた。

 先王の時代。正統な継承者が力を失い、王位を巡る争いで、三つの龍脈が潰えた。

――二度と、繰り返させぬ。

 琥珀は、適格者だ。純度の高い血。均衡を保つ資質。感情に呑まれぬ理性。――そして、優しすぎる。

 それが、最大の不安だった。

 鏡の谷で見たあの眼。 守る者を得た龍の眼だ。

 あれは、王の眼ではない。“誰かのために力を捨てる者”の眼だ。

 龍王は、選ばねばならぬ。

 時に、千を救うために一を切る。

 だが、父としては――その役目を、子に背負わせたくはなかった。

 だから、連れ戻そうとした。

 説得で。力で。言葉で縛れぬなら、環境ごと奪う覚悟で。

 それが、正しいと信じていた。

 ――だが。

 橙佳というあの者。彼女の言葉が、胸に残る。

「選ぶ力を与えることが、育てること」

 愚かな理想だと、一笑に付すこともできた。

 だが、できなかった。

 何故なら、私自身が、“選ぶ自由”を与えられぬまま、王になったからだ。

 琥珀は、まだ知らぬ。

 龍神族の血は、一定の周期で“呼び戻し”を起こすことを。

 成龍から数百年。王の血を引く者は、否応なく龍脈に引かれる。それを拒めば力は暴走し、存在が摩耗する。

 私は、それを止められる唯一の存在だ。

 だから焦る。

 時間は、味方ではない。

 もし、あの子が完全に“守る側”を選べば、王の器は砕ける。

 それでも、――それでも、私は父だ。

 猶予を与えたのは、情ではない。覚悟を試しているのだ。

 琥珀が、“捨てられる者”なのか。それとも、“背負い続けられる者”なのか。

 玉座に、ひびが入る。

 王としては、失格かもしれぬ。だが、父としては、まだ、手放せていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ