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片角の君へ  作者: 葉柚
10/21

数で語る刃

朝の空気は、妙に澄んでいた。

 嫌な予感ってのは、こういう時に当たる。

 里の見張りが、無言で一通の書簡を差し出した。

 封は白。

 龍神族の正式な紋。

 予想通りだ。

 俺はその場で封を切った。

 中身を見た瞬間、舌打ちが漏れる。

「数字、数字、数字……」

 感情の欠片もねぇ。

 謝罪も、威圧もない。

 ただ、整然と並んだ条文と数値。


・鬼族の里との交易量

・龍神族が関与する流通経路

・過去五十年の協定履行率

・里が依存している物資の比率


 読めば読むほど、胸糞が悪くなる。

 力で殴れねぇから、生活を締め上げに来やがった。

 「……上等だ」

 だが、龍王は抜け目がねぇ。

 最後に、こう書いてある。

 ――本書簡は「警告」ではない。

 ――状況整理である。

 言い換えりゃ、「次は実行する」って宣言だ。

 俺は書簡を畳み、噛みしめる。

 この手の圧は、力で返せねぇ。

 殴り返したら、こっちが“乱暴者”になる。

 そういう盤だ。

 「……橙佳の言った通りだな」

 言葉で縛る。

 正当性で逃げ道を潰す。

 だがよ。

 書簡の最後の一行を見て、俺は笑った。

――琥珀殿の安全は、当方が保証する。

 ふざけんな。

 誰が、誰に保証されるって?

 俺は立ち上がり、里を見渡す。

 子どもが走り、年寄りが笑ってる。

 これを“数字”で脅せると思ってるなら、舐めすぎだ。

 琥珀の顔が浮かぶ。

 あいつ、昨日の夜も眠れてなかったな。

 だがな、選んだんだ。ここに立つって。

 だったら、守る側も腹を括る。

「橙佳」

 名を呼ぶと、気配が応えた。

「読んだか?」

 静かな声。

「ええ。予想より、丁寧ですね」

「丁寧すぎてムカつく」

 橙佳が、かすかに笑った気がした。

「では、こちらも“丁寧に”返しましょう」

「理で?」

「ええ。半分は」

 俺は、にやりと笑う。

「残り半分は?」

「……覚悟、です」

 その一言で、全部分かった。

 力を振るうなって話じゃねぇ。

 “いつでも振るえる”と示すだけだ。

 俺は書簡を握り潰す。

「龍王殿よ。あんた、父としては立派かもしれねぇが──」

 窓の外、空は青い。

「守る側を、甘く見るな」

 これは戦じゃねぇ。

 だが、血を流さない保証もない。

 そういう局面に、俺たちは立ってる。

 琥珀を中心に。

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