番だからといって
初投稿です。
よろしくお願いいたします。
普段はそんな場所を通らない。
その日、最後の授業の後に友人と2人で先生から片付けの手伝いを頼まれて、
資料を運んだ帰りだった。
聞こえてきたのは、何人かの上級生男子の声。
「番ってどうなの?そんないいもん?」
「そりゃぁ、俺からすれば絶対に手放したくはないね」
「や、男からすればそうだろうけど、逆だったらどうよ?」
「逆・・・って?」
「だからさ、俺は人間で番とか言われてもよくわからないわけだろ?
それで、獣人の女の子から番だって言われたとして、
縛られたくはないっていうか・・・」
「「「あぁ~」」」
聞いたのはそこまで。友人と話す声が聞こえたのか、静かになった。
誰一人も知り合いではない。
多分、今までもまるきり接点はなかった。
でも、縛られたくないといった彼が、私の番らしい。
私の家は、狼獣人の伯爵家だ。
嫡男の兄は既に番を見つけて結婚している。
先日義姉の妊娠がわかって家中で祝ったから、後継の心配もない。
「さて、どうしよう」
帰宅して、母に今現在届いている釣書について訊いてみる。
子爵家の嫡男(5歳上)、侯爵家の次男(2歳上)、伯爵家の嫡男(1歳上)
といったところ。いずれも獣人の家系ではない。
「お母様のおすすめはありますか?」
「ん~、この侯爵家の次男様かしら」
「それはどうして?」
「だって、獣人とヒトの間には子ができにくいっていうから、嫡男でないほうが
後継についてのプレッシャーがないかと思うの」
「なるほど」
「王宮の文官としてお勤めで、侯爵家の持つ子爵位をいただけるらしいわ。
後継ができなければ、爵位は侯爵家にお返しすればいいし」
「ちなみに、どうして私にお話が来たのかはご存じですか?」
「子爵家の方はヴォルフと同級の方で、我が家にいらした時にあなたを見かけたみたい。
侯爵家の方は領地がお隣で、家格も年齢もちょうど合うということもあるし、
上手く折り合う婿入り先がなかったみたい。それほど熱心に探されなかったようだけど。
伯爵家の方は学園であなたを見かけたらしいけど、詳しくはわからないわ」
「我が家と政略的に良いのは「それは気にしなくていいわ」・・・そうなのですか?」
しばし考える。兄と同級なのに、まだ婚約者すらいないというのは何か問題が
あるのだろうか⁉これは、兄に確認が必要かもしれない。
伯爵家の方だけが、現在同じ学園に在籍しているが、件の番の方である可能性は
あるだろうか。もしそうだとしても、あれを聞いたうえでその気にはなれない。
加えて、あの方々と接点はないが、あまり評判のいい方たちではなかった。
(最上級生が放課後にあんなところで管を巻いている時点でお察し)
すると、母のおすすめが間違いないというところか。
夕食の席で、兄に訊いてみる。
「はぁ?アイツ、うちにまで釣書送ってきたのか。節操ないな」
「お兄様、節操がないとは?」
「あ、お前がどうこういう意味ではなくて、問題はあっちだな。
学生のころから女癖が悪くて、同年代の令嬢からは避けられてるんだよ。
兄としてお勧めできる物件ではないな」
「そうなのですね。では、お断りすることにします
お父様、侯爵家の次男の方と顔合わせをお願いできますか?」
「もちろんいいが、伯爵家の方はいいのか?
それに、番を探してみずに決めてしまうのか?」
「実は、今日学園で番らしき方をお見かけしたのですが、あまり好ましい方ではなくて
お声もかけずじまいでしたの。なので、番封じをしようかと・・・」
「それは・・・!いや、そう決めたのなら何も言うまい。
では、顔合わせはあちらと調整してみよう」
「はい、よろしくお願いいたします」
後日、顔合わせに臨んだところ、人目を引く容姿ではないが誠実そうな方だった。
好きな作家や食べ物の話題で会話が弾み、そこからは順調に婚約まで至った。
卒業後、半年かけて準備をして結婚式を挙げる予定だ。
いくら番でも、端から浮気者と分かっている相手などごめんこうむるということ。
番とでなくても、良い関係を築ける相手と一緒に幸せになれると思う。
そのための努力は惜しまないつもりである。
読んでいただいて、ありがとうございました。