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第8話 チャカルールの鍛冶場

 物を作る音が寝室まで響いてくるものだった。

 あのリガストというドワーフ鍛冶屋は、夜中でも問答無用とばかりに金槌やらなにやら振るい落としていた。


 石が溶ける音や鉄がくっつく音。

 とても芸術的でとてつもなく耳に残響感を残してくれる。

 とてつもなく最悪な気持ちにさせ、寝ている間も夢の中で金槌の音ばかりが響いている。


「あーもう」


 眠れないので寝室から飛び出ると、庭にあるベンチに座って無数の星々に彩られている紺色の空を見上げていた。


 ゆっくりとした足音が後ろから草むらを靡かせていた。

 草むらから響く足音はとても小さい足なのだと耳に響く感触で伝わる。


「ルーロス、今日はとても懐かしい音が聞こえていた気がするよ」


 チャカルールは時たま俺の事をルーロスと呼ぶ事がある。

 彼女はふんわりとした髪の毛を胸元まで垂らしながら、まだあどけなさの残る二重瞼でこちらを見ていた。

 彼女はこちらを真正面から見て、俺の顔を優しく包み込んでくれた。

 

「ルーロス、とても眠たそうだね」


「ああ、あの爺がうるさいからな、カテンコテンてな」


「ドワーフにとってはこの音は最高の音楽のような代物なんだよ?」


「そうかな、ひどい音だと思うけど」


「ふふ、そうかもしれないね、そうだルーロス、今日はお星様が綺麗だね」


「そうだな、昔俺が見てきた空はなかったからな」


「不思議なことを言うんだね、ルーロスは」


「まぁな」


 病院の中で幽閉されて生活してきた。

 外に出る事なんて許されない。 

 そんな毎日の中で見つけ出した光はきっと最悪だったんだろうけど。


 今こうして空を見上げる事が出来るのは、とても心ときめく事なのかもしれない。


 チャカルールの髪の毛から甘くて優しい香りが漂ってきた。

 

 どこかで嗅いだ事のある匂いだったけど思い出すことが出来なかった。


「知ってるか、この世界にはファーストという神様がいて、3天使がいてファイブドラゴンがいて8巨人がいるんだってさ」


「それ神話の歴史学で当たり前な事だよ、小さい子供だって知ってるわ」


「俺は初耳だったけどな、ブブリンに教わったんだけど」


「ブブリン?」


「ああ、ゴブリンの友達なんだ」


「はへ? ゴブリンとどうやって友達になったの?」


「そりゃー会話したら友達になるだろ?」


「人間はゴブリン語を理解する事は不可能だよルーロス」


「いや、俺には出来るし、俺が教祖となってる村では色々な種族の言葉が翻訳されるんだぜ」


「ルーロス頭おかしくなった?」


「なぁ、チャカルール、いつまでもめそめそしてないでさ、一緒に邪教の村でも作ってみないか?」


「邪教の村?」


「そうそう、そこには色々なモンスターが住んでるんだぜ? 言葉だって通じる」


「嘘でしょ」


「嘘じゃねーよ」


 チャカルールの二重瞼が輝かしく輝いた。

 その瞳は子供が好奇心をむき出しにしている時に出す瞳だった。

 

「行く! 作る! 手伝わせて!」


「決まりだな」


 そうして俺とチャカルールは指切りげんまんの約束をして、リガストの鍛冶場製作の煩い音を耳に残しながら眠りに入る事になった。


 ★


 朝起きると、父親のゼフダスとセネレスが熱いキスを交わしているのに出会ってしまったが、2人は気にも留めずに続きをしていた。

 俺はもう慣れてしまっていたのだが、チャカルールは赤面していた。

 

 ゼフダスよ子供にはちと刺激が強いぞと突っ込まざる負えない。

 4人でパンとコーンスープに人参のサラダを食べてお腹を満腹にさせた。

 極めつけはベーコンエッグをパンに乗せるという愚行であったのだが。


 リガストさんは今も鍛冶場製作にかかりっきりだった。


「あいつは本気を出すと2週間は何も食わないんだよ」


「死にませんか? 父さん」


「あいつは作業をする前に肉をたらふく食わせたから死なんぞ」


「ドワーフ族って皆そうなのか?」


 チャカルールは可愛らしく首を横に振った。

 その時に髪の毛がふわりと揺れた。


「基本的にドワーフ族はちゃんと食べないと活力が切れちゃうの、たぶんリガストおじいちゃんだけが特別なんだと思うよ」


「そうなんだね」


「あの人は昔から頑丈だったからねー」


 母親のセネレスがうんうんと頷いていた。


 ご飯を食べ終わると。


「父さん母さん、ちょっとチャカルールと森に行ってきます」


「あまり奥深くには行くなよ、あそこには盗賊がいるという噂があるからな」


「そうですか、気を付けます」


 その盗賊は壊滅したんだけどなーとは言わなかった。


 チャカルールは心の底から楽しみという気持ちを滲ませながら歩いていた。

 彼女が邪教の村を見たらどんな反応をするかで楽しみであった。


 邪教の村まで無事辿り着くと。

 入口にはハル、ナツ、アキのスライム達がいた。


「こんにちわなの」

「こんこんなの」

「ちゃーなの」


「あ、あれ、スライムの言葉が分かる」

「だろ? チャカルールも話してみろよ」


 チャカルールはこくんと生唾を飲み込むと。


「初めましてチャカルールと申します」


「そんなにかしこまるなドワーフの娘チャカルールよ、そなたどこかで見た面だが、あ、そうか魔王ボスボスの側近の魔道具ドワーフにそっくりだな」


 ブラックスライムのデルファルドさんがさらっととんでもない事を呟いた。


「それ、たぶん、パパとママ」


「そうか、あいつらは逃げたと聞いたが」


「死にました。ボスボスに殺されたんです」


 チャカルールの瞳が涙で充血していた。

 

「それはすまない、まぁ、この村は楽しく作っていきたい、歓迎するよチャカルール」


 デルファルドさんは触手のような手を伸ばして、チャカルールを空中に浮かび上がらせた。

 彼女は空に浮かび上がるという初めての経験で、感動したのか、大きな声で微笑していた。


「さて、ルボロス教祖よ、ブブリンが何やら面倒ごとを見つけたようだ」


「ブブリンの奴どこに?」


「あっちの岩山のある所だ。行こう」


 3体のスライムの子供達がちりぢりにいなくなると、俺とチャカルールとデルファルドさんでその岩山のある方角にと歩いていった。


 邪教の村の外には小さな岩山がある。

 そこには巨大な穴が開いてあり、入り口で仁王立ちするのがブブリンであった。

 彼はこちらを見ると渋面の顔を作り。


「この下にダンジョンコアの臭いがします」


 そう言ったのであった。

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