第6話 隠れて布教活動③
デルファルドはずんぐと森の木々より高い体を器用に動かしながら、二足歩行で村に向かって歩き始めたのだが、ふと疑問が沸き起こった。そちらは村ではなかったのだから。
「これは、村の方角ではありませんね、ルボロス教主様」
「なぁ、デルファルド、その大人達はどんな人間だったんだ?」
「そうだなーとても悪そうな顔をしていてな、沢山のモンスターを捕獲していたぞー珍しいモンスターをなぁー」
「つまり、密猟者? いやあっちはー盗賊の村でございますな、教主様」
ブブリンが得心とばかりに頷いてくれる。
俺は心の奥深くで笑い転げていた。
盗賊なら殺していいか?
そんな道徳に反する事はしたくないのだが、まぁ様子を見よう。
「デルファルド、俺は見学させてもらっていいか?」
「いいぞー友達になってくれるならとても嬉しいぞー」
「もちろんだとも、デルファルド、君は軍隊属性みたいだ。教えておくぞ」
「意味があるのかな?」
「うまく利用してくれ、スライムの軍隊でも作るんだな」
「ありがとうなー」
森の木々が人型巨体スライムの二足歩行がのっしのっしと歩く姿は巨人そのものであった。
違うとしたら無数の核があり、水道の色をした液体という事くらいだろうか。
★
1時間ほど歩き続けていたと思う。
果て無き森を彷徨い続けていたと思う。
まばらに木々が両断されている姿が見られる。
人の住んでいる痕跡が見られる。
「これは、教主様、盗賊の村でございますねぇ、あそこにあるモンスターの子供達を売りさばくみたいですねぇ、モンスターの子供は高く売れるのですよ」
ゴブリンのブブリンが腕組みしながらうむうむと頷きながら、空を見上げていた。
「雨が降りそうですなぁ」
ぽつりぽつりと灰色の雲間から覗く太陽の光が、暗雲の雲に隠れていき、辺りが静けさに包まれてきた。
雨音だけが辺りに響き、少しだけ気だるい気持ちにさせてくれる。
デルファルドのスライムの体はさらに肥大化していく。
邪教スキルの力でデルファルドのエレメンタル属性を見て口を大きく開けてしまった。
純粋向くな水属性であったのだから。
デルファルドの体は山のようにどっぷりとゆったりと歩き出している。
その時、盗賊の村の方角から警報の音が響き渡った。
沢山の悪そうで生意気そうな大人達が現れて、奇声を上げ武器を構えていた。
その数100人。
よくぞここまで盗賊の村を発展させていたものだと、俺は心の中から拍手を送ったのだが。
デルファルドの一撃の拳のもとで5人の盗賊が瞬殺された。
スライムの体に吸収され、肉体が液体状になりながら苦しみもがき骨だけとなり、その骨自体も吸収されていく。
盗賊達が1人また1人と奇声を上げて、魔法を解き放つ。
スライムに効くのか雷系の魔法ばかりで、デルファルドはスライム語で壮絶な雄叫びを上げていた。
その時、デルファルドの体がぐにゃりと歪み始めた。
地面に無数に散らばる。
無数のスライムとなる。
次の瞬間、そのスライム達は俊敏に動き回り始めたではないか。
「これがー軍隊属性」
デルファルドは軍隊属性の使い方を理解していたようだ。
無数のスライムを軍隊の手足のように操りながら、次から次へと盗賊達の顔面に張り付く。
顔が骨と肉の塊となって脳みそをむき出しにさせながら絶命していく。
盗賊達が60人程くらいになった時、勝利が無いと悟ったのか、1人また1人と疎らに逃げ腰になりつつあったのだが。
盗賊の数が30人を切ろうとしたまさにその時。
無数にいるデルファルドのスライムの体が光始めた。
1体また1体と光の結晶となって消滅していくではないか。
デルファルドは黒いスライムになった。
それがブラックスライムと呼ばれるそれであり、体の大きさは普通のスライムの大きさとなんら変わりなかった。
違うとしたら、闇のオーラのような塊、進化する事で、属性も切替わった。
今の彼の属性は殺戮者属性であった。エレメンタルや闇属性と変貌している。
殺戮者属性がどのような物なのかは理解できないが、名前の由来からしてなんとなーくわかる気がする。
ブラックスライムだけになったので、盗賊達は笑い転げていた。
どうやら彼等は自分達に勝利が近づいていると思ったようだ。
頭のような人間が勇壮なハルバートを握りしめてやってくる。
狂戦士属性である事は分かった。
エレメンタル属性はなかった。どうやら何の恩恵もないらしい。
「てめーらたかがスライム1体に何手間取ってやがるんだ」
そう言いながら、ハルバードで近くの檻に入れられていたスライムを叩き潰した。
ブラックスライムの怒りの気持ちがふつふつと沸き上がるのを感じた。
俺はブブリンに目配せして動き出した。
「おいおい、何怒ってんだよスライム風情が、どうやら仲間思いのようだな、どうだ? 仲間を殺されたくなければ従え、ブラックスライム、ブラックスライムはレアだから高く売れるだろうさ」
そんな言葉はブラックスライムには伝わっていない。
俺はエンチャント魔法【シールド】で檻を強化していた。
それをブラックスライムは見ていた。
「あん? じゃあ次も殺すぞ」
盗賊の頭は檻を叩き潰そうとしたのだが。
俺は物陰からほくそ笑んでいた。
檻は破壊されず、中にいたスライムは無事だったのだから。
「あ、れ」
次の瞬間、ブラックスライムの体がぐにゃりと歪み始める。
黒い触手のような物を伸ばして、鞭の要領で10名の盗賊を瞬殺してしまった。
盗賊達の体は無残にもばらばらに切り崩されていた。
「うそだろ」
「お、おかしらああああ」
「に、にげろおおおお」
だが他の20名も逃げる暇もなく、ブラックスライムに瞬殺されていた。
本当に災害級のモンスターを遥かに超えていた。
「へへ、やべーな」
お頭だけになった。狂戦士属性の盗賊は。
腰袋から瓶を取り出してそれを飲み干した。
体の血管が浮かび上がる。
深紅に染まりはじめて、真っ赤に燃えるように熱くなる。
眼が充血していき、鼻から白い煙が噴き出る。
「バーサーカーでもくらえええええ」
どうやらスキルのバーサーカーを発動させたようだ。
超人的な動き、一瞬でブラックスライムの背後に回ると、ハルバートを振り落とした。
構えてから振り落とすだけで1秒もかからない。
風のように土埃をまき散らしながら、地面が爆発した。
空中にブラックスライムが飛んでいた。
そこから無数の触手の蔓が盗賊の頭に雷撃のように飛来する。
「おらおらおらおらああぁあああ」
その全てをバーサーカーとなった盗賊の頭はさばき続ける。
体の筋肉の血管がさらに浮かび上がり、筋が切れては再生されている。
血管が千切れては血が噴出している。
口からも吐血して、鼻からも血が流れる。
眼からも出血し始める。
どうやらバーサーカーの力を多用すると、体に負担がかかるようだ。
「はぁはぁはぁ」
だがブラックスライムは涼しい顔でそれを見ていた。
「人間よ、そなたはよくぞ戦ってくれた。だが、ここで終わりぞ」
まるで最強種に目覚めたかのようなしゃべり方になり。
ブラックスライムの触手は盗賊の頭の首を跳ねていた。
首は宙に飛んでいながら、地面に向かって円を描いて転がっていく。
頭を失った体は、何かに気付いたようにハルバートを落として、膝をがくんと地面にぶつけ、不器用にどさりと倒れた。
そうして盗賊の村は、綺麗な状態で壊滅したのであった。