第18話 死に際
建物が次から次へと赤い炎を吹き上げて崩れ落ちる。
兵士と子供や大人達が身の毛もよだつ声をあげて逃げまとっている。
城が崩れる。まるでドミノ倒しのように倒れていく。
多くの人間達が押しつぶされて絶命する。
巨大すぎるマントを優雅に着用している。
マントは風にたなびいている。
足は巨大すぎる長靴を履いている。
頭には巨大すぎる帽子を被っている。
深紅に染まっている赤い髪の毛。
げらげら笑って、右手と左手から魔法の塊を吐き出している。
魔法の塊は建物に炸裂すると爆発する。
「ぬぁーにが、生意気に朝からビールを飲むなだってええええええ」
俺はその光景を空から見ていた。
そして近くの物陰にチャカルールがいる事を悟った。
彼女の手には魔道具の材料となるものを持っていた。
鏡のような物だった。
冷や汗が流れる。
「ぬぁーにが、別に朝からビールを飲んだっていいんじゃねーの、おいおい」
頭がぐちゃぐちゃになっている酒場のおっさんは胸倉をつかまれて地面に叩きつけられていた。
まるでヌイグルミをぶちまけているようだ。
内臓が飛び散っている。
その圧倒的力に周りの人間達はパニックになっている。
「うるさい蠅だなああああ」
パチンと音がなると、瞬時に近くにいた人間達の頭が吹き飛んだ。
「静かになったねぇい」
それでも建物は次から次へと崩壊を辿り続けている。
瓦礫は山となり、積み木のように積みあがっている。
所々に人間の頭の無い死体が転がっている。
チャカルールが怯えている。
今すぐにでもそこに行きたい。
だが怖かった。
いくら強くなろうとも、あんな化け物相手に勝てる保証がない。
「お、お前、魔道具のドワーフ族の娘じゃねーかよ、ぶち殺してやろうか」
「ひ、ひいいいい」
チャカルールが後ずさる。
俺は瞬時にチャカルールの目の前に着地していた。
「うぉい、お前生意気だな、俺様の前に立ちはだかるとはな」
「なぁ、引いてくれませんか?」
「俺様はガキだろうが殺すぜ、それが魔王ってもんだ、神のサード、フォース、ファイブも殺した。全ての神を殺したいが、ファーストが見つからねーしセカンドも見つからねー」
「頼みます。見逃してください」
俺は頭を下げていた。
土下座をしていた。
地面に頭を付けていた。
「おい、お前、おもしれ―な、だけどその娘は殺す、お前は生かす、それだけだ」
「頼みます」
「無理だなーお前その娘に惚れてるのか? やめとけ、魔道具を作る一族は呪われてるんだぜ、俺様がかくまってやったのにあいつらは裏切りやがってからに、皆殺しだぜ」
「チャカルールは呪われていません、いつも笑ってくれます」
「るせーじゃあ1分待ってやる、最後に愛の囁きでも囁いてみろよ」
「そうですか」
俺は後ろを振りかえった。
チャカルールのほっぺたはぐちゃぐちゃになっていた。
その手には鏡が握られていた。
「えーと、チャカルール、今までありがとう、俺はここで死に物狂いで戦います」
「な、なんで、私が悪いんだよ」
「そんなことはない」
「私が、今日、ルーロスの誕生日だから凄い魔道具を作ってあげようと思って、我がまま言ってきたのに、言う事聞けばよかったのに」
「そうでしたか、それはとても嬉しい事です。俺誕生日プレゼントは両親以外から貰った事がなくて」
瞳から水滴が流れてくる。
まるで洪水のように流れる。
前世で貰った事無かった。
前世の親からも誕生日プレゼントなんて貰った事無かった。
この子は俺の為に誕生日プレゼントを作ろうとしてくれていた。
「終わりだぜ、時間だ」
「魔王ボスボス、俺はアンタを殺す」
「無理だな」
パチンと音が鳴り響くと、俺の頭が吹き飛ぶはずだったのだろう。
だが俺は邪眼でその軌道をずらす。
「おもしれー」
魔王ボスボスは瞬足で俺の右足を両断していた。
右足から血が噴き出る。
それも右手という手とうだった。
「ぎゃああああああ」
「いやああああああ」
チャカルールの悲鳴が上がる。
「右足がなくなったなーそれでも立ち続けるとはな」
邪眼で浮遊させている。
血は邪眼の念力のような力で止めている。
「はぁはぁはぁ、攻撃を」
「おせーわ」
右腕が吹き飛ぶ、左腕が吹き飛ぶ、左足が吹き飛ぶ。胴体と頭だけになる。
それでも浮遊して立ち続ける。
「おめーばけもんかよ」
「ここで引けば何もかも終わるんですよ」
「くっはっは、こりゃーおもしれーわ、いいわ、いいねー、いいぞ、それなら生かしてやろう、ありがたく思え、あ、そうだ。この国は亡ぼすから、俺様の酒飲みを邪魔したからな」
「そうですか」
「チャカルールよおおお、早くそのガキ連れて逃げたほうが良いぜ、巻き込まれるよ、ぎゃはははははあ」
チャカルールは涙を流しながら、右足と左足と右腕と左腕を拾って、俺を担いで、走り出した。
歯をかみしめて激痛を耐えしのぐ、意識が朦朧としていく、失血死しそうだ。
意識が暗闇に包まれた。
【申告 死に際】
世界が暗転した。
走馬灯なのだろうか、現世にいた時の記憶まで流れている。
ここがどこなのか分からない。
それでも多くの人々が死んでいるのは分かる。
たかがビールを飲むのを邪魔しただけで、1国が滅びる。
別に、帝国が攻めて来なくても、結果的にバルファルド王国は滅びるのだから。
俺は今後どうやって戦えば良いんだろうか。
眼が覚めた時、そこは邪教の国の城の寝室であった。
もちろん両腕と両足はなかった。
ベッドの中には裸のチャカルールがおりまして、良く分からない状況に戸惑いながら、俺も裸である事を知って、余計意味が分からなくなり。
「はて、やっちまったのか?」
だがそんな記憶は全くないわけで。
そうか、チャカルールは一応大人に近いのか20歳な訳だし。
いやーそういう事は出来ないと思うな―だって手足無いわけだし。
「起きたか」
そこにはブラックスライムのデルファルドさんがいた。
「あの、この現状を教えてくれませんか」
「いや、何もなかったぞ、ただお前の体が冷たくなりすぎたから、チャカルールが裸で温めていただけだ」
「いやーそれを何もなかったとは」
「交尾とかは無かったという意味だが」
「そういう露骨な言い方はしないでくださいよ」
「すまない、取り合えず、バルファルド王国は滅びたよ、生き残った人々を邪教の国に避難させた。魔王ボスボスは気まぐれにダンジョンを生成して、スタンピートを随時お越してな、村も生き残れないから、全ての村からこの国に避難させた。お前の両親もいるぞ、事情はセカンド、いやライジュウが説明した」
「そうですか、ちょっと両親に会いづらいんですが」
「それよりお前の両腕と両足はチャカルールが魔道具として改良したぞ、お前は2週間眠り続けていたんだ」
「まじですか、てか2週間もチャカルールは裸で温めてくれてたのか」
「それはそれで恥ずかしいな」
「いや俺が恥ずかしいわ」
「それで勇者マルハデスの尋問は?」
「あいつは牢に閉じ込めてある。尋問しても分からぬの1点張りだ」
「そうか、エンジェルドが見つかると良いな」
「そうだな、モンスターと人間達が思わぬ共存生活をしている。ある意味見ていてほのぼのだな」
「それは言えているかもしれんが、何よりそういう世界もあってもいいかもな」
「だな」
「それにしても魔王ボスボスの強さが半端じゃないんだけど」
「あれは倒すには相当修行をしないとダメだな、おいらでも倒せる自信がないよ」
「ビールを飲むのを邪魔しただけで、国が亡びるってある意味すげーな」
「それは同感だ」
「ううう」
その時チャカルールが目覚めた。
「お、おきたああああああああ」
チャカルールが全裸で抱き着いてくる。
「ちょ」
「きやあああああああああああ」
となぜかビンタされるのであった。
ちと意味不明なんだけど。
それから俺の人生はさらに始まった気がしたよ。




