お前らと食卓を共にしない
俺たちは席に付き、そして料理を待つ。
三人は、俺が座ると、俺を馬鹿にするように笑う。俺はそんな二人を無視しながら、料理長が来るのを待っていた。
「エドワード様……本当にいいのですか?」
そんな俺に、不安げな表情でリゼが話しかけてくる。
「なあに、ここでへこたれているようじゃ、この先、屋敷を抜け出して生活なんて出来ないさ」
俺がそう言っていると、一つは例の肉料理が、もう一つはちゃんとした野菜スープがやってきた。
「あらあら……エドワードは豚の餌が気に入ったのね」
「エドワード……お前、本当にそんな物を食べるのか?」
馬鹿にしている二人を尻目に、俺は野菜スープを食べ始める。
やはり、何度食べても美味いものは美味い。
しかも、最初の頃には気が付かなかったが、なんだか疲れも取れるような、滋養効果も感じる。
そしてこの肉料理は……やはり不味すぎる。
豚の餌などと言っていたが、これでは家畜に食わせた方がマシなレベルだ。
こんな料理になるために生まれてきたとしたなら、家畜が不憫で仕方ない。
そして、暫く待って、自分の肉料理が出てくるのを待つ。
すると、料理長はおずおずと言った様子で、その料理を持ってくる。
その肉料理は、表面はこんがりと焼かれている中で、ハーブがまぶしており、ソースも控えめ。
そして、中には野菜とキノコがふんだんに入っている。
ニンニクの香ばしい匂いも食欲をそそる。
「エドワード様……どうぞお食べください」
俺はその肉料理に、フォークを突き刺し、口に運ぶ。
そして、一口食べた瞬間、俺は目を見開いてしまう。
美味い。美味すぎる……!
噛むほどに溢れ出るジューシーな肉汁が、ハーブの香ばしい香りを纏いながら、口の中に広がっていく。
そしてソースの控えめな味付けと、塩コショウのスパイシーな味が肉汁と合わさり、口の中が幸福感で満たされていく。
そして、口に運ぶたびに漂ってくるニンニクのほのかな香りが、食欲をそそる。
俺があまりの美味さに言葉を発せずにいると、料理長は不安げな様子で俺に聞いてくる。
「あの……エドワード様?やはりお口に合いませんでしたか?」
そんな料理長に、俺は首を横に振る。
「逆だ……とても美味しい」
俺がそう言うと、料理長はホッと胸をなでおろしている。
そんな俺の料理を、義兄が一つまみして、口に運ぶが、直ぐに地面に吐き出してしまう。
「なんだ?この酷い料理。エドワードはこんなものが美味しいのか?」
俺はそんな義兄に、笑顔で答える。
「はい……この肉料理はとても素晴らしいです」
俺がそう言うと、義父も俺の料理を食べるが、やはり吐き出してしまう。
「なんだこの肉は!?なんも味がしないじゃないか!エドワード、こんな物を食べるのはやめろ!不愉快だ!食べるなら裏で食べてこい!」
俺は席を立ちあがり、三人に言う。
「わかりました。それでは今後は使用人たちと一緒に食事をしようかと思います」
俺がそう言うと、三人は驚いた表情をする。
「な!何を言っているの!?エドワード!」
義母が立ち上がり、俺にそう叫ぶ。
しかし、俺は三人に笑顔で答える。
「皆さんが、豚の餌を食べている私の姿を不愉快に感じるならば、私は席を外して、使用人と一緒に裏で食べることにします」
義兄はそんな俺を見て、軽蔑するかのように言う。
「ふん……それがいい!豚の餌を食べている者同士、それがお似合いだ」
義父も冷たく言う。
「まあ、エドワード君は、ここに来た時から何か変わってると思っていたからね。まあ、豚の餌がお似合いなのは本当だがね」
「はい……それでは皆さん。お先に失礼します」
私は料理長・リゼと共に、使用人たちが集まって食事している席へ向かう。
料理長は申し訳なさそうに頭を下げている。
「料理長……顔を上げてください」
俺はそう言って、料理長の肩に手を置く。
そして、耳元で囁く。
「正直に言ってくれ。俺の味覚とあいつらの味覚、どっちが正しいんだ?」
料理長はそんな俺の耳元で囁く言葉に、少し驚いている。
そして決心したかのように口を開いた。
「正直に申しますと……エドワード様の方が正しいです」
俺はその言葉に頷き、笑顔で話す。
「だろ?あんな料理を食っていたら嫌でも舌が馬鹿になる。きっとあいつらには、腐肉を食わせてもおいしいって思うはずさ」
料理長はそんな俺の言葉を聞いて、クスクスと笑う。
「エドワード様は不思議な方ですね」
「そうか?」
そんな俺たちのやり取りを聞いていたリゼは、少し笑っている。
そして俺はそんな彼女を見て、笑顔を返した。