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俺だけの特別な肉料理

 俺は村から屋敷に戻ってくると、ちょうど義兄が欠伸まじりに、庭を散歩しているところだった。俺はそんな義兄に、挨拶をする。


 「おはようございます!」


 俺がそう挨拶すると、義兄は俺を一瞥し、また欠伸をすると言った。


「なんだ、朝っぱらから元気だな。なんだ、身体でも鍛えてんのか?」

「はい!その通りです」


 俺がそう答えると、義兄は鬱陶しそうに言った。


「ふーん……とはいえ、肉も食えないような貧弱な奴が、身体を鍛えても無駄だろう」


 俺はその言葉に、少しイラッとしてしまう。

 だが、気を取り直し、俺は満面の笑顔で義兄に答えた。


「ありがとうございます!私も三人のように肉を食べて身体を鍛えます!」


 俺は皮肉っぽい感じで義兄に返事をするが、義兄はそんな俺の皮肉に気づかず、ただ俺を馬鹿にした。


「ふん……せいぜい頑張れ」


 俺はそんな嫌味な義兄の態度を気にせず、リゼを探す。

 すると、リゼは井戸で水を汲んでいた。


 俺はそんなリゼに声をかける。


「おはよう!リゼ!」


 俺がそう挨拶すると、彼女は驚いて水の入った桶を地面に落としてしまう。

 水が地面に溢れ、そしてリゼは何かに怯えるように、俺の方を見る。



「ご、ごめんなさい!」


 子犬のように震えるリゼを、俺はなだめる。

 こんなことでおびえるのだから、この屋敷では相当酷いことをされているに違いない。


「私だよ、私!エドワード!」


 俺がそう声をかけると、彼女は少し安心したように顔を上げる。


「エドワード様!?……すいません、お見苦しいところをお見せしました……」

「いいんだよ、それよりも使用人のことについてなんだけど……」


 俺がそう言うと、彼女は少し困ったように言った。


「その……何か使用人たちが悪いことをしましたか?」


 俺は首を振る。


「違うんだ。普段、使用人たちはどんなまかないを食べているんだ?」


 俺がそう聞くと、彼女は少し安心したように答える。


「えっと……使用人は皆、同じまかないを食べています。粥とか、煮物とか……質素ですが、疲れた身体が癒えるような優しい味付けのものです」


 俺はその答えを聞いて、ニヤリと笑う。


「そうか……じゃあ俺の為に、別に肉料理を作ってくれないか?それこそ、普段君たちが食べているような味付けで」

「肉料理を……ですか?」


 彼女は意外そうに俺を見る。


「ああ、お願いできるかな」


 彼女は俺を見ながら、不安そうな顔をする。


「で、でも……その貴族が私たちのような使用人と……」


 俺はその言葉を途中で遮る。


「関係ないよ、使用人でも貴族でも、同じ屋根の下に住む仲間だ。むしろ私は使用人のことを良く知りたいんだ」


 俺がそう言うと、彼女は少し考える。

 そして言った。


「わかりました……料理長に相談してみます……」


 そう言って、俺を心配そうな顔で見る。

 俺はそんな彼女を安心させるように、笑顔で言った。


 「ありがとう、頼むよ」


 俺は自分の部屋に戻り、朝食のパンを食べると、今度は訓練場に戻り、剣の訓練を行うことにした。

 そこで、人形に打撃を入れていると、リゼが料理長と共にやってきた。


 料理長は、何やら不思議そうな顔をして、俺を見ている。


「あの、エドワード様、もしかして昨日の肉料理がお気に召さなかったとか……」


 俺は周囲を見渡し、義兄や義母、義父がいないことを確認すると、料理長に小声でささやく。


「正直に言ってくれ。料理長。お前はあの料理は正直ゴミみたいなものだと思ってるだろ」


 俺がそう聞くと、料理長は目を丸くして驚いた表情をしている。


「あの肉料理と野菜スープを食べ比べてみてわかった。お前たちは、あんなものより、遥かに旨いものを作れるし、実際のところ食べているだろ。そのことは、この屋敷の誰も知らない。だから安心してくれ」


 俺がそう言うと、料理長は少し考え、そして言った。


「エドワード様……私は正直言ってあの肉料理は不味いと思ってます。ですが、旦那様からあの料理を作るように命令されています……私はもう料理人のプライドとして、あんなものを作りたくないのです!」


 俺はその言葉に少し安堵する。


「それでいいんだ。生きるためには自分の信念を捻じ曲げることも必要だ。しかし、私はちゃんとした肉料理を食べたい。だから、俺の為にお前が思うベストの味付けで、肉料理を作ってくれないか?」


 俺がそう頼むと、料理長は頷いた。


「わかりました。エドワード様の頼みであれば」


 料理長は、そう言って、屋敷の方に戻っていく。

 恐らく、今日の料理であの肉料理はまともになるはずだ。


 すると、今まで黙って見ていたリゼが口を開く。


「エドワード様……一体どういうことなのですか?」


 俺は木の人形に剣を打ち付けながら、説明する。


「往々にして、料理人というのは、外様に出す料理よりも、自分たちで食べる料理の方が率直に旨いものを作ってたりするものさ。だから、料理長に頼んだんだ。普段の味付けで肉料理を食べたいって」

「そうですか……しかし」

「あとは、夕食を見ていればわかるさ」


 そう言いながら、俺は木人形を斬りつける。

 リゼは少し納得いかないような顔をして、屋敷に戻っていった。

 その後、俺はお風呂に入り汗を流したあとに、夕食へと向かう。


 食事が楽しみだ。

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