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義兄の訓練は単なるいじめ

 俺は気がつくと、見知らぬ場所にいた。


「ここは……」


 俺は辺りを見回す。

 そこは、まるで中世ヨーロッパのお城のような場所だった。俺は身体を見廻してみると、貴族風の服を来ているが、染みやら継ぎやらで、貴族の服でも、少し貧層に感じる。

 しかし、ぶら下げている剣は、質素でありながらも、匠な細工がされており、明らかに高そうなものに見える。


「これって……」


 俺がそんなことを思っていると、後ろから声をかけられた。


「すいません、エドワード様」


 後ろを振り向くと、そこには綺麗な女性がいた。

 その女性は、俺よりも少し年上に見えるが、まだあどけなさも残しており、しかしどこか大人びた雰囲気も感じさせる。

 髪型は長い栗色で、身長も高く、長いまつ毛。眼は切れ長にして、気の強さを感じる。鼻も高く、まさに美人という形容がふさわしい女性である。

 俺がその女性に見惚れていると、女性は話を続けた。


「この後は、義兄上と剣技の訓練ですが……行きますか?」


 俺は考える。

 確か、このイベントはゲームでも見た筈だ。

 義兄は、エドワードが剣を覚えていないことをいいことに、一方的に叩きのめすのだ。

 それは訓練と言うよりは、エドワードをサンドバックにした、ストレス発散である。


 「うーん、義兄上はとてもお強い方なので、私みたいな貧弱な者では、その技術に差がありすぎて訓練にならない気がします。むしろ、私はもっと初歩の初歩、そして基礎を練習したいのです」


 俺がそう返答すると、女性は暫く考える。


「そうですか……。しかし、既に兄上は稽古場でお待ちになっています。それに貴方の兄上は少々気性の激しいお方。このまま行かなければ、後で文句を言われるのは貴方ですよ」


 女性がそう言う。

 そこで、俺は近くの椅子に腰かけて、頭の中でゲーム知識を総動員しながら考える。


 確か、目の前にいる女性はリゼ。

 メイドの長にして、エドワードが幼いころからの世話係である。家事をそつなくこなし、魔法や剣技の才能もあるという万能キャラ。

 また、意思と責任感が強く、最後までエドワードを手助けしてくれる尊いキャラクターだ。その献身的な姿に、プレイヤーの中でも、ヒロインよりも人気がある。


「そうだな……例えば、リゼ。君が私の剣の稽古相手をしてくれないか?」


 俺がそう言うと、リゼは少し驚く。


「私に……ですか? でも、貴族がメイドに剣技を教えてもらっているなんて知ったら、皆に笑われますよ?」

「頼む。君がいい」


 俺がそう言うと、リゼは数秒悩んだ後、渋々了承してくれた。


「分かりました。では、私も稽古着に着替えてきますので、少々お待ちを」


 そう言うと、リゼはその場を離れる。その後ろ姿もとても美しかった。

 それから数分後、俺とリゼは稽古場へと向かっていた。

 その稽古場は、広く整地されており、周囲には木で作られた人形やら、射撃訓練用の的などが設置されている。

 その中心には、義兄上が既に待っており、俺を見るなり睨みつけてきた。


「遅いぞ。エドワード!いつまで待たせる気なんだ!」


 義兄が怒り出す。俺は義兄に頭を下げ、謝罪する。


「申し訳ありません、義兄上」

「ふん。まあいい。ほら、これを持て。始めるぞ」


 そういうと、訓練用の木の剣を俺に投げつける。

 義兄は、怒りと楽しみの入り混じっており、これから俺を一方的に叩きのめすのが楽しみで仕方ない、といった表情だ。


「いえ、義兄。実は私は義兄上と訓練したいのではありません。そこにいるメイドのリゼに訓練をしてもらうと思っています」


 義兄は、俺の唐突の宣言に少し驚いた様子。


「なに?訓練をメイドとやるのか?」

「はい。私は初歩の初歩からやりたいのです」


 俺がそう言うと、義兄は割れんばかりの嗤い声を発し、そして大声で俺を罵倒した。

「馬鹿か、お前は!メイドは平民だ!メイドに訓練をしてもらうなど、貴族として失格の行為だ!」


 その義兄の表情から、俺を馬鹿にし、見下していることがひしひしと伝わってくる。


「それでも、私はやりたいのです。どうかお願いします」


 俺がそう言うと、再び義兄は俺を嘲笑う。

 ――だが、これが重要なのだ。


 まず一つに、義兄の優越感を満たしてやること。結局は、義兄が俺を虐めるのは、俺よりも自分が優れているということを周囲に見せつけたいからなのだ。

 だから、その自尊心を満たしてやることで、義兄は油断する。

 そして、もう一つ。俺が、このゲームの世界で生き残るためには、基礎的なスキルを向上させたほうが良い。

 とすると、義兄の訓練と称した一方的な虐めよりも、リゼとの訓練のほうが、よほど自分の為になる可能性が高い。

 つまり、リゼと訓練を行うことで、この二つの目的が達成される可能性が高いのだ。


「ふん。そこまで言うのならば、いいだろう。では、思う存分やるがいい」

 そういうと、義兄は後ろのベンチに座り、そしてリゼと俺の訓練を見る。

 リゼは動きやすい服装に着替えているが、そこから見える身体は先ほどの美しさとは別の、健康的で、そしてどこか色気のある身体だった。

 リゼは木の剣を構え、そして俺に話しかける。


「では、エドワード様。どこからでもかかって来て下さい」


 俺はその雰囲気に圧倒されながら、剣を構える。


「では、いきます」


 俺はその掛け声と共に、思いっきり斬りかかった。だが、簡単に避けられてしまい、木の剣を弾かれてしまう。そして、その反動で俺は地面に尻餅をついてしまった。


「エドワード様!大丈夫ですか?」


 リゼが慌てて俺のところに駆け寄り、俺を立たせてくれる。


「いてて……大丈夫です」


 俺は尻を軽く叩きながら、そう答えた。義兄は、その様子を見て、腹を抱えて笑っている。


「ははは!なんだ、その様は。まるで素人ではないか!」

「エドワード様、剣の持ち方から間違っています。こうですよ」


 そういうと、リゼは俺の後ろに回りこみ、俺の両手を掴むと、そのまま剣を握らせた。

「いいですか?剣を持つときは、このように、手首を曲げて……そして剣は上に構えるのです」

 そういうと、リゼは俺の身体を後ろから抱きしめるような体勢で、俺の両手を掴む。

 背中には柔らかいものが当たるし、何よりリゼの髪の毛から香る良い匂いにドキドキしてしまう。


「いいですか?もう一度やってみて下さい」


 俺は気を取り直して、リゼに言われた通りに剣を構える。


「こうですか?」


 すると、先ほどよりもしっくりとくる感じがして、まるで自分の身体のように剣を扱えた。

 リゼと俺は、お互いに木の剣を弾き合いながら、剣技の訓練を行う。


「ほら、エドワード様。腰が引けていますよ」


 そう言うと、リゼは突きも織り交ぜながら、俺に斬りかかる。


「くっ……!」


 俺はそれを間一髪で避けるが、しかしそのさいにスキが生まれてしまったのか、リゼにそこを突かれてしまう。


「ほら、エドワード様!脇を締めて!」


 そう言われた俺は、慌てて脇を閉め、剣を振り下ろす。しかし、その途端、剣の軌道が逸れてしまい、そのまま俺の足へヒットしてしまった。

 義兄はその様子を見て、何やら満足そうな表情を浮かべながら立ちあがった。


「はははは。エドワード。傑作だ。貴族が、メイドにすら勝てないとはな。しょせんは、コーネリアス家の恥晒しよ。はは!」


 そう言いながら、義兄は立ち去った。

 その笑いには悔しさもあったが、しかし、同時にほっとした気持ちもあった。

 何故なら、義兄の訓練と称した一方的な虐めよりも、遥かに有益なリゼとの訓練が出来るようになったからだ。


「気にすることはありません。エドワード様。貴方はまだお若い。これから頑張れば、必ず強くなれますよ」


 リゼが優しく励ましてくれる。


「ありがとう。俺もそのつもりだ」


 俺はこんなところで負けるわけにはいかない。

 俺はエドワードを悲劇のストーリーから救わなければならないのだから。

お読みいただきありがとうございます。


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