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使用人との食事

 俺が決闘で打ち負かしてしまったためか、義兄はかなり立腹しているようだった。

 夕食の前にも態度が悪く、使用人たちに当たり散らしていた。

 俺は三人に礼儀として挨拶をしにいく。


 だが、義兄は俺の顔を見るなり、傍にあったスプーンを投げつけ、怒鳴りつけてきた。


「エドワード!貴様、俺との決闘に勝ったからといっていい気になるなよ!」

「いえ……そんなつもりはありませんが……」


 俺は念のため、申し訳そうな、怯えた表情を作る。

 だが、実際は心の中でほくそ笑んでいた。


「今日は、お前の顔も見たくない!お前は使用人と、別室で食事をとれ!」

「わかりました」


 俺はそう返事をし、その場を立ち去る。

 義父はあいかわらず無関心そうに、義母は俺に対して「ごめんなさいね……」と申し訳なさそうにしている。

 俺はそんな二人に対して、笑顔で答える。


「いえ……大丈夫です」


 そして、別室に向かうために席を立ち、そして礼をしたあとに、食堂を後にする。


 作戦成功である。


 義兄が機嫌悪くなればなるほど、俺は夕食を一緒しなくていい口実になるから、とてもありがたい。

 しかも三人の味覚センスは壊滅的。


 使用人のほうが、質素でありながらも、堅実で美味い料理を食べている。

 さらにいえば、質素な分、健康的で、体にも優しい。

 厨房のほうに行くと、簡易的な丸椅子で、使用人たちが食事をとっていた。


「やあ……君たち」


 俺がそう言うと、彼らは驚いた様子で俺を見る。

 そんな彼らに俺は言う。


「今日は俺もここで食事をとらせてもらうね」


 使用人たちは驚いた様子で俺を見る。


「しかし……エドワード様……」

「いや、君たちの食事は素晴らしい!俺も一緒に食べたいんだ」


 俺はそう言って、彼らと同じ丸椅子に座った。

 使用人たちは、そんな俺にどう対応していいか困っている様子だ。

 その様子は、俺のことに嫌悪感を持っているというよりかは、貴族という高貴な身分であるお方が、なぜ自分たちと一緒に食事をしているのかという、驚きの感情に思えた。

 実際に、リゼと共に食事をしているメイド達は、俺を見てヒソヒソ話をしている。


「遠くで見てカッコイイお方だと思っていましたが、近くで見ると……」

「私たちと同じ食事をされるなんて……こちらが緊張をしてしまいます」


 そんな話をするメイド達をリゼは優しく諭している。


「せっかくいらっしゃってくださったのだから、そんなよそよそしくしないで、エドワード様と共に食事をしましょう?」

「それはリゼさんは、エドワードと親しいから……私たちとエドワードでは身分が……」


 そんなメイド達に、リゼは優しく微笑む。


「大丈夫ですよ。エドワード様はそんなことを気になされる方ではありません」


 俺は周囲を見渡す。

 実際のところ、俺がいることによって、少々使用人たちが委縮しているように感じられる。

 何か緊張をほぐすような方法は無いだろうか、と考える。


「確かに、君たちが騒ぐ理由もわかる。そこで、友好の証として、私の特技を披露しよう」


 そう立ち上がると、厨房の中で一番切れ味の良さそうなナイフを選別する。

 そのあと、近くにぶら下げてあったソーセージを手に取り、そして、宙に放り投げる。

 ソーセージは宙に軽快に舞う。


 俺は集中力を高め、ソーセージの結び目を捕える。


 そしてそのまま……。


 斬る。



 するとソーセージが結び目の所から、キレイに斬れて切り離される。

 そしてそのまま俺は宙にあるソーセージをキャッチする。

 使用人たちはその技に見惚れており、気が付いたら拍手が巻き起こっていた。


「素晴らしいです!」

「エドワード様は剣の腕だけではなく、ナイフさばきもお上手なのですね!」


 俺は料理長を呼び、ソーセージを確認してもらう。


「すごい……腸の皮の部分は一切傷ついていない!本当に結び目だけしか斬ってない!」


 料理長は驚きの表情を浮かべる。

 俺は拍手が鳴りやむのを待ち、そして言う。


「素晴らしいでしょう?これはそこのメイド長であるリゼから教わった技です」


 そう俺が言うと、使用人たちは皆リゼを見る。

 そんな視線に、リゼは恥ずかしそうにしているが、どこか誇らしげな様子も伺える。

 俺はそんな使用人たちの反応に満足しつつ、料理長に話しかける。


「このソーセージを焼いてもらえますか?私の分と……あと、君たちの分も」


 使用人たちは、顔を見合って少し困惑している。


「どうしたんです?皆さんも食べましょうよ」


 俺がそう言うと、料理長は戸惑いながら俺に言う。


「しかし……勝手に食材を使うと、三人方に怒られてしまいます……」


 俺は料理長の肩を叩き、笑顔を見せる。


「大丈夫だ。このソーセージの件は俺が責任を持つ。三人が何か文句を言えば、俺の名前を出せばよい」

「しかし……」


 料理長は困惑する。

 俺はそんな料理長を安心させるために、付け加えるように言う。


「それに……これは私のためでもある。私は君たちの料理が食べたいのだ!貴族向けのどきつい料理ではなく、素朴な味の……ね」

「わかりました。そこまで言うのであれば……」


 料理長はソーセージを焼き始めた。

 俺はそんな料理長に礼を言ったあと、そのつなぎのために、こんどは籠にあったリンゴを三つ取り出す。


「驚くのは早いぞ。実はこういうこともできるのだ」


 そう言いながら、俺はリンゴを一つ、また一つと宙に放り投げる。

 そして、リンゴが落下するタイミングに合わせて、また手に取る。

 つまり、前世的に言えばジャグリングというものである。


「すごい、エドワード様。巧みだ」

「リンゴが生きているようだ!」


 使用人たちは、そんな俺のジャグリングに拍手喝采を浴びせる。


「おい、誰でもいいぞ。リンゴをこちらに投げてみよ」


 だいぶ緊張感がほぐれてきたのか、使用人たちは、俺の言う通りにリンゴを投げてくる。

 俺はそれを元あるリンゴを上手く回しながらキャッチする。

 俺が回しているリンゴは、四個…五個……と増えていき、最終的に七個になった。


 料理長が焼けたソーセージを木皿に盛り付けたのを見ると、俺は最後に宙になげ、近くのナイフで斬る。

 すると、リンゴは宙で八つに分かれた。


「うわー!!」


 使用人たちは驚きの声をあげ、そして拍手をする。

 俺はナイフをテーブルに突き刺し、リンゴを近くの皿でキャッチすると、それを使用人に配る。


「さあ、食べよう!」


 そんな俺の声に、使用人たちも納得してくれたようで、リンゴを食べ始める。

 すると、次第に皆の表情が明るくなっていった。


「美味しい」

「リンゴはこういう味だったのか!」


 俺のジャグリングや、ナイフ捌きに感嘆していた使用人たちも、今は純粋に料理の味を楽しんでいる。

 そんな使用人たちを見て、俺は満足したが、それ以上に嬉しかったのはリゼの言葉かもしれない。


「エドワード様、こんなに成長されて……」


 俺は、そんなリゼに笑顔で答える。


「ありがとう、リゼ」


 そして、俺たちはソーセージとリンゴを食べながら談笑し、楽しいひと時を過ごしたのだった……。

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