『勇者物語』の世界へ
「しかし、やっぱエドワードは可哀想な奴だよな」
これは、俺が大好きな『勇者物語』というRPGの、序盤の感想だ。
序盤というのは、悪役貴族・エドワードの物語だ。
何故、俺がエドワードのことをかわいそうだと思うのか。
エドワードというのは、子供の頃、政治的な陰謀に巻き込まれ、両親を殺害されてしまう。
そして、預けられた先の貴族というのが無知・無能・貪欲・傲慢・短気……とまあ、数を数えたらきりがないほどの酷い貴族。
そこで育てられたものだから、部下を酷使し、メイド達を虐待し、民を搾取するという、酷い貴族になってしまった。
しかも、そんな家庭に育てられたものだから、冷酷で無慈悲、良心の無い人間に育ってしまい、もはや救いようが無い。
当然、こんな貴族の下では生きられるものか、と民が決起し、主人公と共に立ち上がり、エドワードは家族共々に処刑されてしまう。
普通だったら、オークのように醜くくて、下品で、どうしようもない貴族が主人公に倒されてしまうのは、爽快感があって良いのだが……。
「しかしなあ……」
果たして、エドワードみたいに、家族を殺され、そして受けいれた家族が典型的な毒親・毒兄弟で、酷い扱いを受けた……ということになれば、どんな才能のある人間であれ、真っ当に生きることは難しくなってしまう。
実際のところ、このエドワードは序盤で主人公たちに殺されるのだが、コアなファンからはエドワード人気はそこそこにあり、「エドワードを救いたい!」という二次創作なんかもあったりする。
そして、実は、俺はちょっとエドワードのことも好きではあったりする。
エドワードは、もし真っ当な家族に育てられていたら、真っ当に育っていれば、きっと良い奴になっていただろうに……と思わせる魅力があるのだ。
だがしかし、そんなエドワードはゲームの世界では主人公によって殺されてしまう。
「う~ん……」
俺は、エドワードのことが可哀想に思えて仕方が無い。
だが、ゲームのシナリオ上、エドワードは主人公に殺されてしまう。
可哀想だけど、殺されても仕方が無い……というか。
「もし、俺がエドワードだったら、どうするだろうな。両親を殴り飛ばして、家出して、それで真っ当な家族と共に平和に暮らすのかなあ」
椅子に寄り掛かりながら、俺はそんなことを考えた。
すると、急にPCの画面が光り輝き始め、こんなセリフを発し始めた。
「ならば、貴方はエドワードを救ってみてください」
俺はその光に驚き、椅子と共にそのまま後ろに倒れる。
そして、そのままベットに頭をぶつけ、気絶してしまった。