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つまらない世の中

作者: 雉白書屋

『んでー、おれ、その後輩に言うたったんですよ、お前ホンマアホやなー! って』


『ぬはははははは!』

『あははははは!』

『ひーっひひっひひひ!』



『さあ、画像のフルーツはなに? お答えをどうぞ!』


『んー、プイナッパル?』


『残念違います! 正解はココナッツ! いや、その前にプイナッパルってなんだよ! ははははは!』



『なんとここで使うのが……重曹!』

『これ、おいしー! 舌の上で溶けちゃうー!』

『残念チャレンジ失敗!』『くやしー!』

『で、現役時代に監督に言われたことがあってぇ』

『ここが評判のお店なんですねぇ。さっそく中に入ってみましょう!』

『ぬぅぅぅぅ……ポー!』『あはははは! ポー!』『ポー!』

『あれ……女優の、え、嘘、なんでここに? 嘘、キャー!』『ふふふっ、バレちゃった。でも、しぃー』

『ゲホッゴホッ、ワサビいれすぎだよぉー!』

『あれ? ボールは?』『後ろ後ろ! ホンマ、運動神経ないなぁ!』

『ちょっと勘弁してくださいよぉー落とし穴って何すかこれぇー!』


 つまらないお笑い芸人のつまらない後輩とのつまらない話。つまらないクイズ番組のつまらないタレントのつまらないわざとらしい間違い。使い古された生活の裏技。わざとらしいリアクション。アイドルのしょうもないチャレンジ企画。引退したプロスポーツ選手の擦り倒した話。お店紹介。つまらないギャグ。ヤラセ臭。予定調和。わざとらしいわざとらしい、自分をバカに見せ笑われる芸。共演者が相互扶助の精神で笑い笑い。

 つまらないテレビ番組だ。ああ、つまらないつまらない。つまらない連中がつまらないことをして、つまらない人々がそれを真似し、つまらないが世に蔓延していく。

 そしてみんなでゲラゲラ笑う。どうして、こんな世の中になったのか。

 これもそれも、おもしろい薬が世に出たせいだ。

 おもしろい薬というのは、そういった製品名なだけで実につまらない錠剤だ。それを二つばかし飲むとなんでも面白く感じるのだ。と、いうと麻薬のように聞こえるが中毒性はない。現に今、おれはちっとも飲みたくないのだ。

 しかし、飲まなきゃ飲まないで面白くない。周りの連中に笑われるのだ。あいつムスッとしているぞと、何で飲まないんだ、と。それまた何が面白いのか、囲み笑われ、こっちはちっとも面白くない。

 老若男女問わず、箸が転んでもおかしい年頃、酔っ払い、ヤク中のようになり、どんなにつまらないテレビ番組でも笑わずにはいられない。

 つまらない映画でも場内は笑いの渦。果ては美術館でも笑ってしまう。葬式だってちゃんちゃらおかしい。知らねえ坊主がリズムとってるよ! ふははははは! と笑い笑い。

 不思議なことに業務など、ほとんど支障がないという。器用なのか、笑っていてもできるような仕事なのか、ミスしても気にしないのか。むしろ商談が捗ると評判だ。笑顔は争い、対立の発生を遠ざける効果があるらしい。


『この時間のニュースをお伝えします。えー、もう間もなく総理の記者会見が始まる模様です。会場と中継を繋ぎます、ふふっ』


『えー、皆さん、こんばんは。内閣総理大臣です。国民の皆さんにお伝えしたいことがございます。

また増税します! 薬を毎月、国民の皆さんのおうちに配布するためです! 皆さんの周りの人に薬を飲んでいない人がいたら飲むように勧めましょう! ふははははははははははは!』 


「……ふふっ、ははははははははは!」


 これが、おれが飲みたくもない薬を飲まなきゃならない一番の理由だ。こんな世の中、飲まなきゃやってられないのだ。

 ただ、総理は高らかに笑っているが、あいつは薬を飲んでいないのだとおれは思う。

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