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『臼プレスマン』

作者: 成城速記部

 昔、兄弟がありました。兄はまじめで実直でした。弟は正直で利口者でしたがのんびり屋でした。

 大みそか、弟は、歳神様にお供えする米がなくて困っていました。のんびり屋ですから、自分の食うに困るのは我慢できますが、歳神様にお供えする米がないのは、人としていかがなものか。そういうようなわけで、弟は、兄に、米を借りに行きました。

 兄は、けんもほろろに断りました。ここでお前を助けたら、お前は来年も米を借りに来るに違いない。人に頼らずに何とかしてみろ。

 兄の言うことももっともです。弟も、人に何とかしてもらおうと思ったわけではないのです。いえ、少しは、そんな気持ちもありましたが。さて、どうしたものでしょう。弟は、妙案を思いつくこともなく、ただふらふらと歩くことしかできませんでした。

 気がつけば、鎮守の森まで来ていました。弟は、歳神様にお供えする米がないことを、鎮守の森の神様に伝えてもらおうと、お参りをしまして、もとの道に戻りますと、長いひげの老人が、鳥居の台座に腰かけていました。お若いの、お困りかな。

 それはもう、困っていますので、弟は、事の次第を老人に話しました。なるほど。それはお困りじゃな。しかしよいお心がけじゃ、感じ入りましたぞ。よいものを差し上げましょう。

 弟が、老人からもらったのは、小さなまんじゅうでした。これといって特徴もない、小さなまんじゅうで、もらってどうというものでもありません。これはな、どうということのないまんじゅうじゃ。しかしな、向こうに見える森の中のほこらの裏に住んでいる小人たちは、このまんじゅうが大好物で、このまんじゅうを小人たちにやると、大層喜ぶのじゃ。小人たちがお礼をくれようとするので、石の挽き臼がいいと言うのじゃ。石の挽き臼をもらったら、ここへ戻ってくるがいい。

 弟は、言われたとおり、森の中のほこらの裏に住んでいる小人たちに、まんじゅうをやって、石の挽き臼をもらいました。意外と小さいものでした。小人の持ち物ですから、まあ、当然かもしれませんが。

 老人のもとへ戻ってきました。おお、もらってきたか。この挽き臼はな、欲しいものの名を言いながら右に回すと、それが出てくる、左に回すと出てこなくなるというものでな。宝の挽き臼なのじゃ。一応いっておくが、おもちゃじゃないぞ。あ、いや、意味がわからないならそれでもいい。さ、それを持って帰るがいい。

 弟は、家に戻りました。早速、米出ろ、米出ろ、と言いながら、臼を右に回しますと、米俵が次々と出ました。危うく、米俵の下敷きになるところでした。弟は、酒も出し、ごちそうも出して、歳神様に供えました。無事に年が越せます。

 ということで正月になりまして、兄が様子を見に来ました。すると、どういうわけか、米俵が積まれています。きのうは、あんなに困っている様子だったのに、一夜でどうなってしまったのでしょう。おい、弟よ。何があったのだ。いや兄さん、そんなことより菓子でも食わんか、酒でも飲まんか。

 そう言って弟は、奥の間へいきました。菓子出ろ菓子出ろという声がして、弟が戻ってくると、菓子をたくさん抱えています。かわやへ立つふりをして、奥の間をのぞいてみますと、小さな石臼がありました。多分、あの臼に秘密があるのでしょう。

 兄は、弟に、酒を所望し、弟に飲ませて眠らせると、臼を持って逃げました。

 逃げて逃げたら、浜に着きました。船が置いてあります。臼を盗んだら、もう、船を盗むのにためらいはありません。沖に向けて、こぎ出します。もう追っ手が来ても怖くありません。

 兄は、臼の能力を試します。何を出してみましょう。船の上ですから、酒を出しても飲めません。船を出してみるのもおもしろそうですが、この兄は、そういう性格ではありません。試しにプレスマンを出してみることにしました。

 プレスマンといえば、どの色がお好きですか?全部?そりゃそうですよね。愚問でした。

 兄は、白が好きでしたから、白プレスマン出ろ、白プレスマン出ろ、と、うすをぐるぐる回しました。

 すると、出てくる出てくる、白プレスマン。しかし、おやおや。少し見た目が違います。表面がつるっとしていないといいますか、結晶が見えるといいますか、そう、ちょうど塩でプレスマンをつくったら、こんな感じになるのではないでしょうか。

 も、もしかして、滑舌が悪くて、塩プレスマンと、石臼には聞こえてしまったのではないでしょうか。この世にないものまで出してくれるなんて、すご過ぎます、石臼。

 卵プレスマンとか言ったら、黄色いやつが出てきますかね。草プレスマンとか言ったら、緑のやつ、とか。

 それはさておき。結構な本数が出てきました。何万本にもなりますが、そろそろ止めたいです。兄は、石臼に頼んでみました。でも、石臼、塩対応です。脅してみてもだめでした。かわいく言ってみてもだめでした。

 男は、仕方がないので、塩プレスマンをどんどん捨ててみましたが、石臼が、どんどん出してくるので、一進一退の攻防が続きました。しかし、兄は、どうしても眠くなり、最後は、石臼と大量の塩プレスマンと一緒に、海の底に沈んでいきました。

 海の底では、今でも、石臼が、せっせせっせと、塩プレスマンを出し続けているので、海はあんなに塩辛いんだということです。



教訓:金属部分は海水に溶けないから、海の底には、プレスマンのメカ部分がたくさん沈んでいるわけですね。


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