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お裾分け

作者: 齋藤 リョウスケ

※この作品は「春の推理2023」の為に書き上げた作品です。


どうも、齋藤です。

今回の作品は「推理」なのですが、なんとなく「意味が分かると怖い話」の様になってしまいました。

少しでも楽しんで頂けると幸いです。


では、どうぞ。

 四月。

 それは新しい出会いや生活に胸を躍らせるのと同時に、知らない事への不安に駆られる時期でもある。勉学に励みながら、新たな友人や恋人を作ったりと期待に胸を膨らませる中、本当にそんな事が出来るのかという暗い思考を巡らせる。

 多くの人間がこの感覚を味わった事があるだろう。


 現に僕、丸岡(まるおか) 侑斗(ゆうと)もその感覚に陥っている一人である。

 ……いや、少し違うかな。僕の場合は、そんな明るい思考など持ち合わせていない。ただ単にこの春から始まる『一人暮らし』に戦々恐々としていた。

 隣の人が怖い人だったらどうしよう、家賃が払えなかったらどうしよう、この部屋が実は事故物件だったらどうしよう……。

 そんなネガティブ満載な妄想をしながら、一人悲しく荷物を運んでいた。


「よいっしょ!……ふぅ、これで全部かな?」


 僕は一度、部屋をぐるっと見渡した。小さなアパートの一室である為、必要最低限の物しか持って来なかった。


「よし、大丈夫そうだな」


 確認を終え、一仕事を終えた僕はベッドに腰を下ろし、次に何をしようか考え始めた。

 すると、グゥーという音が部屋に鳴り響いた。机の上に置いてあるデジタル時計を見ると、既にお昼の12時を回っていた。

 なるほど、それならお腹が鳴っても仕方がない。


「ちょっと気分転換も兼ねて、コンビニで何か買ってくるか」


 僕はベッドから離れ、財布を右側の前ポケットに入れ、お気に入りの靴を履いて玄関を出た。




 玄関を出ると左側に人影を感じた。

 僕は咄嗟に息を潜めたが、時既に遅かった。

 その人と目が合ってしまったのだ。

 しかし、僕はその人を一目見て息を呑んだ。


 美人だ。

 肩より少し下まである黒髪ストレートで、大きな目が可愛らしく、右目の下には泣き黒子があった。真っ直ぐと通った鼻筋をしており、全体的にナチュラルな化粧をしていた。

 服装はどこか良いところのお嬢さんの様であるが、とてもラフな格好ではあった。


 もう一度言おう、美人だ。

 それが僕の彼女に対する第一印象であった。


「えーっと、はじめまして、ですよね?」

「あ、はいっ!今日からこの106号室に住む丸岡です」


 僕は上半身だけを外に出しながら、彼女に対して軽く会釈した。

 そんなみっともない僕を見ながら、彼女はクスクスと笑った。


「私は一番端のここ、107号室に住んでる三上(みかみ)です。よろしくお願いします」


 彼女は笑顔で僕を迎えてくれた。

 春の暖かい風が、僕の頬を優しく撫でた。

 お陰で僕の頬は真っ赤だ。




 それから約一週間の時が経った。

 僕はどうしてかアパートの住人や大家さんと仲良くなっていた。

 特に彼女と顔を合わせる日が多く、その度に話し込む位に仲が良くなった。そして、いつの間にかお互いを下の名前で呼び合う様になっていた。


 三上 聖奈(せいな)さん。

 僕よりも2つ年上であり、なんと僕と同じ大学に通っている事が判明した。

 改めて大学受験を頑張って良かった、と思ったのはここだけの話だ。

 性格はとてもおっとりとしているが、実は結構おっちょこちょいであったりする。そのギャップが彼女の良さを更に引き立たせていた。

 そして、一番の重要事項!

 彼氏はいない、との事である。




 ある日の夜、僕がいつもの様に夕食の準備に取り掛かろうとした時、突然インターフォンが部屋に鳴り響いた。

 玄関へ行き「…はい?」と不安の混じった返事をすると、「あの〜」という少し困った声が返ってきた。

 その声の持ち主は間違いなく、彼女のものであった。僕はすかさずに玄関を開いた。


「聖奈さん、どうしたんです、か……?」


 僕は戸惑った。状況が飲み込めなかったのだ。

 それはどうしてか。

 彼女が少し小さめのタッパーを持ちながら立っていたからである。


「実は今日の夕飯、作り過ぎちゃって……。だから侑斗君にお裾分けをと……」


 彼女は頬を少し赤らめ、少し俯きながら申し訳なさそうに話した。

 状況をある程度把握した僕は、その問いに対する答えを既に出してはいたが、あえてこの質問をしてみた。


「えーっと、何を作ったんですか?」


 すると、彼女は赤らめていた頬を更に(あか)く染めた。そして小さな声で教えてくれた。


「……肉じゃが、です」


 僕の心臓が大きく鼓動したのが分かった。

 体中のあらゆる血管に熱い血液が流れ、僕の身体は今にも沸騰しそうであった。今の顔を鏡で見てみたら、間違いなく爆発寸前になっているだろう。

 そんな僕に彼女はとどめを刺す一言を言い放った。


「もらって…くれる?」

「はい、喜んでっ!」


 僕の声はアパート中に響き渡った。

 普段の僕であれば『迷惑を掛けてしまった』や『恥ずかしい』と思ってしまうだろう。しかし、今の僕は彼女からお裾分けという名目で手作り料理を貰える事がとても嬉しく、全くもって気にならなかった。




 その日から彼女はほぼ毎日、お裾分けという理由で手作り料理を持ってきてくれる様になった。

 彼女の料理は毎回違い、そのどれもがお店で出せる程の美味しさなのである。

 僕は毎回幸せを噛みしめながら、彼女の料理を食べていた。


 実のところ、彼女からのお裾分けは僕にとって大いに助かっているのだ。

 というのも僕は自炊が全く出来ないのである。試しに一回料理を作って見たのだが、結果は散々であり、手にいっぱい絆創膏を貼る羽目になってしまった。

 だから彼女の料理がなければ、今ごろ僕の主食はコンビニ弁当になっていたであろう。

 だからこそ彼女に尊敬の念を抱き、そして、同時に好意を抱いた。




 彼女からお裾分けをもらい始めて10日が過ぎた。

 今日もソワソワしながら待っていると、いつもの時間にインターフォンが鳴り響いた。

 急いで玄関へ行き、「はい?」と声を掛けると「私です」という声が返ってきた。

 玄関の扉を開けると、そこには大きな鍋を持った彼女の姿があった。


「こんばんは。今日も持って来ちゃった」


 そう言って、彼女は満面の笑みで鍋を顔の前まで持ち上げた。とても楽しそうな声。

 しかし、僕はなんとなく違和感を感じた。少しぎこちない笑み。


「今日の料理はなんですか?」

「今日はビーフシチューよ。少ししょっぱくなっちゃったけど」


 やっぱり今日の彼女は少しおかしい。

 言葉で説明しろと言われると困ってしまうが、何処かいつもの彼女らしくない。

 僕は聞かずにはいられなかった。


「聖奈さん、何かありましたか?」

「……」


 彼女は何も答えてくれなかった。少し困った顔をし、身体を小さく震わせていた。

 僕はそれが彼女の答えだと分かった。

 疑惑から確信に変わる瞬間であった。


「あ、あの、僕で良ければ相談に乗りますよ」


 僕がそう言うと彼女はパッと顔を明るくしたが、すぐに少し困った顔をして言った。


「ううん、大丈夫。心配してくれてありがとう」


 心臓にズキリと痛みが走った。

 彼女が我慢しているのを分かっているのに、何も出来ない自分が不甲斐なくてしょうがなかった。


 10秒程の沈黙が流れた。とても気まずい。

 何か言おう、何か言おうと僕は考えたが、今一つ良い話題が出てこなかった。


「あ、そうだ!」


 彼女が何か閃いた声を出した。

 その顔には困った顔は無くなっており、心から笑っているのが一目で分かった。


「侑斗君の部屋で一緒に食べない?」

「へ?」


 僕は耳を疑った。

 今、彼女の口から発せられた言葉が上手く飲み込めず、理解するのに数秒を要した。そして頭でちゃんと処理出来た瞬間、僕は大声で彼女を制止した。


「ちょちょちょっと待って下さい!僕の部屋汚いからダメですって!」


 僕は全力で彼女を制止した。

 何度も警告し彼女の行手を阻んだ。

 しかしその声虚しく、彼女は無理矢理僕を押しのけて魔界への扉を開いた。

 最初、扉を開いた彼女は「うわ…」という言葉を洩らした。僕は心の中で何度も「お終いだ」と嘆き悲しんだ。


「侑斗君……」


 彼女は僕の名前を言い、こちらを振り向いた。

 彼女の綺麗な髪がふわっと(なび)く。

 そして、彼女の口が開いた。


「まずは掃除をしようか」




 僕は彼女と一緒に自分の部屋を片付けていた。

 どうしてこんな事になったのか分からず、手で物を片付けながら頭で状況を整理していた。その間、彼女は文句一つ言わずに黙々と片付けてくれた。


 掃除を始めて約一時間が過ぎた。

 魔界であった僕の部屋は見違える程綺麗になり、お陰でゴミ袋が4つ出来上がってしまった。

 僕はそのゴミ袋を見ながら、これからはこまめにゴミを捨てようと決心するのであった。


「さて、それじゃあご飯にしようか」


 彼女がそう言うと、持って来たビーフシチューを温め直し、自分の部屋から炊飯器を持って来た。

 僕はというと、八枚切りの食パンをフライパンでこんがり焼いていた。


 ご飯の用意が出来ると、僕達は床に座って「いただきます」と手を合わせて挨拶をした。

 彼女の料理はやっぱり絶品であった。確かに少ししょっぱくはあったが、それでも美味しいと言わざるを得ない程の料理である。僕は無我夢中で彼女の料理を貪った。

 ふと彼女に目を向けると、まるで女神の様な笑顔をこちらに向けていた。僕は恥ずかしくなり、それからは丁寧に食べる事を心掛けた。


 料理を食べ終えた後、僕達は一緒に食器を片付けていた。

 その時、僕は何気なく思った。

 なんだか新婚さんの様だな、と。

 そう考えた瞬間、僕は急いでその考えを振り払おうとした。しかし、もう考えずにはいられなかった。

 心臓の鼓動が早くなる中、彼女を見てみると顔が少し赤らんでいる様に見えた。




 食器を片付けた後、僕達は暫く会話を楽しんだ。

 大学の事やアルバイトの事、彼女の趣味である観葉植物やDIYの話。

 どの話も僕にとっては幸せな時間であった。まるで彼女が恋人になった様な、そんな優越感に浸る事が出来た。

 時間を忘れて話していた。

 時間……。

 僕は時計を見てみると、いつの間にか22時を回っていた。どうやら二時間も話していたらしい。

 彼女が「あっ…」と小さく感嘆した。


「侑斗君、ごめんね。こんな時間まで」

「いえ、僕は大丈夫ですよ。聖奈さんこそ大丈夫ですか?」

「うん、明日は3限からだから大丈夫」


 僕はそれを聞いて安心した。

 しかし夜も更けている事もあり、僕は彼女を部屋まで送る事にした。勿論、僕の部屋の隣である事は分かっている。

 だけど本音を言うと、もう少し彼女と一緒に居たかったのだ。

 彼女の部屋の前まで着くと、彼女はくるっと僕の方を向いた。

 そして囁く様な小さな声で言った。


「侑斗君…おやすみ」


 彼女は控えめな笑顔を向けてくれた。

 何処か不安そうに見えるその笑顔。

 僕はそれに応えるかの様に、笑顔を向けながら言った。


「おやすみなさい」


 僕の言葉を聞いた彼女は、不安が無くなったのか満面の笑みを向け、手を振りながら自分の部屋へと帰った。

 僕もその扉が閉まるまでずっと手を振っていた。

 ガチャという音が鳴った瞬間、僕は無意識に天を仰いでいた。

 長いようで短かった、幸せな時間であった。夜風が僕の火照った身体を冷やした、ように感じた。




 次の日。

 僕は大学から帰って来て、綺麗になった部屋のベッドにダイブした。

 そのまま寝てしまおうかと思ったが、スマホ画面の時計が18時を示していた。今日の予定では19時半に彼女が来るはず。

 仕方なく、僕はウトウトしながらもスマホをいじって時間を潰す事にした。


「キャッ」


 スマホをいじり始めてから20分が過ぎた頃、何処からともなく小さな悲鳴が聞こえた。

 僕は少し驚きながら、上半身だけを起こして辺りを見回した。

 しかし特に周りで変わった事はなかった。


「外の子供達の声かな?」


 僕はそう思う事にして、再びスマホに目を移した。

 しかし、次の瞬間、


 ドタドタドタドタッ!

 ドッ…ドッ…ドッ…ドッ……


 急に部屋がけたたましい音に囲まれた。

 何事かと思った僕は、さすがにベッドから飛び降りた。


「な、なんだっ!?」


 奇々怪々なこの現象に恐れ慄きながらも、僕はこの騒音が一体何処から立てられているのか耳をそばだててみたが、皆目見当がつかなかった。

 騒音は十秒程で治り、辺りに静けさが戻った。まるで騒音なんて初めから無かったかの様に。

 僕はモヤモヤする気持ちを抱えながら、再びベッドに横になり、気を紛らわす為にスマホをいじり始めた。




 暫く経ってから、窓から小さな物音が聞こえた。それはベランダの手すりや床を、タンッタンッと叩いている音であった。

 僕は外を見やると曇天の雲が広がっていた。


「えっ!?雨降ってる?」


 朝のニュースでは雨が降る、なんて事を言ってなかった。その為、僕は急いでベランダに出て、干してあった洗濯物を取り込んだ。

 しかしその時、何処からともなく妙な音が聞こえた。僕は注意深く耳を傾けてみた。すると、


 ギコギコギコ……ギコギコギコ……


 何かを削っている音。いや、ノコギリのような物で何かを切っている音。

 そんな音が隣から、彼女の部屋の方から聞こえて来たのだ。

 どうしてそんな音がするのか、僕は困惑した。しかし、少し考えてみるとその疑問はすぐに解決した。

 彼女の趣味にDIYがあるからだ。

 僕はその答えに辿り着いて、安堵とほっこりした気持ちになった。


 ザーザーザーザー!


 雨足は次第に強くなり行く。

 それに気付いた僕は、さっきよりも急いで洗濯物を部屋に取り込んだ。




 時刻は19時半。

 丁度、彼女がインターフォンを押して、お裾分けにと僕の部屋に来る時間であった。しかし、約束の時間になってもインターフォンが鳴らされる事はなかった。


「聖奈さん、忙しいのかな?まぁ、そんな日もあるよね」


 僕はそう言い聞かせて、無理矢理にでも自分を納得させた。

 しかし、その後も10分、20分、30分と時間は虚しく過ぎ去った。

 さすがに心配になった僕は、自分の部屋を出て彼女の玄関前まで行った。


 玄関前に着くと、変な異臭が僕の鼻腔を通過した。凄く禍々しくて嫌な臭いである。

 だが、僕はこの臭いを最近何処かで嗅いだ覚えがあった。いや違う、『嗅いだ』ではない。正確には『口に入れた』だ。しかし、一体何処で……。

 僕は謎の解けないモヤモヤを抱えたまま、彼女の部屋のインターフォンに指を触れた。


「……」


 僕は生唾を飲み込んだ。額には大量の汗が流れ出し、インターフォンに触れている指は小刻みに震えていた。

 本当にこのまま押していいものだろうか。

 彼女は何かしらの事件に巻き込まれているかもしれない。

 しかし、本当に忙しくて料理すら作れないのかもしれない。

 僕は躊躇っていた。


「やめておこう」


 僕はインターフォンを押さずに指を離した。後者を選んだのだ。

 それ以降、何も言わずに部屋に戻り、財布だけを持ってコンビニへと向かった。




 翌日。

 朝の日差しがカーテン越しだというのに、鋭く僕の瞼を突き刺した。

 僕は身体を無理矢理起こし、辺りを見渡した。昨日はいつものベッドではなくソファで寝ており、机の上には食べ終えたコンビニの弁当が捨てられずに置いてあった。

 僕はそこで彼女の事を思い出した。

 あの後もこの部屋のインターフォンは鳴らされる事は無かった。さすがに不審に思った僕は、もう一度彼女の部屋に行く事にした。


 彼女の部屋の前まで来ると、昨日漂っていた異臭が更に濃くなっていた。僕は思わず顔を顰めた。

 インターフォンに指を掛けると、昨日と同じく震えているのが分かった。そして、心臓の鼓動も早くなっていた。

 僕は一度大きく息を吐くと、「よしっ」と小さく言い、意を決してインターフォンを押した。

 ピンポーンという、軽快な音が彼女の部屋から小さく聞こえて来た。


「聖奈さん、起きてますか?僕です、丸岡です」


 僕がそう呼びかけてみたが、反応は全く無かった。

 もう一度、インターフォンを押そうとした時、ドッドッドッという音が部屋の奥から聞こえて来た。その音は段々と近づいてきて、遂にはその音は扉の前までやって来た。そしてカチッカチッと解錠される音が聞こえた。

 その時、僕は心の底から安堵した。ちゃんと彼女がいる、と。

 解錠された扉が遂に開かれた。が、扉は3分の1程しか開かれなかった。

 どうしたのだろう、と僕が身体ごと開いた所に移動した、その瞬間、


 ザシュ……


 心臓の辺りに急に痛みが走った。

 徐に見てみると、僕の心臓辺りに包丁が突き刺さっていた。包丁を中心にジワジワと紅い血が広がっていく。

 僕はもう一度顔を上げて、扉を開いた相手を見た。そこには彼女の姿は無く、代わりに違う人が立っていた。知っている人だ。


「どう……し…て……」


 僕は口から血を吹き出しながらも、訊かずにはいられなかった。しかし相手は何も言わず、ただただ笑うのみであった。

 僕はその笑いに怒りを覚えた瞬間、視界がグラッと歪んだ。後ろに重心が向く。

 その時、今まで奇怪に思っていた点と点が繋がった。「キャッ」という声の正体、その後の騒音、ノコギリで切る音、異臭、そして、彼女ではない別の人。

 僕は今になって全て分かったのだ。どうしてもっと早く気が付かなかったのだろう。どうしてあの時、インターフォンを押せなかったのだろう。後悔しても仕切れなかった。


 ドサッ!


 遂に僕は仰向けに倒れ込んでしまった。

 それと同時に風が吹きすさび、桜の花びらが舞い上がった。その様子は何処か焦っている様に見えた。

 僕は身体を動かそうとしたが、まるで金縛りにでも遭ったかの様に動けなかった。視界は霞がかり、次第に身体が寒くなっていった。

 僕はもうダメなんだと悟ってしまった。


 包丁を刺してきた相手は僕の両足を持ち上げて、彼女の部屋へと迎え入れた。

 僕はもうされるがままである。

 相手が扉を施錠し、再び僕の両足を持ち上げてリビングへと運んだ。その時、僕は異臭とは違う匂いを嗅いだ。

 最後に嗅いだその匂いは『ビーフシチュー』だった。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!


皆様は数々の奇々怪々の謎と犯人が誰なのか、分かりましたか?

少しだけ纏めました。

・「キャッ」という声の正体

・その後に起こった騒音

・ノコギリの音

・彼女の部屋から漂う異臭

・丸岡を刺した犯人


これより下は解答を記載します。

まだネタバレしたくない方は、これより下にスクロールしない様、気をつけて下さい。

・「キャッ」という声の正体

これは聖奈の声です。彼女の部屋で犯人と出会した時に出た叫びです。

何故、犯人が彼女の部屋に潜伏していたか。それは「丸岡を刺した犯人」の部分でお話します。


・その後に起こった騒音

これは彼女と犯人が争った時の音です。

ドタドタドタドタッ!は彼女が暴れる音で、その後のドッ…ドッ…ドッ…ドッ……は犯人が彼女の首を絞める時の音です。


・ノコギリの音

これはDIYが好きな彼女が作業している音ではなく、犯人が彼女を解体している時の音です。

要は骨を断ち切る時の音です。


・彼女の部屋から漂う異臭

これは彼女から流れ出た血の臭いです。

「何処かで嗅いだ覚えがある」「いや違う、『嗅いだ』ではない。正確には『口に入れた』だ」という文が気になったという人は多いでしょう。

これは初めてお裾分けをしてもらった時の文を読んでもらえると分かると思います。

丸岡が自炊しようとしたが、結果、いっぱい絆創膏を貼る羽目になった。

この時に血を吸った為、なんとなく覚えていたのです。

だから『嗅いだ』ではなく『口に入れた』なのです。


・丸岡を刺した犯人

今回、登場人物が少なかった為、分かる人は多いと思います。丸岡、聖奈、アパートの住人、大家。

まず単刀直入に答えます。

犯人は『大家』です。

では、何故か。理由はとても簡単です。

彼女の部屋に入れるのは大家さん、ただ一人だからです。

大家である為、マスターキーを持っているかもしれないし、合鍵を作って持っている可能性だってあります。

勿論、アパートの住人の可能性もあります。

その場合ですと、鍵を壊すか彼女から鍵を貸してもらって合鍵を作るになります。

しかし、鍵は犯人が出てくる時に壊れていませんし、彼女から鍵を貸してもらうというのは非現実的です。

とてもくだらない理由かもしれませんが、意外とこれが現実的だったりします。


以上、これが今回の推理の答えとなります。

勿論、不十分な部分は多々見受けられると思いますが、ご了承ください。

改めてになりますが、最後までお読み頂き、ありがとうございました!


では〜。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 予想外の展開でした。 聖奈さんが可愛かったので、殺してしまうのはもったいない気もしました笑
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