99話 深淵のシス
「改めまして、ようやく会うことが出来ましたね、お嬢さん。」
元魔王システィーナに挨拶をする。
「遅いわ!何年待たったと思っとるんじゃボケェ!」
口が悪いな。
「私も多忙でね。そうだ、カイネ嬢。彼を頼む。」
ベリアルをカイネの前に転移させる。
「ノエル、二人を送る。面倒を見てやってくれ。(念話)」
「・・・ご褒美。」
「まーたパンツが欲しいのか?変わった娘だ。分かったから頼ん・・・」
「りょ!!」
食い気味で返事をされた。
「アル、まだ私との決着は付いていないぞ。」
カイネとの勝負はベリアルが来て有耶無耶になってしまったか。
「そうだな。帰ったらそのうちやろう。面白い趣向を思いついたんだ。」
「面白い趣向?」
見物だぞ。
「まあ、見ていてくれ。ではな。」
二人を転移。
「お待たせ。」
「・・・この短期間で見違えたのう。その称号、あのダンジョンを攻略したのか?」
あのダンジョン・・・Path to satanの事だな。
「ああ、骨が折れたが何とかね。君も攻略して魔王に成ったのかな?」
「何も知らんのだな。妾は産まれた時から魔王じゃよ。先代のお祖父様から引き継いだのじゃ!」
えっへん、と胸を張っている。
「世襲か、驕っているから足元をすくわれるのだぞ。」
しかしモロクに魔力を封じられた程度でヤられるとも思えないが。
「ち、違うのじゃ!あれは・・・訓練・・・そう!訓練じゃ!国のトップが消息を経った時どんな事態が起こるか、しみれーしょん?していたのじゃ!」
なるほど、分からん。分からんが何か隠しているな。
「直ぐに救出してくれると期待していたのに・・・いつまで経っても来ないではないか!どーなっとんじゃあ!」
キレたぞ。魔力の暴風が吹き荒れる。
エクスから念が飛んでくる。
「主様よ、このガキはこのダンジョンそのもの。見た目に騙されたらいけん。天界では深淵のシスと呼ばれた暴君じゃ。」
深淵のシス・・・。
「いつもの強気はどうした?随分ビビってるじゃないか。」
「阿呆が!この魔力を当てられてビビらない方がおかしいわ!」
そうなのか?
「何剣とイチャイチャしとるんじゃ?早よう、始めるぞ。」
ふむ。
「まあ、待ちなさい。せっかくの頂上決戦だ。ギャラリーがいないのでは味気無いではないか。」
「見物人の事か?呼んでどうする、魔力を当てられただけですぐ消し飛んでしまうぞ?」
「見ていなさい。」
まずはリングか。やはりあれが良いだろう。
緑の大森林を創造した後、巨大な山を作る。中腹辺りをDDでカット。テーブルマウンテンの出来上がりだ。そこに闘技場を創ってと。
「はえー、器用な奴じゃの。」
ふふふ。
次にディスペアにいる全ての者(獣や無機物などを除く知能を有した者)にパス繋ぎ分身を作る。アバターと言うやつだな。
今回は急ごしらえなので外見、服装等のキャラメイクは不可だ。そのままの格好で闘技場に配置。数億の数だが仮想空間なので問題無い。
私とシスを映した馬鹿デカいモニターを設置すると、
オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ
と、大歓声。
「どーなっとんじゃああ!めっちゃ人いるんじゃけど!?」
「「「魔王様あああああああ!!」」」
群衆が魔王に群がるが・・・通り抜けてしまう。
そりゃそうだ。実際にはこの空間には私とシスしかいないのだからな。
「シス様あああああああ!よくぞご無事でえええ!」
ローズが号泣しながらもの凄い勢いで飛んでくるが当然すり抜けてしまう。
「ローズか、久しぶりじゃの。元気そうで何よりじゃ。」
「シス様ああああ!ぐぬぬ!アル様!私もその場に飛ばして下さい!」
すかさずローズから念話が来るが、無理に決まっているだろう。
ローズを八柱のいる部屋に飛ばす。
闘技場内が人で埋め尽くされている。やれやれだ。マナーがなっていないな。
舞台には入れないようにしておこう。
「実際この場には私とシス、君しかいない。この群衆は意志を持ったただの映像だよ。」
「よく分からんが本気を出しても問題無いと言う事じゃな。」
「ああ。嬉しそうな顔をしているね。今まで本気で暴れられる場所も相手もいなかったのだろう?」
「そうなのじゃ!妾が本気を出したらディスペアが吹き飛んでしまうからのう!ハハハハハッ!」
楽しそうだ。長い事退屈してたのだろう。
「それじゃあ、始めるかい。ここに集まったディスペアの配下・・・ああ、すまん元配下か。何か言っておく事はあるかね?」
「ムキーッ!馬鹿にしおって!!皆の者聞けい!妾かアル・ディライト、この戦いに勝った者がディスペアを統べる王となる!異論は認めん!刮目せよっ!」
オオオオオオオオオオオオッ!
大歓声の中凶悪な笑みを浮かべるシス。
楽しめそうだ。ふふふ。
─── 闘技場内 VIPルーム1 side キース ───
オオオオオオオオオオオオッ!
「俺は夢でも見てんのか・・・何て光景だ。」
さっきまでカイネとアルの戦闘を見ていた・・・はずだ。気がついたら見たことも無いデカい闘技場に超満員の客。スクリーンにはアルと前魔王のシスティーナが映し出されている。体は自由に動くが実体じゃねえ。意識だけがこの世界に来てんのか?しかも、これからアルとシスの戦いが始まるんだろ?あーもうワケ分かんねえ!分からねえが俺に言えんのは
「凄えええ!!」
これだけだ。
─── 同VIPルーム side メフィスト ───
「はははっ!流石俺の女だ!最高だぜアル!」
キースが騒いでいるが気持ちは分かる。
だが、奴は男だ。
「ゴルァ!キース!てめ今何つった!」
「げえ!ヨル兄いたのかよ。久しぶり、元気だった?」
「元気にキまってンだろ!それよりよう、今アルの事俺の女とか言ってたよなあ!」
「ああん?それがどうしたよ?」
「人の女に手え出しやがって・・・舐めてんのか?ヤるか?なあ、ヤんのか?おおん?」
キースに詰め寄るヨルム。
「兄貴、何か勘違いしてねえか?アルから付き合ってる奴がいるとか聞いた事ねえぞ。まさか・・・ストーカーか?」
アスと付き合っているんじゃないのか?
「コロす。」
ヨルムの鋭い拳がキースの顔に当た・・・る事無く通過する。
「ちょっ!兄貴、現実じゃないんだから殴れるワケないっしょ!マジウケんだけどw」
アバター同士は接触可能だが暴力行為は制限されているのか。ぬかりないな。
「グガアアアア!この野郎!ぜってーコロす!」
スカッ スカッ
「あははははは!腹痛え!兄貴もう止めてwww」
何やってんだ。
「ここは動物園かな?これからアル様が戦うって言うのに。それにアル様は、わ、私のモノですからね!」
オフィーリアが顔を真っ赤にして宣言するが二人は聞いちゃいない。
「アル様とシス様、私はどちらを応援すれば・・・二人には恩義が有るが、私の〇〇を〇〇して〇〇してくれるのはやはり・・・」
ローズマリーがブツブツ言っている。
アスは奥のバーカウンターに座り酒を飲んでいる。なぜか飲食は可能なようだ。
アス・・・内心は穏やかではないだろう。
これが今の八柱か・・・。はぁ。溜息しか出んな。
アルとシス様、どちらが勝ったとしても大規模な再編成が必要だろう。
今はただこの戦いを見守るのみ。シス様から湧き上がり続ける漆黒のオーラを見て背中に冷たいものが流れた・・・シス様。
─── 闘技場 VIPルーム5 side ベリアル ───
「ここは・・・。」
豪華な調度品に囲まれた広い室内。目の前の一面ガラス張りの窓から見えるのは闘技場?
空に映し出された巨大なスクリーンにはアルとシスティーナが映し出されている。
「意識が戻ったようじゃのベリアル。と言っても我らも来たのは10分程前じゃが。」
そう言うとエールを飲み干すカイネ。
「プハァー!ここのエールはキンッキンに冷えてて美味いのう!実体でも無いのにここまで再現するとは流石アルじゃ!モロクもう1杯よこせ!」
「はっ!カイネ様少々お待ちを!」
奥のバーカウンターでモロクがグラスにエールを注いでいる。
この体は実体ではないのか・・・。
「アルとシスがやり合うみたいよ。てか、アルに勝てる奴なんているのかしら。化け物通り越して神じゃん。」
後ろを見るとシトリーがソファに座りエールを飲んでいる。テーブルには空になったグラスが2つ。
「シトリー様エールお持ちいたしました。」
側近のオラフがエールを持ってくる。
「どや?ビビるやろ。ここにある物全てアルルちゃんが作ったんやで。」
フルフルからエールを貰い飲む・・・美味い。
一気に飲み干してしまった。
「モロク!エール追加や!」
「かしこまっ!」
モロクはエール作りに追われている。部下の者がいないせいか。
「アルルちゃん、いやアルか?どうやった?強かったやろ!」
フルフルが楽しそうに話しかけてくる。
「ああ、お前の報告の通りだったよ。手を出すべきでは無かったかもな。」
最後はシスティーナにやられたワケだが。
「せやろ!マジで半端ないからな!世界を作るなんてウチらでも出来へんやろ?ほんのひと握りの選ばれし神だけが使える御業やで?それを軽々やってしまうんやから。あー、言ってて目眩して来たわ。」
ドカッとソファに倒れ込む。
「神の御業か・・・」
魔王にして神の御業を使う冒険者。デタラメだな。ふふ。
奴はなぜ俺を助けたのだろうか?
何も死ぬ事はねえ。そう思っただけだ。
!
今のはアル?いや誰かの声が・・・気のせいか・・・。
─── 闘技場VIPルーム7 side フェリド ───
アル様の勇姿がスクリーンに映し出され闘技場に大歓声が起こる。いや闘技場だけでなくこの室内にも。
「アルううう!負けんじゃないわよ!」
魔法使いの少女リリムが叫んでいる。
「魔王なんてぶっ飛ばしちゃいなさい!」
確か魔王討伐が目標だったか。今はアル様が魔王なんだが・・・。
「アル様あああ!頑張って!きっとアス様とキース様も見てますよ!はぁはぁ」
ルナが顔を赤くして応援している。この状況じゃあ興奮するのも無理は無い。
「・・・ん。」
メイドのノエルからエールを渡される。
「ああ、すまない、ありがとう。」
「・・・ん。」
バーカウンターではバフォメットがシャイキングをしてカクテルを作っている。
「ジントニックでございます。」
スライスされたライムが飾られている。
「ありがと。バフォさんマスターみたいでかっこいいっすね。」
獣人のラビィがカウンターに座っている。
「恐縮です。」
確かこの二人は主従の関係ではなかったか?(69話参照)
環境が変わると立場も変わる、か。
「美味しっ!バフォさん腕を上げましたね!」
「恐縮です。」
「俺はダブルで。」
ラビィから少し離れた所に座った男が注文する。リリムとよく一緒にいた男だが最近は見ていなかったな。名前は・・・何だったか。
「メイヘム様今日は少し飲み過ぎでは?」
バフォメットがグラスを出し話しかける。
メイヘム!そうだ、そんな名だったな。ここに来る前から飲んでたのか?
「今日は、じゃなくて今日も!な!ははははっ!」
酔っ払っているな。魔法少女との間に何かあったのだろうか?
「ちょっと!メイヘム!何お酒なんて飲んでるのよ!こっちへ来て一緒にアルルの応援するわよ!」
リリムに引っ張られて窓際へつれていかれるが、その顔は嬉しそうだ。・・・グラスは離さないんだな。
「まったく、とんでもねえ方を主にしちまったなあ。見ろよこれ鳥肌が止まらねえぜ。」
ティガーの腕は毛深過ぎて肌は見えない。虎ジョークか?
「毛深くて見えないわよ。馬鹿なの?」
エルフの女性がタバコを吸いながら答える。同意だが辛辣だな。
「・・・ああ、実は私もだ。」
狼のガイウスも腕を見せる。ジョークじゃないのか・・・。
「だから見えないっての。」
フーッとガイウスに向けて煙をはく。
ゴホゴホと咳き込むガイウスを見て笑っているぞ。
「エールお持ちしました。」
ガイウスたちのテーブルにエールを運んで来たのはノエルの部下メイドのタバサだ。
「ああ、ありがとう。」
「お、おお。悪りぃな。」
「ソルティードッグ貰えるかしら。」
「承知いたしました。少々お待ちを・・・ティガーさん、肩にホコリが。あれ、取れないな。ああ、毛玉か。ブチッ。ブラッシングした方がいいですよ。では。」
「・・・いい。」
虎がつぶやく。
「ん?顔が赤いが惚れたのか?」
ガイウスが言うには赤いらしいが、全く分からん。
「馬鹿野郎!小娘に発情するわけねえだろ!」
エールを仰る虎。
「キモ。」
レティシアがつぶやく。
「んだと!俺はただ人間のメスにしては可愛らしくていい子だなと思って!」
ティガーそれ以上はいけない。レティシアが笑っている。
「か、歓声が大きくなって来たな。そろそろ姫様の戦いが始まるぞ。」
ガイウスでかした!
モニターを見るとアル様が何やら話をしている。聞こうと思えば簡単に聞けるが、無粋だ、止めておこう。
あの苛烈な力の奔流を前にシスティーナと楽しそうに話すアル様の顔は年相応の少年のように見える。ははっ、主が楽しそうだと部下も嬉しいものなのだな。
─── 闘技場 アリーナ席 side ヨハン ───
「亜流々総長!マジかっけえええ!」
「待ってましたあ!伝説の素手喧嘩師!」
「総長!!連合のとっぷく!あざああああす!」
「最強!最凶!天下無双!亜流々総長!!」
白いとっぷくを着たキプロス学院亜流々連合所属の隊員が総長に声援を送る。
この席からだと辛うじて総長の表情が見て取れる。楽しそうだ・・・。
総長、俺は震えが止まらないですよ。あの少女から湧き上がる禍々しい力の渦はなんなんすか?通常の魔力とは異なる力。この超満員の会場で気付いている奴は何人いるのろうか。あんな化け物を前に余裕かましてる総長もスゲェが・・・勝てる、のか?
「総長!終わったらウチで祝勝会っスよおおお!」
沙亜車副総長が叫ぶ。
俺は何弱気になってんだ!俺らの総長が負けるワケがねえだろ!
「野郎共!声の限り叫びやがれ!亜流々総長に勝利を!」
「「「亜流々総長に勝利を!」」」
─── side システィーナ ───
「シスよ。ディスペア中の魔物が見ているんだ、一つ、余興でもどうだい?」
「余興?ふむ、すぐに勝負が付いてもつまらんか。いいじゃろ、して何をする?」
ゆらり、と剣を構える。
「魔王なら当然使えるんだろう?」
ほお。ニヤリ
「主よ・・・いやワシはもう何も言わん。ワシも格好つけにゃならんけぇの。好きにせえや。」
喋る剣。アルが使うのは聖剣か。ふむ。
「もう後戻りは出来ぬぞ。くくく。」
召喚した剣を抜く。ダインスレイブ、妾愛用の魔剣よ。
低く構える。
静寂。
ゴウッ
アルの足に斬撃を打ち込む。
剣で受けるが力を流しきれていない。血がまっさらな舞台に舞いアルの後ろの客席が消し飛ぶ。
客に影響は無く建物もすぐに元の状態に再構築された。
オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ
歓声が起きる。
「速いな。だがそんな技あったかな。」
「技?ただの突きじゃよ。」
極めるとはこう言う事をいう。
「・・・たまげたな。やはり君が作ったのか。」
「左様、ディスペア流の開祖は妾じゃよ。」
ドヤッ
「礼をせねばならんな。この剣術が無ければ私はこの場にはいなかった。いや、それどころか生きてさえいまい。ありがとう。」
深々と頭をさげる。
「・・・阿呆か。これからヤり合う相手に頭を下げてどうする。」
「それはそれ、これはこれだ。」
「はぁ、最初に合った時から思っておったがやはり貴様変わり者じゃの。」
「ふふふ。よく言われるよ。」
ゴウッ
妾の横を魔力が走る。客席は筒状に巨大な穴。
突きか。真似っ子め。殺気が無いから反応出来んかったわ。
「かあ!リミット無しでかますのは気持ちいいな!」
ふん、妾の方が威力は上じゃ!
「それじゃあ、これは出来るかのう・・・永久の業火。」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ボウッ
奥義永久の業火を剣に纏わせる。有体に言えば炎の剣か。剣に留める為に膨大な魔力を必要とする為使い手が限定される。
「これがディスペア流における基本姿勢じゃ。これが出来ねば話にならんのう。」
奴には出来んじゃろ。なんせこれを習得するまでに数百ね・・・
ボウッ
出来とる!!?なぜじゃ!!
「やはり、ただ魔力ぶっぱなすのが最終奥義ってのが解せなかったが、こう使うのか。調整に魔力がかなり必要だ。威力は高いが燃費は悪いと言ったところかな。」
なんじゃと!?ぐぬぬ。
「準備は出来たぞ。それじゃあ打ち合おうか。」
「言われずとも」
「流星」
「シューティングスター」
分かっているじゃないか。
やはり初手はこれよ。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド




