77話 ノエル ⭐︎挿絵あり
侍女の朝は早い。
主人より遅く起きる事は許されない。
朝食の仕込みをした後、気配を消し主人の部屋へ転移。
私は気配を消すのが得意だ。元々の影の薄さも相まって誰にも気づかれない自信がある。
室内に異常はない。
私は気配を探知するのも得意だ。本気を出したら数キロ範囲の物の動きを把握する事も可能。この能力も誰にも負けないと自負している。
寝息を立てている主人を見る。・・・かわいい。
気持ちよく寝ている主人を起こす事は許されない。
お布団の中に入る。中に敵影無し!よし!
指差し確認は重要だ。
あ、主人の髪からいい匂いがする・・・はぁはぁ。
主人は連日の戦いで疲れている。筋肉を揉みほぐす施術を行う。
体に触れてはいけない。それでは単なる犯罪者だ。あくまでもマッサージなのだ。
尻尾を手に取る。
尻尾はセーフなのだ!これはアイテムなのだ!
もみもみ もみもみ もみもみ こりこり
「ふぁ、あっ、ふーっ、ふーっ。」
主人が悶え出した。かわいい。
尻尾を触る手に力が入る。
もみもみ すこすこ くりくり すりすり
「あっ、やっ、あっ、ああ。」
大きくなってきた(尻尾の先が)。そろそろだ。
「はあ、はあ、あっ、あっ、あんっ!」
施術コンプリート!あっ起きそ。転移。
今日も主人を気持ちよく起こしてあげる事に成功した。ふぅ。
食事の用意が終わる頃主人から念話。
「ノエルおはよー、髪お願い。」
「・・・ん・・・。」
私は髪を結うのが得意だ。繊細な魔力コントロールで髪の一本一本を動かす事が出来る。
「今日はお団子でお願いね。」
しゅるしゅる
後頭部にお団子が出来た、
「かわいい!ありがとう!」
「・・・ん・・・。」
主人が抱きついてくる。
何だろう。体の中がぽかぽかする。
これが 幸せ と言うやつなのだろうか?
私は転生者だ。前世の記憶は僅かにだがある。
好きになった相手への一途な思いが招いた悲劇。彼の事が好きすぎる余り、彼の後を付け家を特定。合鍵をゲットし度々侵入。食事を作ってあげたり、朝添い寝してあげたりしたらなぜか激怒されて・・・最後は彼の家に入り浸る売女と言い争いになって刃物で刺されて死んだんだ。
転生後は持ち前の隠密能力でスラムを生き延びる。金銭、食べ物、服から武器まで盗めるものは何でも盗んだ。それが組織の者の目に止まりモロクの配下になったのだ。
任されたのはスパイ活動。どんな場所でも潜入し情報を持ち帰る事が出来る私は重宝された。
このままこの闇の世界を死ぬまで生きるのか・・・。と思っていた矢先主人が現れた。モロクを倒した主人は圧倒的強者である。本来恐怖する存在のはずなのだ。だが普段の主人はただのダメ人間。朝起きる事も出来ず、髪を梳かすのも面倒がり、メスに言い寄られれば直ぐ靡く、どうしようもなく本当にどうしようもなく・・・愛しいひと。
私が守ってあげなくては!と思い今に至る。
不思議なものだ。たった一人との出会いで人生とはここまで変わるのか。
主人の不思議な魅力にどんどん人が集まって来る。今度は領主になるそうだ。
それこそ、命を狙われる危険性が跳ね上がる。
正直主人が負ける姿は想像も出来ないが、モロクやバフォメットのような搦手の能力者と当たれば結果は分からない。不安だ。
誰が何を考えているか分からない。警戒は常にしておかなければ。
最近仲間に迎えられた、あのウサギも敵のスパイだった。敵と念話しているのを探知し盗聴したのだ。
話しを聞く限り完全に寝返ったとみえるが油断は出来ない。念話をしていた相手が気がかりだ。拷問して吐かせるか?いや主人が許さないだろう。監視を続けるしかない。
でも私一人では限界がある。後進を育成せねば。やらなければいけない事は多岐にわたる。焦燥感に苛まれる。
だが目の前で目玉焼きを食べる主人の顔を見るとヤル気がみなぎってくるのだ。
朝食後、主人は新たな拠点を見てくるといい出かけて行った。
今この家には私一人。
ゴクリ・・・
一度冷静になり敷地内の気配を窺う。人の気配なし!よし!
主人の寝室に駆け込みベッドへダイブ!
「はあ〜アル様のいい匂いがするよう!アル様!アル様あ!くんかくんか、はうう!」
布団を被り悶える。
「はああ!アル様に抱きしめられているみたい!」
思わず手が下に伸びてしまう。
「あっ、すごい、アル様、そこいい!もっと触って!アル様気持ちいいよう!」
ギィ
!!!?
ベッドから飛び跳ね部屋の隅へ着地。ナイフを構え魔力探知の感度を限界まで上げる。
・・・・・・・・・。
さっきと変わらず敷地内に生物の気配はない。
気のせいか・・・。だが一瞬、気配を感じたような。いややはり気のせいだろう、私の探知に掛からないモノはいない。
良かった、もし見られたら消さなければいけないところだった。心より安堵する。
さて、
続きをしようか。
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side アル
「じゃあ行ってきます。」
ノエルに挨拶してロッジを出る。
転移。
ローズのエリア上空へ。
空から見ると被害状況がよく分かるな。
地上に降りると子供たちが集まってきた。
「お姉ちゃん何か食べる物ない?」
「お菓子ちょうだい!」
お腹を空かせているようだ。
「あ、ごめん、バッグ忘れちゃった。取ってくるからちょっと待っててね。」
部屋に転移。
シュン
「アル様気持ちいいよう!」
床へ着地。
ギィ(床が鳴る)
何かヤバい!ステルス!(ディメンション・モード・ステルス)
ノエルが飛び退き部屋の隅でナイフを構えこちらを見ている。見えていないはず、だよね?緊張で汗が流れる。
凄まじい魔力の集束。気配を探っているのか?
暫しの沈黙。
ナイフをしまい、服を脱ぎ出す。
え!何してるの!?
ベッドにダイブして身をよじらせている。
「アルしゃまあ、おまたせしましたあ!あっ、いいですぅ、そこ、そこですう!きもちいい!もっとしてえ、このヘンタイのあたしに、いやらしいお仕置きもっといっぱいしてええ!はう!」
ノエルがこんなに喋ってるの見たの初めてかも・・・てかこれ、見ちゃいけないやつだ。
転移。
その後バッグを手元に転移させる。
最初からこうしとけば良かった。
てかアタシの周りヤバい人しかいないじゃん。
「お姉ちゃんどうしたの?」
「顔色悪いよ?」
子供たちに心配されてしまった。
「ごめんねえ、ちょっと悪夢見てたから。でももう大丈夫だから。」
自分でも何を言ってるか分からないがあれは夢だ。きっと白昼夢だ。現実じゃないんだ。子供たちにお菓子と僅かな食糧を分け与える。
なんてこった、朝から凄いもの見ちゃったよ。
ぐるぐる。頭が回る。ふらふら
ドンッ!
「にゃ!」




