63話 フォーリング・ダウン
気配を消す。
存在が希薄になり周囲に溶け込む。
「すごっ、今まで見てたから気付けるけど、ちょっと目を離したら見失いそう。」
さらに・・・
ディメンション・モードステルス。
アタシのディメンションは生物が見ることの出来る光を屈折させ、更に紫外線、赤外線、熱放射、匂いすら隠蔽する。
「えっ!アルルが消えた!」
「ここだよ。」
リリムに触れる。
ドゴォ!
「ちょっと!変なとこ触らないでよ!」
殴られた。変なとこってどこよ?
「素晴らしい!師匠!その技、今度是非教えてください!」
・・・やだよ、お前に教えると身の危険を感じるから。
「機会があればね。」
「絶対ですよ!」
息荒いよ。
「それじゃあ作戦開始だピョン!」
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sideモロク
「おい!警戒を怠るなよ!」
念話で部下に声を掛ける。
部下たちは遺跡の周囲に散らばってそれぞれ数キロ四方を監視している。
魔力反応があれば直ぐ連絡が入るはずだ。
里長の老婆が近ずいてくる。
「おい!動いていいとは言ってないぞ!」
側近のシーダが答える。
「お前たちは何者じゃ。なぜ、この村を襲う?ここには金目の物は何もないぞ。せいぜい魔術書くらいじゃ。」
「この村には用はねえよ。これからやって来るガキを始末したら解放してやる。」
「ガキとは何じゃ!?まさかリリムの事か!?」
「違ぇよ。そいつは標的じゃ無え。」
「そ、そうか・・・。しかし子供を殺すなど良心が痛まんのか。」
「ハナからそんなもん無えよ。」
シーダが吐き捨てる。
その時、
ヒュルルルルルルル・・・・・・ドパアアアアアアン!
空に光り輝く大輪の花が咲き乱れる。
何だあの魔法は。
「お喋りは、そこまでだ。ゲストが到着したらしいぞ。もてなしてやれ。」
モロクの表情が獰猛な物に変わる。
「隊長、奴ら3人じゃなかったのか?2時方向、距離600、複数の魔力の接近を感知!」
「この数、何だ?何が起きてる?」
傍に控えているガイウスが言う。
「敵は数十人規模!ん?あれはゴブリンか?いやしかし、この魔力は!?」
部下からの念話が入る。
「出現したゴブリンと戦闘中!こいつら剣術を使うぞ!」
ゴブリンが剣術を?何の冗談だ。
「このゴブリン。あのガキに操られてるな。魔力密度が桁違いだ!一旦遺跡の結界エリアに戻れ!」
部下が叫ぶ。
「了解!え?何だ!?ここは?隊長!やられました!別の階層に転移されました!」
強制転移だと!?そんな事可能なのか?
「お前ら直ちに結界内に戻れ!」
しかし部下の魔力反応は次々と消える
「くそ!6匹のゴブリン共と一緒に転移した!こいつらデタラメに強え!」
念話は通じるようだかこれは不味い。こんな搦手を使って来るなど想定外だ。
やはりこの結界の事はバレていると考えて間違いないだろう。
「隊長、転移先に標的の仲間を確認!これより戦闘を開始する!」
標的はどこだ?はっ!?
「シーダ、ガイウス。警戒しろ。奴は近くに居るぞ。」
この結界内には入れないはずだ。奴なら気付いているだろう。
ズウウウウウウウウウン!!
なっ何だ!今の揺れは!?
!? 結界の外の森が数百メートル規模で消失して、クレーターが出来ている!
ズウウウウウウウウウン!
ズウウウウウウウウウ!
結界の周りを手当り次第攻撃している。脅しのつもりか!?
くっ!
「アル・ディライト!姿を現せ!出て来なければ、ここにいる奴らを1人ずつ殺す!」
「・・・俺の名前知ってるのか。へえ。後よお、そんな奴らどうでもいいんだけど?お前らこそ結界解いて出てこいよ。命だけは助けてやる。1分以内に出て来なければこの階層ごと吹き飛ばす。さあ、その結界に耐えられるかな?ふふ。」
!! 念話か!?しかし、これは本気で言っているのか?
「はい、スタート。早く決めな。」
嘘だ、嘘に決まっている。出来るわけが無い!
「あと、50秒」
おい、何だこの異常な魔力の集束は・・・!大気が震えている!奴の姿は見えないが間違いなくそこに居る!
「隊長!あの野郎マジだ。こんな化け物相手にしたのが間違いだった!結界を解いてくれ!」
シーダが懇願してくる。
「馬鹿野郎!それこそが奴の狙いだ!はったりに決まっている!」
「あと30秒、もう時間ないよ?」
奴の上空に雲が渦を巻き、猛烈な風が吹き荒れる。
「モロク隊長俺からも頼む!こいつはマジでやる気だ!魔力量見れば分かんだろ!結界を解いてくれ!解けええええええ!!」
ガイウスが叫ぶ
「あと10秒、死ぬ覚悟は出来たかな?」
大地が割れ稲妻が周囲に発生。まさに地獄の光景だ。
どうする!?どうする!?どうする!?どうする!?
「5、4、3、2、いーち、」
ああ、もうどうでもいいや。
「ゼロ。」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
な、何だ。何も起こらないぞ・・・。
「へえ、やるじゃん。ビビって解除するかと期待したんだけどな。残念。」
はったり・・・だったのか。
周囲を見渡すと壊滅的な光景。はったりでここまでするか?
「いい根性してんね。気に入ったよ。俺の配下になりな。どうだ?」
な、何だと?何を言っている?こいつは異常だ。
周りを見る。住民たちは泣き叫び、気絶するものが多数。
奴から発せられている殺気に当てられ、側近の2人は膝を付き怯えきっている。
だが奴をこの結界に入れさえすれば俺は勝てるのだ!
考えろ!考えろ!
結界術式のリキャストタイムは3日。一旦仲間になった振りをして掛けなおすか?いや気付かれる可能性が高い。やはり今やるしかない。
何としてでも結界内に誘い込む!
「姿も見えない相手からそんな事言われても承服しかねる。」
まずは奴の姿を確認しなければ。
「ああ、そうか。」
奴が宙に姿を現す。
ウサギ?
何だ、なぜあんな格好を?理解不能。
「これでどうだ?」
いや、そんな馬鹿みたいな格好した奴の下には絶対つきたくない。
「近くまで来てくれ。話をしよう。」
一か八かストレートに行ってみる。
「えっ、待って、結界内で話しようってこと?」
「そうだ。」
「ふうん、別にいいけど。」
えっ!?いいのか?
「何か変な事したら結界内にいる奴ら全員皆ゴロしだし。」
とんでもない事を言い出す。
ヒイイイイイイと後方から悲鳴や叫び声が上がる。村人もヤルのか!?理解不能。
はあ、はあ、落ち着け。絶対勝てる!この術式は魔王すら封じ込めたんだ!信じろ!自分の力を。
地上に降りて近づいてくるウサギ。
あと少しだ。あと1歩!
入ったああああああ!
「ん?魔力が消えた。」
奴の魔力が消える。
異能 フォーリング・ダウン
結界内の生物の魔力を消失させる術式。
どんな強力な魔物もこの結界内ではただの獣となる。
術者と指定した者以外に効果を発揮する。
しかしまだだ。確実にヤレる間合いまで来るのを待つんだ。
「いい結界だ。魔法、ではないのか・・・。後で教えてくれよ。訓練につかえそうだ。最近の奴は魔力ばっかり上げて基礎戦闘力がクソみたいなのばっかりでウンザリするよ。」
ん?何を言っている?てか、何だこの圧力は?
俺が震えている、だと?
何故だ?この術式で魔王すら封じたのだぞ?
奴が目の前まで来た。
蛇に睨まれた蛙とはまさにこの事か。
「どうした?殺るつもりだったんだろ?エリアだぜ。」
!!? 気づかれていた!?
いや、それよりこの余裕は何だ?
ええい!ままよ!
「くそがあああああ!」
奴の顔めがけ拳を振るう。必殺の魔力を込めた神速の一撃。
奴は紙一重で避けた。カウンターを食らう。
ドゴオオオオオン!
遺跡を超え結界の外まで吹き飛ばされる。
ガハア!
何て思い一撃だ。魔力なしで、この攻撃力。勝てるはずがねえ・・・。
「まだやるかい?」
「・・・降参だ。あんたの配下になろう。」
この状況じゃ仕方あるまい。
「えっ、何言ってるの?何かしたら皆ゴロしって言ったじゃん?何シレッと仲間になろうとしてんの?」
あ、そ、そうだ。俺ら全員ヤラれるんだ。
「頼む、殺すのは俺だけにして貰えないだろうか?部下はあなたの配下に、村人は解放してくれ。いや、してください。お願いします!」
「えっ、待って、アタシが悪人みたいな言い方するのやめて!アタシ村の人たち助けに来ただけなんだけど?」
アタシ?男じゃないのか?
いやそれより、助けに来た?世界を滅ぼしに来たの間違いでは?
「だからあなただけぶっコロして終わりにするわ。じゃあいくよ?」
凄まじい魔力の集束と殺意。奴が拳を振り上げる。
死を覚悟する。
お母ちゃんごめん。俺先に逝くよ。
涙がこぼれる。
「なーんてね?冗談に決まってるでしょ!ビックリした?ふふ。」
・・・俺は気絶した。




