最終話 アル・ディライト
─── ミラージュ・ダンジョン 外界へと繋がるゲート ───
三体の魔法の鎧を着たオークが冒険者たちを襲っている。
ハーミットの3人、マルク、ソフィア、ウーゴを中心に冒険者たちも反撃しているがやはりレベルの低い者が多く押されているな。
いや、撤退前提で防御を固めているのか。ハーミットのリーダーで獣人のマルクから矢継ぎ早に指示が出ている。
「ふぇぇ。」
チッ、ついクセで言ってしまった。
戦いは始まったばかりのようだ。
ん?僕は何でこんなに冷静なんだ?
あの鎧のオーク一体を仕留めるだけでも王国の一個大隊、それもエリート揃えなければ勝つことは難しいだろう。
その後ろのオークロードにいたっては・・・国の総力を結集してもダメだな。
だと言うのにこの心の平穏さ。凪。
ディスペアの日々が僕を成長させた、のか。
「おい!お前・・・アルか!?何でそこにいる!?早く転移して逃げろ!」
僕に気づいた巨漢のウーゴが声を張り上げる。おいおい、そんな大声出したら・・・ほら気付かれた。
一体が僕に向かってくる。
「お前らの相手は私だ!アル逃げろ!」
後ろから金髪エルフのソフィアが魔法の矢を何十と放つがオークの鎧は貫けない。
「ありがとう。ソフィア。後は僕に任せて。」
念話を送る。
「頭にアルの声が・・・魔法?それにアンタさっきと格好が。何でドレス何て着てんのよ!?」
可愛いからだけど?あれ?なんでドレス着てんだ?
「早くゲートに入って転移して!!」
ソフィアが叫ぶ。
「任せてっていったでしょ。」
ズゥゥン・・・
迫って来ていたオークが胸を押さえ倒れ光の泡となって消える。少し殺気を当てただけでこれか。脆いな。この世界では力のセーブに苦労しそうだ。
「何・・・だと!?何が起きた!?」
マルクさんが驚愕に目を見開いている。
「グガギギッ!」
このオーク共はディスペア由来では無いな。まず言葉が分からん。今の僕はディスペア全ての魔物とコミュニケーションが可能だ。それにあそこの魔物なら僕を視認した時点で膝を着いて服従を示す。何より
ズゥゥン、ズゥゥン・・・
二体のオークが倒れる。
弱すぎる。ディスペアのラットより弱いぞ。
さて
「僕は冒険者のアル・ディライトだ。君の名は?」
オークロードに語りかける。念話ならイケるか?
「ブロ厶だ。」
イケるじゃん。
「どこから来たんだ?この地に来た目的は?神の使いか何か?」
矢継ぎ早に聞いてみたり。
「・・・俺たちは王に使える兵士だ。気が付いたらここに居た。その者たちを殺すのが目的だ。なぜ殺すのかは知らん。」
んー、ちょっと何言ってるか分かんない。
洗脳かかってるぽいね。探ってみたが本当に誰が洗脳して送り込んだかは知らないみたいね。
「お前は何者だ。そこの奴らとは気配が違う。まるで・・・我らの王のようだ。」
魔王だからね。いや破壊神か。
「似たような者だよ。仲間をヤッてしまってすまなかったな。」
謝罪して洗脳を解く。
「こ、ここは。俺は何を・・・。」
「元の世界へ送ってあげる。あなたの住む世界をイメージして。」
「そんな事が・・・出来るのか?分かった・・・。」
へえ、君もダンジョンから来たんだ。ディスペアよりは平和そうね。
「魔王様によろしくねー。転移。」
オークロードを元の世界に送る。
「アル!」
ハーミットや冒険者が駆け寄って来る。
「何をした!?オークロードはどこへ消えたんだ!」
マルクが聞いてくる。
「元の世界に帰ったよ。」
「アンタさっきと雰囲気違い過ぎない?おどおどした感じが無くなって何か・・・凄い色気・・・」
ソフィアが何かソワソワしてる。
かぁー色気漏れちゃってるかー!かぁー魔力完全に消しても分かっちゃうかー!
「気のせいじゃない?」
すっとぼける。
「まあいいわ。でも、さっきの頭に響いたやつは高等魔法じゃないの?」
王国の軍隊所属の大賢者が戦争で指揮を執る際使う魔法だったかな。
「知らなーい。気のせいじゃない?」
知らんぷりしよ。
真っ赤になって怒ってる。ウケる。
あれ、僕こんな性格悪かったっけ?
周りの冒険者が騒ぎ始めたぞ。
「あの娘がオークを倒したのか?冗談だろ?」
「偶然だろ。俺はずっと見ていたがあの子は指1本動かしていなかったぞ。」
「少女が一人でダンジョンは危険だ。はぁはぁ、オジさんがパーティ組んで守ってあげるからね!」
「エッッッッッッッ!!」
「何て格好でダンジョン入ってるんだ。けしからん!ちょっとトイレ行ってくる!」
「あー、○○○イライラして来たわ。」
うん、好評みたいね。
「オークロードが出たとなっては帝国の上層部に話を持っていかないとな。このダンジョンは暫く閉鎖だろうな。」
えっ、マジで?まだ攻略してないんだけど?
「アルあんたは何か隠してそうだけど関わらない方が身のためよ。早く実家帰んな。」
ソフィア、優しいな。
「うん、このダンジョンを攻略したら帰るよ。」
「はあ?出来るわけないでしょ!?馬鹿なの!?死にたいの!?」
「散歩みたいなものだよ。よゆーよゆー。」
ソフィアが魔力を練り出した。煽り過ぎたか?
「ソフィア止めなさい。アル、さっき転送した後何かあったね。」
マルク鋭いじゃない。
「言いたくなければ言わなくても良い。ソフィア心配は無用だ。彼は私たちより遥か高みにいる。」
「何言ってるの?さっきまで私たちと一緒に行きたいって駄々こねてたガキの方が上?有り得ないわ。」
黒歴史を思い出し死にたくなる。やるじゃないかソフィア。
「信じられないか・・・アル、悪いがウーゴと手合わせして貰えないだろうか?」
あんま目立ちたくないんだけどなあ。
「いいよ。お手柔らかにね!Wink!」
「調子狂うなあ。本当に大丈夫か?」
ウーゴは乗り気じゃないみたい。
ゲートの舞台に立ちウーゴと向かい合う。
周囲の冒険者がザワつき始める。
「あのクマみたいなオッさんとあの人形みたいな少女が戦うのか?」
「あれ、ハーミットのウーゴさんだろ?俺が戦いたいわ。」
「素っ裸にひん剥いてくれ!頼む!」
「ウーゴさんの体すげぇな。何だよあの筋肉!○○○イライラしてきたわ!」
・・・・・・。
「アル!早く剣を構えないさいよ!」
ソフィアから檄が飛ぶ。
「大丈夫、大丈夫、見てて。」
へらへら笑いながら言うと
ほら、また真っ赤になって怒ってる。可愛い。
「では、どちらかが降参、または戦闘不能になるまで試合ってもらう。準備はいいな?・・・よし、始めいッ!」
ウーゴの下半身に魔力が流れる。肉体強化系の魔法か。
一気に加速し剣を打ち込んでくる。手加減・・・してくれてるんだろうなあ。紙一重で避けようとしてたら剣が減速した。優しいんだよなあ。
「油断大敵ってヤツね。」
大剣がウーゴの喉元に突きつけられる。油断してなくてもこうなるけどね。
「な、何をした。」
「え?あなたの剣奪って突きつけてるだけだよ?」
「・・・まるで見えなかった・・・降参だ。」
「それまで!勝者アル・ディライト!」
シーン
周囲が静まり返る。
「嘘よ、こんな事あるはずが・・・私にも見えないなんて!」
狩人を生業とするエルフは目がいいようだ。
「なあ、アル!何があった!どうやったらそんな早く動ける!?どんな魔法を使った!?」
体を捕まれ揺さぶられる。
「やっ、揺らさないで!」
あっ。
振り払ったらウーゴが吹き飛びゲートの柱に叩き付けられめり込んじゃった。血の泡を噴いて気絶してる。危うくヤっちゃうとこだったよ。
「ふぅ・・・もう、何も言うまい。君が敵で無くて本当に良かった。またこの様な事があれば頼っても構わないかな?」
「うん、いいよ。強く呼んでくれればレスするから。」
「ありがとう心より感謝する。」
マルクが膝を付き感謝の意を表す。
「アル!うちのパーティに入ってよ!さっきは断ったけど今のあなたなら資格は十分いえこちらからお願いするわ!パーティに入って下さい!」
頭を下げてる。何かムズムズするな。
「いいよ。その時の状況次第だけどね。マルクにも言ったけど強く呼んでくれ。僕はすぐに駆けつける。」
「うん、分かった!今夜祝勝会やるから絶対来なさいよ!」
呼ぶの早くない?
「さて、そろそろ僕は行くよ。」
「行くってどこへ!?」
決まってるだろ?
「ちょっとダンジョンの最深部まで。」
ニヤリと笑う。
僕の名はアル・ディライト。
ダンジョンを攻略する冒険者だ。




