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長夢。  作者: 緑ノ小石
23/29

1年目 お盆1

 んー、あー、朝?今何時だ?携帯、携帯っと・・・。目を閉じたまま手探りで携帯を探すと、いつも通り枕元で発見。なるべく目を開けないように片方の瞼をほんの少しだけ開けて隙間から時間を確認すると、


 "AM8:38"


 えーっと、なにこれ?・・・・・・。

 やべぇ!!一気に目が覚めて、急いでリビングに飛び出すといつも通り台所に立ってる小夜ちゃんがびっくりしてる。

「やべぇ!寝坊したっ!!」

 急いで洗面へ走っていって歯磨きをして顔を洗い、部屋に戻って着替えながら課長へ遅刻の連絡をしようと携帯を開いてリダイヤルから課長を探していると、ん?まてよ。今日は・・・。携帯の日付を見る、


 "8月15日"


 えーっと、お盆?って事は・・・、会社休み?

 なぁーんだ、休みかぁ。よかったぁ、焦って損したよ。今日から3日間はお盆休みなんだから目覚ましをセットしなかったんだもん、そりゃ寝坊の2つや3つするさ。

「無駄に慌てちゃったよ。いやぁ、心臓に悪いねぇ」

 なんてちょっと照れ隠しをしながら再びリビングに登場。テーブルの上にはそんな事はお構い無しのように朝食の支度が整ってる。

「そう言えば、今日はお祭りだったね。お昼過ぎに課長の家に行くんだっけ?」

 そう言いながらテーブルに座る。沖縄旅行から帰って来て次の日に早苗さんと加奈ちゃんと小夜ちゃんの3人が夏祭り用の浴衣を買いに行った。そして今日の昼に早苗さんが着付けてくれる事になっていた、と思う。

 小夜ちゃんがキッチンから俺のコーヒーを持って来て、軽く頷く。ん?なんとなく違和感が。なんでこんな真夏に長袖のシャツ?冷房が苦手だったかな??

 それにしても沖縄旅行の疲れ無しによく買い物に行ったよなぁ。あんだけ海で大はしゃぎした後、2日目には水族館に行ってでっかい水槽にサメやらエイやらとてつもなくデカい魚にはしゃいで、国際通りでお土産を選ぶのもあーでも無いこーでも無いと店を渡り歩いていたのに、それも無かったかのように次の日もいつものテンションだったからなぁ、加奈ちゃんが。さすがに早苗さんは少し疲れが残ってたみたいだったけど、それでも俺なんかと比べても体力があるよなぁ。ちなみにどんな浴衣なのか極秘扱いで未だに知らない。一緒に連れていってくれなくて、太一君と家出ゲームやってた。先月から始めたシュミレーションゲームの手直しをやってくれたんだけどね。

「お昼ご飯はどうする?どこかに食べに行こうか」

 せっかくお祭りなんだもん、小夜ちゃんに作って貰うのも、ねぇ。でもきっと小夜ちゃんは意地を張るだろうなぁ。・・・作る。って言うよ、ほら見ててごらん、せーの、

「・・・・・・」

 あれ?紅茶を手にうつむいてぼけーっとしてる。めずらしい。リアクションが無くても聞いてない事なんてなかったのに。まぁいいや、とりあえず朝ご飯をいただきましょう。コーヒーから・・・ん?コーヒー??

「小夜ちゃん、あのぉ・・・」

 これはコーヒーじゃなくてお湯なのですが・・・。

「小夜ちゃん?ん??」

 ぼけーっとして話を聞いてない。どうしたんだろ。

「ねぇ!小夜ちゃんってば!!」

 ちょっと大きな声で呼ぶとようやく耳に届いたのか一瞬ビクッと反応して、

「えっ?あっ、ごめんさい」

 おかえりなさい。

「どうしたの?」

 さっきからご飯にも手を付けてないし、ぼけーっとしてるし、コーヒーはお湯だし、よく見ればサラダの千切りキャベツがやけに太いし、

「な、なんでもないです。大丈夫」

 なんか慌ててるし。それに顔が赤い??もしかして、

「ちょっとごめんね」

 一応断ってからおでこに手を当てようとするが、

「だ、大丈夫!なんでもない!」

 俺から逃げようとする。あからさまに怪しいでしょ。

「こらっ!逃げない。じっとしててよ」

 とは言ってみたものの言う事を聞いてくれるはずも無く、手を当てようとすると逃げるし頭を背けてしまう。しばらく攻防戦が繰り広げられたのだが、強引に小夜ちゃんを捕まえて両手で顔を挟み込み、ちょっとだけ真剣な顔を作り見つめる。はい、小夜ちゃんサンドの完成です。ようやく観念したのか大人しくなってくれたので額を合わせてみましょうか。うーん、えーっと、合わせてみた物の全然わかんねぇ。

「うーん、ちょっと熱っぽくない?ちょっと待ってて」

 小夜ちゃんには悪いけど、少し嘘を付かせてもらった。じゃないとちゃんと計らせてくれないだろうからさ。それじゃ体温計はっと、確か薬箱に入ってたよな。薬箱、薬箱っと、あったあった。よしよし、小夜ちゃんは大人しく待っててくれてたね。

「はい、体温計。この先を耳に入れるんだよ」

 ちょっと前に物珍しくて買ってきた体温計。耳に入れるだけで一瞬で体温が測れるって書いてあったから面白そうだし買ってしまった。物珍しさは今回は効果的に作用してるみたいで、不思議そうに卵型をした体温計を眺めてしぶしぶ耳に入れてる。そしてすぐにピッっと電子音がなり、測定完了の合図があった。おおっ!すげぇな。

「どれどれ、貸して」

 温度を見ようとするが、なかなか俺に手渡してくれない。あきらかに渡すのを嫌がってる感じ。こりゃ自覚症状があるみたいだな。

「こら。早く頂戴」

 眉間に皺を作り、そろそろ怒りますよってわざとアピールする。するとちょっとだけ泣きそうな不安そうな顔をしてしぶしぶ渡してくれた。さっきから卑怯な手を使ってごめんね。

 受け取った体温計の表示を見る。"38.7度"

「おもいっきり熱あるじゃん。大丈夫?しんどくない?」

 これだけ熱があったら体もだるいだろうな。でも咳もくしゃみもしてない。ウイルス性じゃないのか?

「大丈夫。なんともない」

 なんとも無いわけないでしょ。

「何やせがまんしてんの。ちゃんと寝てないと。病院行く?」

 内科でいいのかな?さすがに小児科じゃなくていいよね。

「平気。もうちょっとしたら直るから」

 なるほど、自己治癒能力ってやつか。なら・・・って、

「そんなわけ無いでしょ。病院行くよ」

 お盆だからやってるかなぁ。後で調べないと。

「さぁ、ほら行くよ。もうちょっと温かい恰好の方がいいよね」

「大丈夫だから・・・」

 相変わらず頑固だなぁ。

「駄目だって、熱があるんだから」

「もうっ!大丈夫なんだってばっ!!」

 机をバンっと叩いて勢いよく立ち上がり部屋に行こうとするが、歩き出した一歩目で体が斜めに傾いていき、

「危ないっ!!」

 丁度体温計を受け取る為に傍にいたから、倒れこむ前にぎりぎり抱きかかえる事が出来た。いや、本当に危なかった。そのまま頭からいったら洒落にならない。体調が悪いのにいきなり立ち上がるから立ち眩みだろうな。

「まったくもう、大人しくしてないと駄目でしょ」

 一応苦言を。小夜ちゃんは目を瞑って苦しそうに口で息をしている。ったく、どこが大丈夫なんだか。しばらく腕の中にいたが、頭に血が戻ってきたのか俺の肩に手を置き支えにして立ち上がろうとする。こらこら、

「駄目だってば。もう、しょうがない」

 言って聞かない子には実力行使です。そのまま膝の裏に腕を回し、もう片方の腕で肩を抱いて一気に両腕を持ち上げる。よっこいしょっと。びっくりした、気合を入れたけどその必要が無い程軽い。これならひ弱な俺でも大丈夫だな。抱きかかえられ暴れるかと思ったけど、突然の事でどうすればいいのか戸惑ってる様子。よし、今のうちに部屋に運ぼう。小夜ちゃんを抱きかかえたまま部屋に連行する。部屋に入るとパジャマが布団の上に畳んであったからどけてベッドに寝かす。

「いいかい。熱があるんだから大人しくしてる事」

 無理やり連れてこられて起き上がるんじゃないかと思ったけど大人しくしてる。さっき無理をしたから眉間に皺が少し寄って息も上がって苦しそう。俺が思ってる以上に体調が悪いようだな。一度大きく目を閉じた後、不安そうな顔で俺を見て、

「でもお祭りが・・・」

 あぁ、そう言えばお祭りだったな。やっぱり楽しみにしてたんだろう、可哀想だけど、

「残念だけどしょうがないよ。また来年もあるし、今日は寝てようね」

 なるべくやさしく、諭すように。だけど首を振って、

「加奈ちゃんが楽しみにしてたから・・・」

 あぁ、そうか。だからと言って、

「体調が悪いのに無理して行っても倒れるかもしれないんだからしょうがないよ。加奈ちゃんの事は気にしないでいいよ、大丈夫」

 確かに水を差す事になるけど、だけど加奈ちゃんなら大丈夫。そんな事を気にし始めたらきりが無いし。

「でも・・・」

 やっぱり気にはなるよね。

「加奈ちゃんは大丈夫。だって加奈ちゃんだよ?それよりも小夜ちゃんは治す事だけど考えないと。まずは病院に行くよ」

 近くでやってる病院を探さないとな。どちらにしろ早苗さんに連絡しないといけないからその時に聞こうか。等と考えてると俺の腕が掴まれ、

「・・・病院はやだ」

 そんな子供みたいな・・・いや、子供だったな。

「やだって言われても、お医者さんに診て貰わないと駄目でしょ」

 掴んでいる手に力を込めて、泣きそうになりながら首を振って、

「・・・やだ」

 そんな顔をされると、ねぇ。ただの我侭って感じでも無いしなぁ。しょうがない、

「わかったよ。だけど条件が2つあるんだけど、1つは小夜ちゃんは治すことだけを考えること。2つ目は自分の症状を素直に話す事。いい?これが守れなかったら無理やりでも連れて行くからね」

 安心したのか顔を少し緩め頷く。悪化するようならそんな事も言ってられないけど、今はまだ大丈夫だろう。しばらく様子を見るとして、それよりも安心させて安静にする方が優先だ。

「よしっ、それじゃ教えて。頭は痛くない?」

 弱々しく頷く。

「お腹は?」

「・・・痛くない」

「他に痛いところは?」

「・・・ない」

「咳もくしゃみも我慢してない?」

「・・・うん」

「喉はイガイガしてない?」

「・・・うん」

「暑い?寒い?」

「・・・少し寒い」

 単純に熱があるだけかな。咳も出てないから肺炎とかじゃないと思うけど、とりあえず寒いって事だから、

「わかったよ。それじゃ電気毛布を持ってくるから着替えててね」

 さっきどけたパジャマを渡して頷いたのを確認し、部屋を後にする。確か電気毛布は俺の部屋の押入れにあったはず。ずいぶん使ってないけど壊れてないよな。押入れに顔を突っ込んで奥のほうを探すと、あったあった。近くのコンセントに差して電源を入れてみると一応電気は付くみたいだから多分大丈夫だろう。ついでに冬の掛け布団も出す。

 電気毛布と布団を抱えて小夜ちゃんの部屋に戻ると着替えを済ませて、ベッドに腰掛けて俺を待っていた。だから寝てようよ、丁度よかったけどさ。

 敷布団の上に電気毛布を敷き、小夜ちゃんに寝てもらって持ってきた厚手の布団をかける。電気毛布に電源を入れて温かくなるのを待とうか。

「そう言えば食欲はある?」

 朝ごはんを食べる前だった事を思い出して今更確認すると、

「・・・いらない」 

 だろうね。本当なら何か口にしないと駄目なんだろうけど、寒いって事だからまずは寝て体温を無理やりにでも上げよう。一眠りしてから食べればいいよね。電気毛布を触ると温かくなってきた。よかった壊れた無かったよ。さてと、早苗さんに連絡してこないと。

「それじゃゆっくり寝てるんだよ、いいね?」

 ベッドに手をついて立ち上がろうとすると、手首を掴まれ不安そうな顔で見つめられる。ん?

「どうしたの?何か欲しいものでもある?」

 小さく首を振る。って事は、

「ここにいた方がいい?」

 俺を不安そうに見つめるだけで返事はなし。けれど掴んだ腕は放してくれない。色々とやらないといけない事があるけど、しょうがない。再びベッドの脇に腰を下ろす。

「わかったよ、どこにもいかないから安心してね」

 掴んでいる手を外して握ってあげる。体をこちらに向けて空いている手も出してきたので両手で握ってあげると安心したのか苦しそうだけど目を閉じて少しだけ表情が緩む。やっぱり風邪を引くと人恋しくなるんだな。

小夜「・・・寒いの」

寝勒「何か掛けてあげようか?」

小夜「・・・うん」

寝勒「ふりかけでいい?」


小夜「・・・暖まるなら」

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