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長夢。  作者: 緑ノ小石
22/29

1年目 夏6

 それにしても課長に変な当てられ方をしちゃったな。みんなのところで花火をする気分じゃなくなっちゃったよ。課長が言ってた俺の父親としての責任、ねぇ・・・。あの子を立派に育てる!なんて、何を以って立派とするのか。そんな曖昧な事じゃないんだよね。責任かぁ、俺がしないといけない事ってなんだろう。日々の生活を守る。でもそんな当たり前の事じゃなくて、きっと俺があの子にしてあげたい事。・・・言わずもがな、俺がずっと悩んでいる事、笑顔。めいっぱい笑った顔を見てみたい。2ヶ月一緒に生活してるけど、あの時の一度だけだった。だから、そんなちょっとした笑顔を一度だけじゃなくて、毎日笑って過ごせるように。これは俺のしてあげたい事でもあり、あの子が俺にして欲しい事。小夜ちゃんはなんで笑ってくれないんだろう。毎日がつまらないのかなぁ・・・。そんな風には見えないけど、でも、やっぱり無理してるんだよな。気を張ってるって言うか、我慢してるって言うか。つっかえ棒をしてる感じがする。今に始まったって訳じゃなさそうだから前に何かあったのかなぁ。

 以前の生活。実は気になる事がたくさんある。炊事洗濯掃除が10歳の少女なのにほとんど完璧に毎日こなしている。手を出すと怒られるからいつも見てるだけなんだなんだけど、相当慣れた手つきで1年やそこらで出来る手際じゃない。それに食材を選ぶのも知識があり過ぎる。俺と比べるのもおかしいのだが、あれは立派な主婦の感覚だ。独学なんかで得られるものでもない。

 そして次に学校の先生が言ってた『肝心な基礎が出来ていない』。その時確か『学校には来ているのでベターな生活をしている』とも言ってた。きっと小夜ちゃんは学校に行ってなかったのではないか、だから勉強に抜けがある。それに帰り際に言われた『俺に引き取られて良かったと思う』なんて俺の事を良く知らない筈だからどう考えても何かを知っていて、今の生活と以前の生活が比べられないと出てくる言葉じゃない。

 更に小夜ちゃんが始めてだと言ったものは『海』『祭り』『花火』『飛行機』。飛行機は初めてでもおかしく無いが、海と祭りと花火は小学5年生で行った事が無いってのは素直に飲み込める話じゃないと思う。まぁ人によってはそう言った事があるかもしれない。だけど項目として挙げると、

 知識があるので『家事を誰かから学んだ』

 手際を見ていれば『家事をしていた』

 転校してからの成績から『学校には行っていなかった』

 現状が以前と変わらないのならば『友達は少なかった、もしくはいない』

 海や祭りに行った事がないので誇張すると『遊びに連れて行って貰えなかった』

 他にもおかしな点は多々ある。養子縁組届出も家裁の許可が下りていた。俺の腹違いの妹にしては似ていなさ過ぎる。小夜ちゃんのお母さんの叔母さんが妹とは言えピンポイントで俺のところを選んだのは何故?その叔母さんが俺の知っている人って可能性は低い。知人ならばその事を手紙で触れていたはずだ。

 他にもまだあるけど全て可能性の域からでていないが、総合的に見ると不審点が多すぎる。気になるんだよなぁ、小夜ちゃんには申し訳ないけど、少し調べてみるか。とは言え、どうやって調べればいいの?

 浜辺では課長と思しき人影が怒られている。怒っているのはやっぱり太一君なんだろうな。そして右の方からみんなのもとへ歩いていく人影がひとつ。あれは誰だろう。1人だけでどこか行ってたのかな?トイレ?等と邪推をしていると急に隣に立つ人影が。近づいてくる気配を全く感じてなかった俺は驚いて見上げると、外灯が照らすのは浜辺を眺めるノースリーブのクリーム色したワンピース姿の女の子。小夜ちゃんだった。

「びっくりした!!どうしたの?」

 脳裏には忍者かよ!って突込みがよぎったけどまぁいいや。何も言わずに俺の隣に座って浜辺を眺めてる。

「どこ行ってたの?」

 浜辺から来た訳じゃないよね。さすがに俺も正面から来る人影を見逃すなんて事しないと思う。多分、自信がないけど。

「・・・・・・恵美さんと一緒だった」

 進藤さんと?それは何と言うか、気付かなかったけど言われてみれば2人は気が合いそうだな。それで?どこ行ってたの?・・・いくら待っても続きがないんですが、それで終わり?まぁいいけど。進藤さんと一緒なら下手な事はないだろうし。つか、小夜ちゃんが浜辺にいなかったのに気付かなかった俺って・・・。

「花火はもういいの?ってこれは・・・、線香花火??」

 小夜ちゃんの差し出された手には紙縒りの束が。

「・・・花火を始めてやったって言ったら、これを持って行きなさいって」

「へぇ、進藤さんが?それにしても懐かしいなぁ」

 小夜ちゃんが器用に紙の帯を外して一本づつばらばらにする。このシールの紙が綺麗に剥がせれないんだよねぇ。

「今やるの?」

 線香花火を俺と小夜ちゃんの間に綺麗に並べて合計は8本。今の小夜ちゃんの手にはライターが握られている。一本を手に持って、火をつけようとしているが、あー、やっぱりそうなるよね。

「小夜ちゃん、それ反対だよ。紙の方を手に持つんだよ、こうやってね」

 俺も一つ手にとって見せて、ライターを貰うために手を出す。小夜ちゃんはちょっと恥ずかしそうに、

「・・・やった事ないから」

 って繕ってライターを俺に渡してくれた。俺も久々だなぁ、手持ち花火なんていつも見ているだけだから何年ぶりだろ。ライターに火を付けて2人で線香花火を近づけると、ほとんど同時に火がついた。

 一度大きく炎をあげたかと思いきや、すぐに消えてオレンジ色の綺麗な玉が出来る。その玉の周りにはかすかに飛び散る火花が。

「どっちが長く持つか競争だよ」

 なんてお約束を口にしてプルプルと震えている火の玉を眺めていると、柔らかなパチパチとした小さな音とともに徐々に火花が大きく散っていく。火の玉を取り囲むように一瞬で枝分かれする火花を見ていると、

「・・・きれい」

 って小夜ちゃんがつぶやく。徐々に火花も勢いを無くし、今度は音もなく火の玉から放物線を描いた弱々しい光の線が飛び出す。すると、

「・・・ごめんなさい」

 って火の玉に視線を落としたまま呟くようにささやいて何かを謝る。

「どうしたの?」

 何か謝られる事があったかな?うーん、思い当たる節がない。全く記憶にございません。なんて誰かの謝罪会見みたいだけど、記憶に無いって事は未来系の謝罪かな。もしくは俺に対してじゃないかも。さて、どんな言葉が飛び出してくるのか。

「・・・なんでもない。謝りたかっただけ」

 あらそう。何にもないの?まぁいいけど。

「あっ」

 ポトリと俺の玉が落ちた。小夜ちゃんのはまだ小さくなりながらもプルプル震えて頑張ってる。もう少し耐えるかなって思ったけどしばらくしたら小夜ちゃんのも落ちた。

「1回戦は俺の負けだね。じゃあ次いくよ」

 並んでいる線香花火を手に取り、火をつける。またしても勢い良く燃え上がった後、オレンジ色の火の玉が出来た。黙って線香花火を見つめてる。とくに会話も無く、2人で静かに線香花火の火花を見つめて夏の風物詩を味わっていた。

 最後の線香花火に火をつけた頃、

「初めての海はどうだった?」

 今日の感想を聞いてないことを思い出す。パチパチと散っていく火花を見つめながら、しばらく沈黙があって、

「・・・本当にしょっぱかった」

 なるほど、海水も初体験か。

「舐めたの?」

 相変わらず目線は線香花火のままでかすかに頷く。

「どう?楽しかった?」

 激しく散っていた火花が少なくなっていき、今度は勢いの無い一筋の火花が飛び出してきた。しばらく火花を眺めてて、そして、

「・・・面白かった。スイカ割りも、ビーチフラッグも、ビーチバレーも、バーベキューも」

 ゆっくりと一つ一つ思い出してるみたい。ニカイチのメンバー、特に圭介君と竹さんは騒ぎ過ぎだよなぁ。そして小夜ちゃんは加奈ちゃんに色々と連れまわされてたし。

「ごめんね、うるさい連中で」

 言い終わるか終わらないかといったタイミングで小夜ちゃんの火の玉が落ちる。それでも目線は線香花火の先を向いたまま、しばらくそのままで、

「・・・いっぱいの人と出かけたこと無くて」

 今度は俺の玉が落ちて、最後の線香花火が終わってもそのままで、

「どうしていいかわかんないけど、でも・・・」

 俺が小夜ちゃんの方を向いても、まだ線香花火の先を見つめてて、次の言葉が気になって、

「・・・でも?」

 って先を促すと急に顔を上げて、穏やかなやさしい目が俺を見ていて、


「すごく楽しかった」


 なんてちょっと嬉しそうに言うもんだから、

「そう、それはよかった」

 なんてありきたりな言葉しか出なくて、顔を浜辺へとそらしてしまった。何をしてるんだか、俺は。

 浜辺では花火の片づけが終わったみたいで、ぞろぞろとみんながこちらに帰ってくる。ある程度近くまで来ると、加奈ちゃんがこちらに向かって、

「小夜ちゃーん!温泉いくよー!!」

 って、元気に駆けて来る。横に座っていた小夜ちゃんも立ち上がって加奈ちゃんと一緒に歩いてホテルへ向かってしまった。俺は半分放心状態でそのまま座っていたから、目の前に立ってる太一君に気が付かなくて、

「ほら、ロクさんも行こうよ」

 と言う言葉でようやく現実に戻ってこれた。

 まったく、何をしてるんだか俺は。

小夜「・・・花火きれい」

寝勒「ハッハッハッ!」

小夜「なんで笑うの?」

寝勒「綺麗って涙目で言うからわらっ」

小夜「!?」


小夜「それ以上はダメっ!!」

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