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長夢。  作者: 緑ノ小石
12/29

3日目 3

 お披露目会はこの際せっかくだからと話がどんどん盛り上がり、7月の連休に一泊する計画となった。場所は課長と竹さんが決めるとの事で、お披露目会からちょっとした旅行になってしまった。何でそうなるかねぇ。

 取り合えず一旦話も落ち着き、それぞれが仕事に取り掛かる。俺の方は、当初やる予定だった仕事のほとんど片づいており、残りもやり終えてしまったので正直手持ちぶさたになった。他の仕事も大体修正待ちだったり、お客からの返事待ちだったりと午前中は進むものが少ない。しょうがない、雑用でもするかな。

「課長、ゴミください。あと、シュレッダー行きはあります?」

 メールを打ってる様子だったが、一旦手を止め目だけでこちらを見る。

「ゴミならここに。シュレッダー行きはそこ座ってるだろ?」

 そして顎でその方向を示す。

「うわっ!課長ひでぇっす!誰がニカイチのゴミなんすか!?」

「誰も圭介がゴミだなんて言ってねぇよ、お前がシュレッダーをかけに行けって意味だ」

 片側の口元を上げて皮肉そうに笑う。わざとやって遊んでやがる。課長に付き合ってるといくら時間があったとしても足りない。

「はいはい、わかりましたから。さっさと出してください」

「んだよ、つれねぇなぁ」

 適当に皆の席からゴミを回収し、シュレッダーをかけて戻ると、

「草野さん、今空いてますか?例のオープン企画ですが金額が出まして、ご相談があります」

「うん、いいよ。あっちでやろうか」

 打ち合わせルームで進藤さんから報告を受ける。基本的にイベントやノベルティだったりの予算組み、外注や製造関係との交渉をお願いしている。なんだかんだ交渉する先が多く、相手業種も多岐に渡ってしまうので誰かに一貫してやってもらった方が効率がいい。特にニカイチの運用は企画組みを1人でやるわけではなく、企画を練るのはニカイチ全員で取り組み、高浜さんと環ちゃんが形を上げて、製造等を外に振るのならば進藤さんがそれを元に金額交渉を行うってパターンが多い。主に俺が全体のスケジュール等を管理し、竹さんは製作チームと外注のデザイン事務所に実質的な指示を出す。最終的に企画書を起こすのは俺や竹さんや課長がやる。圭介君は俺と進藤さんのサポートがメインだ。

 ってな訳で、オープン企画の金額が決まったらしい。

「申し訳ありません、私の力不足で今回の予算ではオーバーしてしまいました。何かを削るか質を落とすかしないと難しい状況です」

「うーん、超えたか。超えると思ってなかったんだけどなぁ。そうだねぇ。どうしようかなぁ」

 進藤さんから貰った金額を見る。

「ここにある通り12%オーバーでいいの?」

「はい。ここまで金額を詰めたのですが、どこも材料高などで値上げ交渉をしに来ている状況ですので、これ以上は交渉の場すら成り立たないと思います」

「課長が出ても無理そう?」

「今までの経緯からしても既に底値だと思います。各社相手側の上層に直接交渉はしてみましたが、思っていたよりも価格高の進みが早く、各社とも謀り合わせたかのようなラインを示しています」

「そうかぁ、やり尽くしたんならしょうがない。12%なら乗せようか」

「えっ?よろしいのですか?粗利が切ってしまうと思いますが」

「いいよ、一応客先に予算アップの交渉を課長に依頼するから。もし駄目でもなんとかギリギリのラインでしょ。それにこの客先は先の需要が見込めるから、今回は何としてでも成功させないとね。進藤さんが手を尽くしてこれならしょうがないでしょ」

「わかりました。では、先行してこの金額にて発注をかけてもよろしいでしょうか。実は既に納期が危険な状況で」

「うん、お願い。予算の件は任せて。むしろ納期を最優先にして貰った方がいいから」

「わかりました。ありがとうございます」

 いえいえ、どう致しまして。それじゃ課長へ交渉依頼をしようかな。

「課長、竹さん、ちょっと今いいですか?」

 2人を打ち合わせルームに呼ぶ。

 竹さんはちょうど環ちゃんに指示を出していたところだったようだが、こちらに来てくれた。

「オープン企画なんですが、予算オーバーしました」

 金額表を2人に渡す。

「12%か、仕入れとしては厳しいな」

「そうだねぇ、ギリギリいけると思ってたんだけどねぇ」

 2人とも難色を示す。

「ええ、俺もそう思ってたんですが、価格高が相まってこれ以上は厳しいそうです」

「やっぱりこれ以上は難しいかな?」

「はい。進藤さんが手を尽くしての結果ですから。俺や課長が出ても変わらないと思います」

「そうかぁ、それにしても12%は厳しいね」

 竹さんが苦虫を噛み締めたような顔をしてる。課長は腕を組んで考えてる様子。

「ですが、これで行きます。粗利の問題はありますが、今回だけは無理してでも行った方が得策と判断しました」

 2人が無言でそれぞれ考え込む。重たい空気を払拭したのはやっぱり課長だ。

「よしっ!わかった。交渉してこよう。最悪の場合、取れなくてもこの次で取り返せばいいしな。竹はどうだ?」

「しょうがないねぇ。だからと言って質や数を下げるなんて出来るわけないし。ロクちゃん納期は大丈夫なの?」

「実は既に危ないです。さっき進藤さんに発注をお願いしました。進藤さんの事なんで手遅れって事は無いと思いますが」

「なら、余計にこれで行こう。竹もいいな。ロク、納期フォローを頼むぞ。なんとしてでも予算をぶん取って来てやる」

「はい。よろしくお願いします」

 気になっていたのか打ち合わせルームから出るとすぐに進藤さんと目が合った。表情には出てないけど心配してたのかな。微笑みながら手でOKを作る。するとほっとしたのか軽く会釈を返してくれた。別に進藤さんの責任じゃないのにね、生真面目な人だ。

 打ち合わせが終わって席で一息付くと、ちょうど12時になっていた。さてと、お昼はどうしよっかなぁ。いつもなら「おい、ロクも行くぞ!」って強引に連れて行かれるのだが、課長は早速客先へ交渉しに行くみたいで、外出になってる。誰かいないかなぁっと周りを見渡すと既に誰もいない。しょうがない、一人で適当に済ませるか。近くの弁当屋にしようかなぁっと悩みながら部屋を出たところで、

「草野さん、一緒にどうですか?」

 廊下にいた進藤さんが声をかけてきた。

「あれ?みんなと行ったんじゃないの?」

「行こうと思ったのですが、あそこのラーメンに行くとの事で、やめておきました」

 あそこのラーメン。すごく味が濃くて、スープもどろどろしてるラーメン屋。俺もあまり得意じゃないんだけど、竹さんと高浜さんが異常に好きで、環ちゃんと圭介君が一緒なら余計に行きたがるだろうな。

「なるほどね。それじゃ何にする?弁当屋に行こうかと思ってたから当ては無いけど」

「なら、スープカレーなんていかがですか?」

「あぁ、この前出来たところね。いいよ、そうしよっか」

 と言うわけで、進藤さんと向かう。店の前まで来てみると若干の待ちがあるみたい。

「どうする?待つ?」

「そうですね、この時間ですとどこもこんな感じでしょうから」

 んじゃ、待とうか。

「にしても今日は暑いねぇ。もうすぐ梅雨だからって今朝、自分から言ったばかりだけど」

「そうですね、今年は平年より暑いみたいですよ」

「そうなると夏が悲惨だねぇ。海でバーベキューなんて言い出さなきゃよかった」

 進藤さんが横でクスリと笑う。

「仕方ありませんよ。それにしても相変わらず課長と仲が良いですね」

「進藤さんまでやめてよ、気持ち悪い・・・」

 そうこうしていると店の中に案内され、適当に注文をする。

「あっ、そうだ。さっきはありがとね」

 おしぼりで顔を拭きながらお礼をする。この前、早苗さんにやめた方がいいと注意されてたっけ、顔拭くの。気持ちいいのになぁ。目の前の進藤さんは何の事だかわからないのか、疑問符を浮かべている。

「お披露目会の件、助かったよ」

「いえ、お礼を言われるような事ではありませんよ」

「そんな事無いよ。助かった事は事実だから。自分からは言い出せる話じゃないからね」

 あの時の盛り上がりに水を差すような事は出来るだけ避けたかったからね。

「草野さん、困り果てた顔をしてましたからね。そう言えばご兄弟はいらっしゃるのですか?」

「いないよ、一人っ子だから。どうして?」

「なら余計に大変ですね、突然女の子と一緒の生活を送るなんて」

 進藤さんの話の途中で注文の品がテーブルに届けられた。

「いただきます。そうなんだよ、でも課長の奥さんが何かと気にかけてくれるから大助かりなんだけどね。男やもめに花が咲いたって感じだけど、花の手入れなんか今までした事ないからさ」

 キノコなら生やした奴を知ってるけど。

「娘さん、小夜さんは可愛いですか?」

「そりゃね。贔屓目を抜いても可愛いと思うよ。それに今時あそこまで躾された子も珍しいんじゃないかな。炊事洗濯が出来て、俺に何一つさせてくれないんだもん。まだ小学生なのにさ、嫌に落ち着いてるって言うか大人びてるって言うか。それで色々と気が利くんだよ、ただ気を使いすぎる節があるからちょっと心配だけどね。後はすごい頑固。もうびっくりしちゃってね、この前だって・・・あっ、ごめん」

 またしても進藤さんはクスクスと笑う。

「草野さんがそんなになるって事は、相当可愛いんですね。夏が余計楽しみになりました。ちょっと嫉妬しちゃいますよ」

「いやぁ、恥ずかしい・・・。まだ3日目なのにね」

 相手が進藤さんでよかった。これが他のメンツなら何を言われていたか・・・、想像するだけで寒気がする。

 食事も終えて、お店を出る。もちろん払いは俺。またもや会計戦争が勃発したのだが、今回は俺が上司って事になるので早期集結に終わった。お店を出て会社に戻っている道中、進藤さんに、

「私で力になれる事があれば遠慮せずに言って下さい。私もお手伝いが出来れば嬉しいですから」

 と有り難いお言葉を頂戴した。俺の周りはなんて良い人ばかりなんだろう。恵まれすぎて怖くなるよ。


寝勒「ラーメン自体は嫌い?」

進藤「嫌いでは無いですよ」

寝勒「じゃあ照り焼きは?」

進藤「?。強いて言うなら好きですよ」

寝勒「そっか、中より米か」


進藤「照り焼きとテリーは別物です!」

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