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長夢。  作者: 緑ノ小石
11/29

3日目 2

 会社まで車で25分ほど。いつも大体8時半過ぎに着くようにしてるので、小夜ちゃんを見送ってから家を出ると丁度いい時間になる。いつもの様に車を走らせ、いつもの様に会社に着く。地下鉄の上を通る一本道。電車で通ってもいいんだけど、人の多い電車で朝から揺られるのはちょっと体力がもったいないって事で車で通ってるわけだ。

 会社はオフィスビルの7階にある。とは言っても、ビル全体が系列会社しかない為、実質は会社が7階にあるのではなく働く机が7階にあると言う感じ。その7階の一番端の部屋に第2企画部1課がある。そこが課長の根城、俺のデスクがある場所だ。

 第2企画部1課、通称ニカイチと呼ばれる部署は地域開発からノベルティの作成まで様々な仕事をこなす。もともと企画部自体ひとつしかなかったのだが、3年前にちょっとした事件が発生し第2企画部なるものが設立された。未だに1課しかなく、2課や3課がある訳でもないのだが1課の名称は残されたままとなっている。

 ニカイチの課員は課長を含め現在7名。元々は課長と俺と竹若さんの3名だけで、俺が企画部に、竹さんが設計やデザイナーに仕事を投げていたのだが、徐々に課内でも受け持つようになり、企画に2名、デザイナーに2名を増やした。

 竹さんは今年で32歳になり、課内で課長の次に年長者だ。頼れば何でも答えてくれるマルチプレイヤーでニカイチ設立以前から課長と親しくしていた。もちろん課長は俺と一緒に迷惑をかけてきた側だが。身長が高く、黒縁メガネをかけて坊主に近い頭をしている。結婚はしているが子供はまだいない。製作リーダでニカイチの大黒柱だ。

 次に入ったのは進藤 恵美さん。俺と1つ年下の女性でかなり几帳面な性格をしており、企画と予算を担当してもらっている。いつもダーク系のスーツを着て仕事の時は縁無しメガネをかけており、真面目一徹って感じだけど、基本的には物腰が柔らかいのだが、怒ると怖い。

 その後には竹さんが制作部から引き抜いてきたデザイナー2人。

 高浜さんは今年で30歳の既婚者で3歳の男の子がいる。普段は何かと万人受けをするデザインを上げてくれるのでいざと言う時に非常に助かる。たまに奇抜さを依頼すると理解に苦しむデザインが上がるので使いどころが更に難しくなるのが玉に瑕だが。金色の短髪でガタイがいい。冬でも会社の中ではTシャツにジーンズのスタイルだ。

 もう1人は環ちゃん。進藤さんと同い年で俺の一つ下。なんとも女性らしい可愛いデザインを上げてくれる。キャラクター物もいけるので企画としては有難い。いわゆる芸術家肌で、物事を感覚で捉える節がある。愛想が良く、たまに天然を発揮してくれるので課内のマスコット的な存在になっている。化粧気がほとんどなく、可愛らしい妹って感じのする子だ。

 企画にもう1人、企画助手の圭介君。課内で一番若い24歳で今時の若い感じがそのままのちょっと軽い感じがする人だ。だが、若者向けの企画などでは本領を発揮してくれるのでいいのだが、詰めが甘く進藤さんに小言を言われてる。太いジーンズを腰で履いてシルバーがジャラジャラとちょっとうるさいムードメーカだ。

 そして俺は企画リーダにさせれられて、課長が社外クライアントと折衝し、俺は課内と社内の調整役となっている。企画と言ってもいつも企画会議では何も思い浮かばず、決まった企画をまとめる仕事が多い。よく課長の右腕なんて称されるが実は右腕は竹さんで、俺は竹さんの指のような感じである。

 そんなニカイチを作り、まとめ上げているのが仕事がすごく出来る課長だ。ただ出来るのであってやる姿は滅多に見られない。まぁこの人が動くと後々面倒を起こす事があるので動かないで欲しい。しかし、仕事は出来るので文句の付け様が無いのは言うまでもない。もちろん対外的にだが。

 と言う訳でいつも通り7階の一番奥の部屋へ。部屋を入るといつも通り進藤さんと竹さんが既にいる。この2人は朝来るのが早く、竹さんは会社の新聞をどこらから数紙持ってきて読んでるし、進藤さんは既に仕事を始めている。

「おはようございます、急に休みを貰ってすみません」

「おはよう!いいよいいよ、たまにはそんな事もあるさ」

「おはようございます。もうよろしいのですか?」

「うん、おかげさまで。ありがとう」

 2人に挨拶を交わし、まずは席のパソコンを立ち上げる。そして2日間により貯まっているであろう仕事の山を確認する。・・・が、全然増えてない。むしろ減ってる!?しかも今日の午前中に仕上げようと思ってた企画書が出来てるし。

「竹さん、これどういう事です?」

 新聞を読んでいた顔を起こして、すこしニヤニヤしながら

「あぁ、それ。昨日まっつぁんがやってたよ」

 ちなみにまっつぁんは課長ね。

「それ本当ですか?」

「嘘は言わないよ。珍しい事もあるもんだよねぇ。最後には何て言ったと思う?ロクが忙しいと俺と遊んでくれねぇんだよ、だって。愛されてるねぇロクちゃん」

 あの人は遊びに会社へ来てるのかよ。

「止めてください、気持ちが悪い。何考えてるんですかね。ってか、課長が仕事をやったって事は何かトラブルが起きてませんか?」

 絶対何かあるはず。企画部と揉めてないかなぁ、あの人企画の人と仲がすごく悪いし。いい歳して勘弁して欲しいよ、後で尻拭いするのは俺なんだから。

「大丈夫、社内的なのは俺がやったから。今日のロクちゃんはまっつぁんと遊んでなよ」

 そうニヤニヤしながら再び視線を新聞に戻す。じゃあしょうがない、この出来上がってる企画書の中身を校正しようかな。

 そうこうしているとみんなが続々と出社してくる。

「おはようございます」

「おはよう。草野君、調子はどうだい?」

「いい感じですよ。ご迷惑かけてすみません」

 まずは高浜さんだ。今日は青いTシャツを着ているが、前に聞いたらどこか海外の航空会社のTシャツだと言っていた覚えがある。まったく聞いた事ないのだが、そもそも航空会社ってTシャツを販売してるの?

「おっはよーございまーす!」

「環ちゃんおはよう」

「草野さんお久しぃ」

 次に環ちゃん。コンビニ袋をぶら下げて登場。この子は朝ごはんを会社に着てから食べ始める、朝いつも時間がないとか。そしてしばらくして

「ざっす!課長まだっすよね?」

 息を切らしながら圭介君が入ってくる。

「まだよ。いい加減もうちょっと早く来たら?社会人なんだから」

「うぃーっす。努力はしてまーす」

 早速進藤さんに小言を言われてる。多分エレベータがすぐに来ないから階段で上がってきたんだろうな。

 最後には課長が「おはよーさーん」と9時ぎりぎりに入ってくる。課長が入ってきたので皆が適当に挨拶を返しそれぞれの席で立ち上がる。

「なんか業務連絡あるかー?ないなー?じゃあ今日もよろしく」

「うぃっす!」「へーい」「お願いします」等々

 皆ばらばらな返事を返して非常に簡単な朝礼が終わる。そして俺は軽く目を通した企画書を持って課長の元へ。

「課長、仕事をやって頂いたそうで、ありがとうございます」

 課長は体を横に向け、外を眺めてる。ぼけーっとして聞いてない感じ。この人は毎朝来てすぐはこうして外を眺めてぼけーっとして、その後いきなり動き出す。まぁいつもの事だから適当に済ませて仕事しよっと。んで、返事を待っていると、

「なぁロクよぉ。今日は天気がいいなぁ」

「今日は1日晴れるみたいですよ」

 またしばらく返事待ち

「今日は暑そうだなぁ」

「もうすぐ梅雨ですからね。下手すると30度超えるんじゃないですか?」

 何も考えてないように、ぼけーっとしてる。またちょっと置いて

「なんかバーベキューしたくね?」

「いいですねぇ、夏に行きましょうか」

 ちょっとづつ復活してきたのか会話が続く、

「俺んとこと、ロクんとこ。ニカイチ全員で」

「えぇ、いいですね」

「今週」

「はい?」

 何て言ったの?意味分からない。はぁ?

「よしっ!決めた!!」

 突然動き出す課長。なんかテンション上がってるし。

「今週バーベキューだ!全員参加!ロク!スケジュール確認しろ!」

 ちょっとまて、なんだそれ。

「いや、いきなり今週はきついと思いますよ」

「うるせぇ、とにかく確認しろ!今すぐだ!」

 はいはい、わかりましたよ。適当に返事をして席へ戻る。そしてメールを一斉送信。

『Sub:今週末の予定

 課長の思い付きです。聞こえてたと思いますが今週BBQをしたいと申しております。

 スケジュールの確認をします。土日のOKorNG下さい。以上』

 さっそく皆からの返信。うーん、土日ともに3人NGか。竹さんは両方NGだね。んじゃ課長を説得しに行きましょうか。とその前に天気予報を確認してっと。

「課長、今週末やっぱり駄目ですね。両日とも3人ずつ予定があるそうです」

 課長は眉間に皺がよっていく。

「んなもん知るか。強制参加だ」

 また無茶苦茶な。

「駄目ですよ。後から言い出したこっちが悪いんです。諦めて下さい」

「じゃあ来週だ」

「来週は雨の予報です。ちなみにもうすぐ梅雨入りしますので」

「はぁ?なんだそれは。じゃあどうすりゃいいんだよ!」

「夏にしましょう、8月に。場所は海でどうですか?きっとビールがうまいですよー」

 きっと課長の頭の中で情景が広がっているはず。さぁビールを飲め!そうすれば、

「よし!8月だな!全員のスケジュールを今から抑えておけ!頼むぞ!」

 ほら落ちた。課長に見えないように皆に向けて親指を立てる。席へ戻ろうと体を向けようとした時、

「あっ、そうだ。おい、みんな!ちょっといいか?」

 止められた。皆が課長に注目する。

「一言だけ、連絡がある」

 ん?なんかあるの?

「ロクに娘が出来た。以上!」

 ちょっと!あんたいきなり何言い出すんだよ!しかもその言い方だと、

「ロクさん出来婚!?」

「とうとうロクちゃんも身を固めるのかい?」

「草野さん彼女いたんですか?」

「草野君もやるねぇ」

 ほら、見ろ。めんどくさい言い方しやがって。今それを伝えると皆仕事どころじゃなくなるでしょ。なに考えてんだか。かったるそうな顔してるけど、内心ほくそ微笑んでるんだよ、絶対。

「いえ、違いますよ!色々あって養子に貰ったんです!」

 かくかくしかじか。で伝わらないかなぁ・・・。

「へぇ、いくつなの?」

 竹さんが聞いてくる。

「小学5年生です」

「名前は?」

「さよです。小さい夜で」

「課長!その子に会ったんすか?可愛いっすか?」

 今度は圭介君が課長に聞く。つか圭介君テンション上がり過ぎ。

「ああ、すごく可愛いぞ。うちの加奈には負けるがな」

 さりげに喧嘩を売ってくる課長。そんなものは買いませんよ。

「なに言ってんです。確かに加奈ちゃんは可愛いですが、比較するにはベクトルが違い過ぎですよ」

「ねぇねぇ草野さん、どんな子?」

 今度は環ちゃん。やっぱり質問責めになったな・・・。

「物静かな大人しい子だよ。って言っても、まだ3日ぐらいしか経ってないけど」

「ふーん。じゃあじゃあ、どんな感じ?」

 やっぱり環ちゃんの聞きたい事はイメージみたいなものなんだろう。

「うーん、難しい事を聞くねぇ。ぱっと見は線が細くて華奢で繊細そうなんだけど、うっかり近づくと芯が強くて弾き飛ばされちゃうって感じ?」

 けれどその芯も細くて、土台も危ういところで成り立ってるみたいで。

「へー。イマイチわかんないや。今度お披露目会をやろうよ!」

「いいねぇ、草野君どう?僕も興味があるし、みんなだって見てみたいだろうからね」

「ロクさんやりましょうよ!」

 環ちゃんの提案に高浜さんと圭介君ものっかり、竹さんも頷いてる。やりたいのは山々なんけどなぁ。だけどなぁ・・・

「私も会ってみたいのですが、しばらく経ってからにしませんか?その子も草野さんのところで慣れない生活を始めたばかりでしょうから、もうちょっと落ち着いてからでも遅くはないと思いますよ」

 進藤さんが助け船を出してくれた。そして俺に向かって自分の眉間を指さす。どうやら俺は険しい顔をしてたらしい。

「よしっ!それじゃ、ちょっと先の話だが8月を7月に早めて、バーベキューでお披露目パーティーとしようじゃねぇか!」

「さんせー!」「いいですね」「オッケイっす!」

 と言うことで課長の一声で小夜ちゃんのお披露目会が決まった。えーっと、本人の承諾を得てないのに決めちゃっていいのだろうか・・・。


環「BBQって何?」

圭介「バーベキューっす!」

竹若「なんだと思ったの?」

環「てっきり踊るのかなぁって」

高浜「大捜査線?」


環「ポンポコリンの」

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