3日目 1
目覚ましが鳴り・・・後5分。
・・・・・・。
・・・・。
・・。
また目覚ましが鳴る。・・・・・・わかったよ。起きればいいんでしょ、起きれば。うるさいなぁ。もう、鳴りたいの?なんなの?ばかなの?起こしたいの?はい、ごめんなさい、今起きます。おはようございます。いやぁ、久々のベッドだったからさ、テンションがぬくぬくで。じゃあコーヒーを入れる前に朝の一服を。そして部屋のふすまを開けるとそこに広がった光景はっ!
「おはようございます」
赤い割烹着を着けた小さい女の子が台所に立ってる。んー、小夜ちゃんじゃん!?
「おはよう!」
これで3日目の朝を迎えてるのにいまいち朝は寝ぼけるなぁ。今日の朝はいい感じで頭も覚めたはずなのに。まぁいいや、タバコを吸おう。ソファーに深々と座り込み、タバコを一本取り出し、咥えてライターを手に取る。・・・・・・だから止めるんだって。昨日一昨日と朝寝ぼけて吸っちゃったけど、これから止めるの。小夜ちゃんがいるんだから!だから最後の一本。火を付けて、ぷはぁ〜。そうすると小夜ちゃんが困った顔をして近寄ってきた。
「なに?どうしたの?」
「あの、コーヒーの淹れ方がわからないんです」
コーヒー?コーヒーはねぇ、
「インスタントでいいよ。別に気にしないから」
「でも、昨日ちゃんと淹れてたし・・・」
あぁ、そんな事。そっか、昨日小夜ちゃんの前では初めてコーヒーポットとか出してきたからな。今までインスタントしか表に出てなかったから、普通にインスタントを飲んでる人って思ってたんだね。それで正解なんだけどさ。
「違うよ、元々朝はインスタントだから。朝からちゃんと淹れるとめんどくさいでしょ?」
「でも・・・」
食いつくねぇ。
「本当にコーヒーは飲めればいいから。インスタントだろうがちゃんと淹れてようが気にしてないんだよ。朝から豆を炒って、挽いてなんて出来ないでしょ?別にインスタントがなかったら缶コーヒーでも構わないほどね」
「・・・わかりました」
はい。よろしくお願いします。でもしぶしぶなのが気になるなぁ。さてと、タバコを消して顔を洗って身支度をしよう。今日は仕事か。あーあ、4連休が終わっちゃったよ。
「小夜ちゃん、俺今から支度するから10分ぐらいかかる」
わかりました。と返事を聞いて動き出す。顔を洗って歯を磨いて髭を剃って、頭をセットして、自分の部屋へ。肌着を着て靴下を履いて、Yシャツを着てネクタイを締めて、スラックスを履いてジャケットを持ってテーブルへ。そうすると丁度トーストにマーガリンを塗ってるとこだった。
「あっ、自分でやるからいいよ」
「大丈夫です、慣れてますから。温かいうちに塗らないと綺麗に溶けないし」
いや、その温かいうちに自分で塗るって言ってるんですが・・・。あれ?
「そんな別にいいのに。それに小夜ちゃんの紅茶はティーパック?」
「はい、朝はめんどくさいから。それに葉っぱが勿体無い」
「・・・・・・」
ったく、この子は。それとも今のは嫌味なの?
「あっ、スーツ・・・・・・」
「ん?あぁ、始めて見るんだっけ?どう?似合う?」
ちょっとおどけて言ってみた。1回転してみようかと思ったけど、さすがにそれは大人気ないな。
小夜ちゃんはじっと俺を見てしばらく動かなかったが、
「別人みたい・・・」
おっ!それはいい言葉を頂きました!普段とのギャップがあるって事だよね?って基準点はどっちかな?
しばらく俺を見てた小夜ちゃんだが、時計を見て動き出す。キッチンから目玉焼きとベーコン、簡単なサラダとコーヒーを持ってきてくれた。俺も時計を見ると7時半前。大分余裕があるな。そして小夜ちゃんの分を運び終えるのを待って、いただきます。っと。まずはコーヒーを。いやぁ、この熱いのが喉を通る感じ。いいねぇ。後、小夜ちゃんに伝える事は、っと。
「今晩なんだけどね」
目玉焼きの白身と黄身を綺麗にフォークで区切っている最中に声をかけてしまったので、上目使いでこっちを見る。いや、睨んだ?
「俺が帰ってからスーパーに行こう。んでも帰りは6時半とか7時ぐらいだから、それから帰って作ると遅くなるでしょ?だからスーパーに行った後は適当に食べて帰ってこよ。いい?」
ちょっと考えてる様子で、
「わたしが買いに行ってきます」
そう言うと思ったよ。
「でも小夜ちゃん、スーパーの場所とかわからないでしょ?」
「早苗さんに教えてもらうから」
ちっ、そう来たか。小夜ちゃんが早苗さんに連絡取ったら早苗さんの事だし、一緒に行きましょ?とかになるんだ、絶対。
「いや、俺も一緒に行きたいからね。買いたい物とか出てくると思うし」
しぶしぶ頷いてくれる。何が不満なんだろう。この子が不機嫌になるタイミングが今一掴みかねる。俺と一緒にいる事が嫌なのかな?それなら考え直さないと。ちょっと聞いてみるか。
「ねぇ、小夜ちゃん。もしかして俺と一緒に出かけるのは嫌なのかな?」
紅茶を手に取ろうとしていた小夜ちゃんの動きがいきなり止まり、目を見開いてこっちを見つめる。あぁ、もしかして図星だったか。だったら・・・。っと、突然小夜ちゃんが首を力いっぱい小刻みに横に振る。えーっと、そんなに力強く振ると脳みそプリンになっちゃうよ・・・。
「あっ、うん。変な事聞いてごめん。首が鞭打ちになっちゃうから・・・ね?」
あまりこう言う事はストレートに聞くべきではなかったな。反省。小夜ちゃんもなんか考え込んじゃってるし。
その後も小夜ちゃんは何かを考えてる感じで、無言のまま朝食が終わり、そのまま洗い物をしている。なんか不機嫌って感じでもないけど、話しかけにくい雰囲気をかもし出してるんだよなぁ。テーブルからそんな小夜ちゃんを眺めているとピンポーン!あぁ、加奈ちゃんが来たな。時計を見るとまだ7時50分。学校行くにはちょっと早いな。家に入ってもらおう。玄関を開けに行く。
「ロクちゃんおはよー!」
「おはようございます」
小夜ちゃんを迎えに来たのは加奈ちゃんだけじゃなくて太一君も一緒だった。向かう所はほとんど一緒だからね。もしかするとこの兄妹は毎朝一緒に学校へ行ってるんじゃないだろうか。
「おはよう、まだ時間はあるね。中にどうぞ」
丁度洗い物も終わったところみたいで、小夜ちゃんがこちら覗く。小夜ちゃんを見つけ、そちらに駆けて行く加奈ちゃん。
「あー!小夜ちゃん、おはよう!ガッコにいくよー!」
加奈ちゃんは朝から元気だ。この子がいるだけで空気が一気に明るくなった気がするね。
「太一君もわざわざありがとね」
太一君と一緒にリビングへ移動しながらお礼を言う。
「いえ、通り道みたいなものですから。それに小夜ちゃんは荷物があると思うし。ロクさんの事だから一緒に学校まで荷物を持って行こうとしてたでしょ?」
うん。昨日2人で準備してたんだけど、結構な荷物になる。さすがに小夜ちゃん1人に持たせる訳にもいかないから今日は一緒に学校まで行こうとしてた。それを読まれてるとは、さすが太一君。あなどれがたし!
「まぁね。多少の遅刻は課長も目を瞑ってくれるだろうしさ」
「だからその代わりですよ。小夜ちゃんおはよう」
小夜ちゃんはおはようございますって丁寧に挨拶を返してる。
「じゃあごめん、太一君。お願いしても良いかな?」
「はい、いいですよ。荷物はさっきのです?」
既に持っていく荷物は玄関に用意してある。大きい紙袋が2つ。
「うん。ちょっと多いけどよろしくね」
「えぇ、大丈夫ですよ。さぁ加奈、小夜ちゃん。ちょっと早いけどそろそろ行こうか」
「はーい!」
元気に返事する加奈ちゃんと頷いて返事をする小夜ちゃん。対極に位置してるんだけど、この2人はいいコンビになりそうな予感。つか、あまり動かない小夜ちゃんを加奈ちゃんが連れまわすって感じになりそうだな。意外にも小夜ちゃんは嫌な顔をする事も無く、満更じゃない感じだし。
みんなで玄関へ向かい、一度小夜ちゃんが部屋に戻って赤いランドセルを背負ってくる。
「ロクちゃんじゃあねー!いってきまーす!!」
勢いよく玄関を飛び出していく加奈ちゃん。
「それじゃ、ロクさん。・・・ちょっと待って加奈!」
荷物を持って加奈ちゃんを追いかける太一君。
1人残された小夜ちゃんはこちらを向いてうつむいている。しばらくそのままだったから何か声をかけようと口を開きかけた時、突然俺を見上げた。一度口を開けかけたがまた閉じて、俺をみつめて無言。
またしばらく待つ。そして、意を決したように一度だけ軽く深呼吸をして、
「・・・行ってきます」
俺は出来るだけ微笑んで、
「うん、行ってらっしゃい。気をつけてね」
送り出す。小夜ちゃんは頷いて、2人の後を追いかけていく。
小夜ちゃんの初登校は無事に終わりそうだ。毎日の学校が楽しくなるといいね。さてと、小夜ちゃんを送り出したことだし、俺も会社に行こうかな。
寝勒「ハンカチ持った?」
小夜「持った」
寝勒「ティッシュは?」
小夜「大丈夫」
寝勒「地図は?」
小夜「・・・一緒にしないで」