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異世界召喚×勇者+魅了+魔眼=最低の寝取り間男……の方程式は間違いである。~異世界と現代日本の倫理感が違いすぎて俺の貞操が危ない?~



 拙い文章で読み辛いところも多々あるかと思いますが、楽しんでいただければ幸いです。


 憎悪に燃える瞳で俺を睨みつける少年がいる。

 その少年は俺の隣りに立つ“僧侶”である少女の幼馴染であり、幼い頃に二人は結婚の約束をしていたらしい。


 僧侶の少女はそんな幼馴染の事など気にも留めず、俺の右腕を抱き、蕩けた顔で見上げてくる。


 ちなみに俺は異世界から召喚された“勇者”である。



 ……この場面をどう思われるだろうか。


 たちの悪い間男勇者が魅了魔法やら魔眼だので、仲睦まじい幼馴染同士の絆を引き裂いた凄惨な場面のように思われるのではないだろうか?

 一割は正解で残りの九割は間違いである。




 一年前に突然、召喚の儀とやらで現代日本から異世界に拉致された俺【リュート】は勇者として一方的に祀り上げられた上、国王の勅命により、仲間の僧侶、魔法使い、武闘家と共に魔王を打倒する旅へ出る事となった。



 昨今のエンターテインメント作品においてはありふれ過ぎた展開で、もはやテンプレートと言っていい設定ではあるが、これが現実に起こった事となれば話は違ってくる。


 たった一人で異世界にやって来て、年頃の少女3人を旅の仲間として充てがわれ、恨みも無い魔王と戦う事を強要される状況を純粋に楽しめるような、強靭な精神力を俺は持ち合わせていなかった。



 確かに可愛い女の子との冒険の旅を夢想した事はある。


 某国民的RPGでも主人公(勇者)の仲間3人を全員女性キャラにしてプレイしたりもしたが、それはあくまでゲームとして楽しむ……つまりフィクションだからこそ楽しめる状況だと痛感している今日この頃。


 例えば、旅すがらどこかで野宿をするとしよう。

 山の中であろうと、洞窟の中であろうと、生物であれば当然、生理現象というものからは逃れられない。


 食べれば出すし、飲んでも出す。


 ゲームでは描写されないような事も現実では否応なしにしなければならないのだ。

 異性しかいないパーティーでこういった生理的な事象は非常にデリケートかつ気を遣う案件だ。



 そして今現在、直面しているような問題も起こる。


 この世界は現代日本とは違い、人々は常にモンスターによる命の危機に晒される生活を強いられている。

 明日をも知れない生活の中で生きるこの世界の人々には、現代日本のような倫理観は通用しない。


 いや…この場合は性道徳と言っていいのだろうか。



 この世界の男性は己が生きている内により多くの子孫を残そうとする、自己遺伝子を保存しようとする生物的本能が非常に強い。


 俺のいた世界では所謂、ヤリチ○とか呼ばれている人達がこの世界では一般的な男性像に近いと言っていいだろう。


 女性はしたたか……といえば、そうなのだが、現代日本人の俺から見ればビッ○と言いたくなる人達ばかりだ。


 権力や財力がある人間には己の躰を使ってでも取り入ろうとするし、将来有望そうな男性がいたら積極的にそちらに乗り換えようとする。

 ……確かに生きる上では合理的な価値観だし、愛情だけでお腹が膨れるような平和な世界に生きているわけでは無い為、必然的に打算的な判断が必要になる事は理解できる。


 だが、現代日本で16年間過ごして来た俺の倫理観では、それを無条件に受け入れる事ができないのもまた然りだ。


 この世界では○貞や処○などは単に世間知らずの代名詞としか見做されず、所謂バッドステータスのようなものでしかないのだ。


 そして、召喚前は一介の高校一年生だった俺は当然ながら未だ童○である。



 貞操観念とはある程度、生活に余裕があるからこそ成り立つ観念であり、この世界に俺の倫理観は通用しない。


 俺のパーティーが俺以外に3人とも女性なのは、暗に彼女達をそういう事に使っても構わないという王国側からの配慮でもあるそうだ。



 正直……無用な気遣いは勘弁して欲しいと思う。


 童○には○貞なりの矜持がある。

 初めては()()()()とが良い。


 この世界においては何の価値もなく、「矜持で飯が食えるか!」と馬鹿にされるようなものであっても、俺はそれを譲るつもりが無いのだ。


 だから、魔王打倒の旅を始めて1ヶ月が経った頃、俺は仲間達と諸々の価値観の差異について話し合う事にした。



「皆、聞いて欲しいことがあるんだ。」


 とある森の中で野営をする事になった夜のこと、パーティー全員で焚き火を囲んでの夕食を終えたタイミングで俺はおもむろに話を切り出した。


「はい、何でしょう。勇者様」


 水色の美しい長髪を靡かせてこちらに向き直る少女は、僧侶の【ローネ】さん。


 小さな村の教会で育った彼女は類稀な回復魔法の才を見出され、王都の大教会に移り修行を続けていたところ、今回の勇者召喚にあたり、魔王打倒への旅の供として王国から声が掛かったとの事なのだが――


「もしかして、今夜の伽の相手をお決めになられたのでしょうか?」


 ――清楚な見た目からは想像できないような過激発言を普通にしてくるから困る。僧侶とは何ぞや……。


「いやいや、違うから……っていうか、よ、夜伽とかしなくていいしっ」


「でも、それ込みで前金は支払われているから、遠慮する必要無いんじゃない?」


 扇情的な衣装を身に纏う赤髪のグラマーな女性が、その大きな胸を震わせながら話に入ってくる。

 彼女は魔法使いの【ヴェルソ】さんで、彼女と相対する時に俺はいつも目のやり場に困ってしまう。


 ヴェルソさんのいう前金とは、彼女達が魔王打倒の旅に同行する事を了承した際に王国から支払われたお金で、旅の支度金とは別に、魔王を見事打倒した際に貰える報奨金の1割を先に受け取った分である。


 元々は貧しいスラムに生まれたらしいヴェルソさんはお金に関してはシビアだ。

 お金を貰っている以上は俺に躰を差し出しても構わないと本気で思っている事がその発言からも伺える。


「お金で女の子をその…ごにょごにょ…は、俺はしたくないんだ」


「お兄ちゃんってもしかして……ドーテーさんなの?」


 これまた凄い事を曰うあどけない少女は【ピネット】ちゃんで、幼く華奢な外見に反して怪力を誇る武闘家の女の子だ。

 深緑のツインテールヘアーを揺らして、クリクリとした瞳で俺を見上げてくる幼気な少女からの爆弾発言に俺は固まる。


「そ、そんな言葉を知ってるんだねー」(棒)


「うん、知ってるよ~。女の子は確か処j

「しゃらあああっーぷ!!」


 幼気な少女の口から発せられてはいけない単語が出てくる前に、俺は全力でストップを掛ける。

 素っ頓狂な声をいきなり出した俺に、ピネットちゃんは「?」と頭を傾けた。



「……ごほん。じゃあ、話を始めるね。君達は国王からの命で、魔王を打倒する為の旅に同行しているって事でいいよね」


「ええ、間違いありません」


 3人を代表して僧侶のローネさんが返事をする。


「それで、俺のその……諸々の世話もするように言い含められているって事で間違いない?」


「はい、性処理も担うように言われております」


「わざわざぼかしたのに台無しだよ!!」


 明け透け過ぎるもの言いに、ついツッコミを入れてしまった。

 ……ていうか臆面もなくそんな発言をされると、一人で騒いでる俺の方が恥ずかしくなってくるんだけど…。


「まぁ……さ、勇者の言いたい事は分かるわよ。1ヵ月程度の付き合いだけど、勇者がアタシらと誠実に付き合おうとしてくれている感じは伝わってくるし。」


 ヴェルソさんが俺をそう評価してくれている事は少し意外だったが、素直に嬉しい。


「でも、アタシらを想ってくれるのなら、むしろ抱いて欲しいんだけど?」


「……どゆこと?」


「その件は極秘事項に当たりますよ? ヴェルソさん」


「……そうだったわね」


 何が何だか分からない。

 極秘事項なんて言葉が出てくる事から鑑みるに、王国から何かしらの密命を請けているようだが…。


 腕を組んで、しばらく熟考してみる。

 深く考える時の俺の癖だ。


「あー……何となく分かったかも」


「お答えはできかねますよ?」


「いいよ。その代わりにちょっと質問なんだけど、仮に俺と君達が旅路の途中で、そういう関係になったとするよ?それで、子供を授かった場合はどうなるのかな?」


「……鋭いですね。」


「あのね、ほーしょーきんが貰えて、家も貰えるんだって」


「ちょっと! ピネットさん!」


 ……なるほどね。大体解ってきたぞ。


「ちなみに勇者召喚って、頻繁に行われてたりするのかな?」


「いえ、占星術で定められた日の、定められた時間にしかできないわ。確か……200年に一度くらいじゃなかったかしら」


「かつての勇者の子孫達ってどうなったか知ってる?」


「勇者を召喚した王国の国王がそうよ。過去に召喚された勇者の子孫。

 でも、もう血は大分薄まっているでしょうね。実際、大したステータスでも無かったし」


「ステータスって遺伝するんだ……」


「そうよ。当然じゃない」


 当然なのかはどうかは分からないが、顔や身長などの身体的特徴は遺伝的要因が大きい。

 この世界において、その人の戦闘能力を客観的に数値として表す“ステータス”もある程度は遺伝するという事だろう。


 俺だって馬鹿じゃない。たぶん。


 ここまでの話を踏まえて考えてみれば、彼女達の請けた密命の内容がある程度は推測できてしまう。

 どうりで見目麗しく、年若い女の子ばかりをパーティーメンバーに見繕ったわけだ。

 しかも、それぞれに全くタイプの異なる女の子が選ばれている。


 清純派ヒロインっぽい僧侶ローネさん。

 妖艶でグラマラスな魔法使いヴェルソさん。

 純真無垢なロ○っ子の武闘家ピネットちゃん。


 違うタイプの女の子達を当てがえば、どの子かは勇者(俺)のストライクゾーンに掠めるだろうという立案者の思惑が見て取れる。

 うまく事が運び、勇者の強力なステータスを受け継いだ子供を彼女達が身籠れば、将来の王国の切り札的存在になるわけだ。


 実に打算的だが、ある意味においては愛郷心のなせる業だといえるかもしれない。


 いずれにせよ、王国…延いては人類の未来を憂いて出した密命なのだろう。

 無論、俺の倫理観からすれば、国の為、未来の為に好きでもない男の子供を身籠らなければならない彼女達が不憫に思えるが。


「君達は納得してるの?」


「勇者様は聡明な方ですね……。ご理解されてしまわれたのですね?」


「一応……ね」


「もちろん、私は納得しております。おそらく彼女達もそうです」


「そうね……っていうか、勇者の子を授かるだけで、一生働かなくても生きていけるくらいのお金と家を貰えるのよ? そうすれば、モンスターと戦って命を落とすリスクを負わなくてもいいし、飢えに怯える心配も無い。一体、どこに不満があるというのかしら」


「ピネもおじーちゃん達に楽させてあげられるし、お兄ちゃんの赤ちゃん産んでもいいよ?」


 そうか……やはりここは異世界。


 彼女達は何不自由なく生活できていた現代日本で、一端の高校生にすぎない俺とは全く異なる価値観を持って生きてきたようだ。


 日々が死と隣合わせの生活を送ってきた異世界の女性達は、己が純潔より一切れのパンを取るのだろう。

 それにしても――


「ピネットちゃんって何歳なの?」


「ピネ? ○2歳だよ」


「……ぇ?」


「勇者様、こちらの世界では12歳で成人と認められます。勇者様の世界では違うのでしょうか?」


「うん、俺のいた国では成人は20歳…いや実質的には18歳から…かな。その年齢までは、法律によって保護者の庇護下に置かれるし、その年齢にならないと結婚もできない」


「そんな年齢まで子供でいられるなんて……平和な国にお生まれになったのですね」


「自覚はなかったけど、そう……なのだろうね」


「ちなみにアタシは○7歳で、ローネは○5歳よ。こっちの世界ではとっくに成人しているわ」


 ヴェルソさん、まだ○7歳だったんだ…俺と一つしか変わらないのに、それでよくあの色気が出せるもんだ。

 しかもローネさんは一歳とはいえ年下……しっかりしているし、年上だと思ってた。


 異世界のような過酷な環境で生きていかなければならないとなると、精神の成熟も早いのだろうか。


「勇者様…私達ではお嫌でしょうか?」


「そ、そんなことはないけど……」


「……であれば、良いのですが一応、お伝えしておきます。私達は皆、生娘です」


「き、むぅ……んん?」


「処○って事よ」


「いや、さすがに分かりますけどっ!!」


 意外だった……それなら尚更、俺なんかに躰を差し出す事に抵抗を持ってもよさそうなのに。

 それにしてもいきなりの生娘カミングアウト……。


「疑ってるの?」


「え? いや、違いますよ! ……意外ではありましたが。特にヴェルソさんは」


「それ……どういう意味よ」


「あ、えと……ごめんなさい」


 ヴェルソさんから視線が痛い。失言だったようだ。


「勇者様のお供に私達が選ばれた理由の一つ……いえ、条件の一つに純潔である事が求められていました。おそらく、性交渉によって勇者様へと病が伝染る可能性に対する懸念と、性病を患っていた場合に起こりうる不妊対策だと思われます」


 えええ!! 生々しすぎない!?

 年の近い女の子から、こんなことを淡々と語られると、何だろう……何か大切なものが崩れていく感じがする。泣きそう……。


「後は、貴族連中が言うところの“貞操観念”ってのじゃないのかしらね。飢えに苦しんだ事もないような連中は、そういったもので女の価値を計ろうとするわ」


「平たく言えば、勇者様の妻は貞淑でなければならないという貴族様方の意向ですね」


「他にもステータスが基準に達してるかどうかも条件なんだってさ。ピネは合格したから、お兄ちゃんの赤ちゃん産んでもOKだって、神官さんが言ってたよ」


「…………」


 確かに貞操観念自体、生活に余裕があればこそ掲げられる概念なのかもしれない。


 どうやら、この世界は貧富の差が激しいようで、そういった観念や哲学などは、裕福で不自由のない生活を送る事ができる一部の者のみにしか抱く事ができない価値観のようだ。


 では、性道徳自体が悪なのかと問われれば……俺は“否”だと答えたい。

 例え、この世界の人々にとってパン一切れ以下の価値しかない観念であっても……!


「わかったよ」


「ぁ……! ご了承いただけたのですね? では今宵は誰に――

「だが断る!!」



   ◇ ◇ ◇



 いつぞやの会議? からまた1ヶ月が過ぎた。


 あれ以降も偶に夜伽の相手を申し出られたりしたが、その都度断り続けた為か今ではあまり誘われなくなってきた。

 ……とはいえ、仲間内でその件に関してギクシャクする事は無く、旅は意外にも順調に進んでいた。


 ローネさん達が俺とは比べられないほどに苦労して生きてきた事は理解できた。


 彼女達に俺の価値観を押し付けてしまうのは、ただのエゴでしかないのかもしれない。

 だが……それでも、俺は自分の矜持を曲げたくない。


 無責任な性行為を受容する事は俺の倫理観が許さないし……何より、青臭いガキの絵空事のように思われるかもしれないが、仮にそういった行為に至る場合には、必ず相手を幸せにしたいと思う。


 だから、俺が彼女達の誰を好きになり、その子も俺だけを好いてくれるのであれば、その時は……。



 そこで一つの懸念に思い当たる。


(彼女達には想い人はいないのだろうか?)


 こんな世界だ。好き合っているという理由だけで意中の相手と結婚できるとは限らない。

 金銭的な問題や、身分的な問題から、想い人と結ばれずに涙する人とて少なからずいるのではないだろうか。


 そう考えた俺はこの日、2度目の会議を開いた。


「皆は恋人とか、婚約者とかっていないの?」


 先程討伐した、ホーンラビットというモンスターの肉を焚き火で炙りながら、俺は気になっていた事を仲間達に尋ねた。


 本来の俺ならば、他人にこのようなプライベートな質問をぶつける事はないが、この世界では俺も有り様を変える必要がある。

 当たり障りのない人間関係を築くだけで、何となく生きていけるような甘い世界では無いのだから。


「いるよ~。婚約者っぽい人」


「え!? いるの?」


 俺の質問に応えたのは予想外の人物、武闘家のピネットちゃんだった。


「うん、他流派?の人で、30歳くらい年の離れたおじさんだけど~」


 ピネットちゃんの実家は徒手格闘術を極めんとする、とある流派の家元だそうだ。

 家の仕来りで後継者(ピネット家の場合は長男)以外の者は、自流派の実力者、又は他流派の後継者へ嫁ぐ事になっているらしい。


「ピネットちゃんは嫌じゃないの?」


「う~ん。別に良いかなー。ご飯いっぱい食べられれば」


「……そうなんだ」


「あ、あの……」


 おずおずと手を挙げる僧侶のローネさん。


「一応、私も幼少期に結婚を約束した幼馴染がいますが、何故、そのような事をお気になさるのでしょうか?」


 それは“そのような事”……なのか?


「そりゃあ、不義を働くわけにはいかないでしょ?」


「不義……でございますか?」


「うん」


「それには、只の口約束も含まれるのでしょうか?」


「俺はそう思ってるよ」


「別にいいんじゃない?勇者の居た世界がどうだったかは判らないけど、この世界では婚約破棄や離婚なんてザラよ?複数回結婚と離婚を繰り返した末に結ばれた夫婦や、婚外の子供を複数人持つ家庭だって珍しくないわ」


「それに……私と幼馴染の彼は今回の件が無くとも、結ばれる事は無かったはずです。勇者様が召喚されていなかったとしても、私は教会内の権力者の誰かと、彼は故郷の村の誰かと結婚していたでしょう」


 そうなんだ……。


 この世界と俺の元いた世界ではあまりにも倫理観や価値観が違い過ぎる。

 生きる事だけで精一杯のこの世界では、好き嫌いで結婚相手を選ぶ事のできる人間など一握りしかいないのかもしれない。


「ローネさんは、幼馴染の彼に未練は無いの?」


「……はい。一切ございません」


 そう答えたローネさんの顔に影を感じたのは、俺のそうであって欲しいという願望からくる錯覚なのだろうか。


 こんな世界でも……いや、こんな世界だからこそ、俺は純粋な愛情がある事を信じたかったのかもしれない。


 だから、俺はこう提案した。


「ローネさんの故郷の村へ寄りませんか?」


「私の故郷へ……でしょうか?」


 先日、ここからそう遠く無い場所にローネさんが幼少期に育った村があると聞いた為、幼馴染の彼との件を別にしても、久しぶりに故郷に戻って、懐かしい顔ぶれに会うのも悪くないのではないかと思っていた。


 そして物語は冒頭に戻る。




「ローネ! そんな軟弱そうな男と結婚しても、お前が不幸になるだけだぞ!」


 ローネさんは故郷の村に着くや否や、あろうことか村人達に「私、勇者様と添い遂げるつもりです!」とふれて回り、その結果、ローネさんの両親は大喜び、例の幼馴染の彼は激怒。

 俺は……もう何が何やら。


「何を言うのですか、ハンス。勇者様との結婚により不幸になるなど……有り得ません」


 そう言って、俺の右腕にしがみ付き、胸を押し付けながら潤んだ瞳で見上げてくるローネさん。

 か、可愛い……じゃなくて!!


「いや、ハンス……さん? 違うんだ!」


 幼馴染の彼――ハンスさんに弁解しようとした時だった。

 ふいにローネさんから両手で頬を掴まれ、グイっと彼女の方へと顔を引き寄せられ――


「勇者様……チュッ♡」


 唇に当たる柔らかい感覚と花のような香り……。


 世界が凍る。

 停滞した時間は俺から思考という概念を奪った。


「勇者様、これ、私のファーストキスですよ。責任……取ってくださるのですよね?」


 そう小声で耳打ちするように囁くローネさんの声にゾクゾクする。


「はひぃ……じゃなくて! 俺も今のがファースt

「これで分かったでしょう? ハンス。私と勇者様は深く愛し合っているのです。そして夜になればもっと……凄いんですよ?」


「そんな……嘘だろ? 俺、ずっとローネの事待ってたのに……」


「その割には、アンナと最近いい感じの雰囲気だったと聞いていますが?」


 アンナって誰だ?村娘の一人かな……。


「そ、それは……くそっ! 勇者、お前のせいだな? お前がローネを魅了したんだろう!?」


「え……、魅了?」


「とぼけやがって! 勇者の瞳には他者を強烈に惹き付ける魔眼の力が宿っていると聞いたことがあるぞ!」


 何のことかとヴェルソさんの方へ向き直れば、やれやれと言った感じで説明をしてくれた。


「先代の勇者の瞳がとても特徴的だったらしいのよ。その瞳を一目見た者は皆、勇者に魅了されたと聞くわ。……あくまで、噂だけどね」


「それって、ただ目力があっただけなのでは……」


「まぁ、そうかもしれないわね」


「何呑気に話してやがる! 勇者、俺と決闘しろ!」


 そう言って殴り掛かってるハンスさん。

 まさに鬼の形相……だけど、すごく遅い。


 俺は、それをひらりと身を躱して避けると、ハンスさんに足払いをかけた。


「ぎゃああああああああああああ!!」


 つもりだったに、何故かハンスさんは空中で激しく回転し、顔面から盛大に着地。そのままビクンビクンと痙攣を繰り返していた。

 何で……?!


「あーあ、お兄ちゃん、やっちゃったね~」


 そう言ってケラケラと笑うピネットちゃん。


「勇者様……説明し忘れておりましたが、勇者様がほんの少しでも攻撃の意図を持って行った行動へはステータスの恩恵が乗ります。モンスターと戦う時も普段生活する以上の力が出せますでしょう?それと同じです」


 知らんがな……じゃあ、悪戯心で誰かの脇腹を突っついたりしたら、肋骨折れるとか? 怖っ!

 

 ハンスさんに回復魔法をかけ終わったローネさんが再び、俺の腕を取る。


「さて、これで私の婚約者は勇者様だけです。今しがた、私を()()()くださいましたから」


「は……?」


「もうこの村には嫁ぎ先がありません。()()……お願いしますね?」


 微笑むローネさんの表情に黒いものを感じる。俺、ハメられた?

 どうしてこうなった?!


 呆然とする俺であったが、反対側の腕にも柔らかさを感じ、そちらを向くと――


「アタシも……一緒に貰ってくれるわよね?アタシって実はすごく一途なのよ?」


 妖艶に微笑むヴェルソさんの豊満な胸の感触に、つい頷きそうになるがグッと堪える。


「ピネもお兄ちゃんの赤ちゃん、いっぱい産んであげるよ~!」


 突然、背中に飛び乗ってきて、村人達が見ている前でとんでもないことを言うピネットちゃん。


 ああ……村人達が俺を白い目で見てる気がする。

 最低の魅了ハーレム野郎だと思われているのかもしれない……憂鬱だ。


「大丈夫ですよ。勇者様。郷に入れば郷に従えと言うではないですか。価値観など、すぐに変わるものです。流れに身を任せてもいいのですよ?」


 いやいや、ローネさんこそ、俺を魅了しようとしてるでしょ!

 さっきから、やたら耳に息を吹きかけてくるし……いい匂いするし……。


 このまま、流されてしまうのも一興かも…って、そんな訳あるかー!! 俺は己の矜持を貫くんだ!


 でもこれって、ある意味、俺がローネさん達を好きになっちゃえば皆ハッピーって事?!




 それから2年後、勇者リュートは見事、魔王を打倒し、王国へと帰還した。

 

 ――傍らに3輪の美しい華を携えて。


「勇者様、幸せになりましょう」

「勇者、これからもよろしくねっ」

「お兄ちゃん、大好きだよ!」


 その言葉に微笑み返す勇者の姿には、多くのものが惹き付けられ、後に語られることになる。


 ――それは、まるで“魔眼”のような瞳と、“魅了”されてしまうような笑顔であったと。






お疲れ様でした!


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― 新着の感想 ―
諦めの笑みなんやろなって…
[一言] ズブズブに魅了されとんなぁ
[一言] 最新の勇者後日談から来たけど・・ 貞操観念緩い世界?のが貞操守って、 貞操観念ありそう?な世界が貞操守ってないのは・・ 哲学やな・・
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