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第7話 強敵との競り合い殺し合いの中で相撲令嬢は必殺技を思い出す

「あっはっははっ!! フローチェッ!! お前を令嬢と思うのはやめだっ!! お前は猛獣と思う事にしたっ!!」

「それは恐れ入りますわっ!」


 ユスチンは組み合った体勢から蹴りを放ってくる。

 ふっ。

 体をひねるようにして前にねじ込み、太ももを取る。

 足の先は速度が出るが、太ももの部分は最後に動く。


「ぐっ!!」


 超接近戦専門の相撲取りに蹴りが効くかっ!


 そのまま転がそうと腕に力を入れると、ユスチンはするりと抜け出した。

 さすがは小結、体の使い方が巧みだ。

 

 がっちりと組み合う。

 体勢を崩し合う。


 一進一退、仕切り線の上でジグザグに動く。


 二人で土俵の上で、体をぶつけ合い、体温を上げ、汗を流し合う。

 だが、色っぽくは無い。


 二人の間に流れる感情は、濃密な殺意と害意。


 闘志と負けじ魂。


 賞賛と尊敬だ。


 お互い虎のように笑い、獰猛に体をぶつけ合う。




 ふと、前世で親友のみっちゃんと編み出した技を思い出す。


『この技を使えたら、すごくない?』


 あまりに凄い技だったから、一度も成功した事は無かったけど。


 今なら!


 相撲スピリッツが高速回転している心技体が一体になった今なら。


 放つ事ができるかもしれない。

 あの、夢の技を。




 がしりとユスチンのベルトを引きつける。


「ぐっ!?」


 雷のような速度で私の膝をユスチンの内股に入れる。


 なんだ、放電?


 パリパリパリ。


 その足に彼を乗せるように引きつけ持ち上げる。


 パリパリパリパリ。


 細かい黄色い火花が散る。


「ぐっな、なんだっ!! 雷属性? 痺れっ」


 バリバリバリバリバリッ!


 放電が強くなっている?


 そして、全力で体をひねりユスチンの身体を雷のような速度で振る。


 ドカーーーン!!


 稲妻のように、私はユスチンを土俵の上に投げ捨てた。


 黄色い光が爆発し、落雷のような音が轟く!


「ぐわあああああっ!!!」


 ユスチンは頭から土俵に落ち、ごろごろと転がって下へと落ちていった。


――落雷サンダーやぐら投げ! 成功したっ!


 現世で考えていたのは、雷のような素早い櫓投げであったが、なぜだかこの世界では、雷属性が付与された投げ技になったようだ。


 相撲は不思議だ。


 行司が私の方へ軍配を上げた。


『フロォォォチェェ』


 わあっと観客席が沸いた。


「フローチェ! フローチェ!! すごかったよっ!!」

「ありがとうございます。リジー王子」


 リジー王子が土俵に駆け上がって私に抱きついてきたので、嬉しくすぐったい。

 はぁどすこいどすこい。


 行司が懸賞金を軍配に乗せて差し出してきたので、手刀を切って受け取った。

 封筒は手に当たると消滅し、中の金貨と薬瓶だけが残った。


「わあ、金貨だっ、その瓶はマジックポーション?」


 私は瓶の栓を抜いて匂いを嗅いだ。


「これは、びん付け油ですわ」

「何をするものなの?」

「髪を整える物ですわ」


 お相撲の懸賞品らしいわね。

 私は女性だからまげは結えないけど、リジーくんを大銀杏おおいちょうに結ってあげたいわね。

 猫耳大銀杏おおいちょう

 尊いですわあ。

 はぁどすこいどすこい。


 行司が消えて、ゆっくりと土俵が地面に下がっていく。

 それと同時に相撲に熱狂していた下働きや兵士、メイドがバツの悪そうな顔をしてゆっくりちっていく。


 しばらくすると、土俵は完全に消え、魔導灯に照らされたエントランスロードには、私とリジーくんと、気絶して倒れたユスチンと、クリフトンだけが残された。


「すげえ、本当にすげえや、フローチェ、あんたは」


 にんまり笑ってクリフトン氏はユスチンの巨体を引きずり、城門への道を空けた。


「ありがとう」

「また、戦ってくんねえか、俺と、それから師匠ともよ」

「次の場所で、また仕合ましょう」


 私とリジーくんは城門をくぐった。


「フローチェお嬢様~~~!!」


 私の粗忽そこつメイドのアデラが馬車に箱乗りをしてやってきた。


「なんか、王城がへんなのですよ、早く帰りましょう、あら、その子は、まあっ、素敵な美少年、私はアデラって言うのよ、フローチェお嬢様付きのメイドです、まあまあ、耳がっ、猫耳、すごい、尊いっ」

「こ、こんにちわ、アデラ、僕はリジーです」

「まーーーっ!! まーーーっ!! リジー第二王子ですのっ!! まあまあまあっ」

「アデラ、うるさい、早く馬車のドアを開けて」

「はい、お嬢様っ」


 本当にうるさい粗忽そこつメイドめ、さば折りをかけるわよっ。


 私は王子に続いて馬車に乗り込もうとした。


 アリアカ城のバルコニーにいくつかの人影を見た。

 その中の一人の気がぐんぐん大きくなっていく。


 ……。

 竜殺しの王宮近衛騎士団長、エアハルト・ブロン……。

 アリアカ国の横綱だ……。

 いつかは奴と戦う。

 だが、今日では無い。


 その日まで、私は心技体を鍛え、筋肉を付け、体重を増やす。


 次の王城場所で、勝負だ、エアハルト!


 私は馬車に乗り込んだ。


「あの、目的地はタウンハウスですか?」

「ちがうわ、ホッベマー領に戻り、兵を集めます」

「は? はああああああっ? ど、どうしてですかお嬢様、クーデターですか?」

「違うわアデラ。これは反乱ではないわよ」


 私はニヤリと笑った。


「これはリジー王子を王位に就ける為の、地方巡業よっ」

「よくわかりません、お嬢様~」


 リジーくんがくすりと笑った。

 アデラが窓から身を乗り出して御者に行き先を伝える。


 どこからともなくリズミカルな太鼓の音が聞こえてくる。

 ああ、跳ね太鼓だ。

 お相撲の場所が終わった合図の太鼓。


 こぼれ落ちてくるような満月の夜、私たちを乗せた馬車は、跳ね太鼓の音色と共に、一路ホッベマー領を目指して夜道を駆けて行った。



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― 新着の感想 ―
[良い点] まさか、相撲がこんなに手に汗握るほど面白いとは思いませんでした。ユーチューブで相撲探して見ようと思うくらいにはめちゃくちゃ面白かったです。 正直読む前はこんなに面白い作品だとは思わなかった…
[一言] 馬車の箱乗り、地方巡業。 単語のセンスに気もそぞろ。 横綱、いるんだ…!!ということにもおどろきと納得。 この速さ、やみつきになります。
[良い点] ナーロッパなファンタジー世界に相撲を落とし込む、という発想も凄いですが、 その怒涛の勢い、数々の相撲要素の見事な融合、そしてフローチェの熱い相撲魂を第1話から終始楽しませてもらいました。 …
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