第39話 表彰式の後にジョナス王子派への断罪が始まる
『表彰式に先立ちまして、土俵に向けて国歌斉唱を行います、皆様ご起立おねがいします』
国技館にいる全員が立ち上がった。
みな、土俵の上を見る。
国歌の荘厳な前奏が始まり、私たちは歌いだす。
「「「「暁の大陸平原に命を受けて、走り戦い祖国を守る~♪」」」」
「「「「国境の砦に友の血が流れ、隣の者が倒れても~♪」」」」
「「「「我らは侵略者には屈しない、栄光の国土を守るのだ~♪」」」」
「「「「ああ~豊穣の大地アリアカ、我が祖国~~~♪」」」」
皆さん直立不動で朗々と国歌を斉唱するわ。
ジョナス王子も、エアハルトも歌っているけど、ヤロミーラはふくれっ面でそっぽを向いているわね。
呼び出しの人たちが土俵に優勝カップを持ってあがる。
紺のクロスをかけたテーブルの上に設置したわ。
アデ吉が私を呼ぶので、土俵に上がる。
表彰してくれるのは、いつもの故元横綱の親方だ。
『表彰状! あなたは七月九日、アリアカ王都場所で素晴らしい成績を残しましたので、ここに表彰します!』
元横綱に頭を下げて、表彰状を受け取る。
なんだか特別な感じがするのは、卒業パーティーからの一連の大暴れが、時間的に一つの場所に感じられるからだろうか。
ここが本当の千秋楽に思えるわ。
『よくがんばったね』
元横綱の親方が優しい口調でおっしゃるので、少し涙目になってしまいましたわ。
ありがとうございます。
大きい賜杯を受け取りユスチン氏に渡す。
続々と色々な賞が贈られていく。
お米一年分三十俵はすごいわね。
しばらくみなにお米を食べさせられるわね。
コカコーラの杯が新しく来ていて、副賞がコカコーラ一年分だそうだ。
やったわっ。
お酒一年分とか、牛一頭とか、野菜一年分とか、お醤油一年分とか、お味噌とか、沢山のカップと副賞が続く。
国技館が建ったからか、賞が増えて豪華になったわね。
拍手が国技館に響きわたった。
終わったなあ、と、実感して上を向く。
吊り屋根の裏の照明が目にしみる感じ。
カンカンカンと拍子木がなった。
あれ、跳ね太鼓で締めるのでは?
まあ、千秋楽には跳ね太鼓は叩かれないのだけれど。
王様とリジー王子が土俵の上に立った。
「さて、素晴らしい相撲を見たあとだが、ここで断罪の儀をおこなう」
厳かにアルヴィ王が宣言した。
「我が愚息である、ジョナスが魔法学園の卒業と同時に王家に向け謀反を企てた。王である余を聖騎士団を使い拘束し、ヴァリアン砦で軟禁しおった」
ジョナス王子、ヤロミーラ、エアハルトは土俵の下でひざまずいている。
「その上で、リジーを監禁、そして殺害を企てた、殺害の罪はフローチェ嬢になすりつけるつもりであった。誠に卑劣千万な下劣な陰謀だ、ジョナス、相違は無いか」
ジョナス王子は苦悩の色を浮かべている。
「相違ありません……」
アルヴィ王はうなずいた。
「そして、エアハルトは、その陰謀を裏で操り、アリアカ王国を手に入れ、父である魔王に献上しようとした。相違ないか」
「相違ありません」
エアハルトは平静な声で答えた。
ヤロミーラは左右をキョロキョロ見て挙動不審だ。
「王国法では、国家転覆は重罪、未遂でも死刑じゃ」
ジョナス王子とヤロミーラがグッと変な声を上げた。
二人とも、恐怖の色を浮かべている。
「じゃが、次の王であるリジー皇太子が異論があるようだ。立太子の礼はまだじゃが、次代の王の意見を聞かぬ訳にはいくまい。こやつらの裁きはリジー、お前に任せる」
「ありがとうございます。お任せください」
リジー王子が三人の前に立った。
黄色い廻し姿に、王家の毛皮のマント、銀の太子冠をかぶった王子は凜々しく、素晴らしいわ。
尊い。
はぁどすこいどすこい。
「皇太子として、謀反人に裁きを言い渡す!」
ジョナス王子とヤロミーラがびくりとした。
エアハルトは動じない。
さすがね。
「ジョナス王子の王籍を剥奪し、北の開拓地へ十年の流罪とするっ!!」
ジョナス王子の目が見開かれた。
「リジー……、僕を、死罪にしなくて……、いいのかい?」
「兄上の命を奪う事はできません。北の開拓地で罪を償なって、帰ってきてください」
「リジー……、リジーッ、僕は、僕はっ」
ジョナス王子は膝を付いて泣き始めた。
「い、いやよっ!! 貧乏農場送りなんていやーっ!!」
「衛兵、黙らせろ」
アルヴィ王が衛兵に命じると、彼らはヤロミーラを棒で打ち、猿ぐつわをかけた。
哀れな。
「エアハルト、君の近衛騎士団長の職を解き、東の開拓地に十年の流罪とするっ!!」
エアハルトは頭を下げた。
「恐れながら、皇太子殿下、死を賜ります事をお願いいたしたく」
「だめだよ、エアハルト、君を死罪にしたら、僕は兄上も死罪にしないといけなくなる。君も十年間、開拓地で汗を流して来てくれ」
エアハルトは額を地面に付けた。
土下座だ。
「かしこまりましてございます」
「エアハルト」
私の問いかけにエアハルトは頭を上げた。
「東の開拓地に行く前に、フローチェ部屋の稽古を見ていきなさい」
「なぜ?」
「開拓地で、自分の部屋を作って相撲をしなさい、また、私と戦いたいのでしょう?」
「私は……、私は……、スモウを覚えたい……、だが良いのだろうか……」
「問題無いわ」
エアハルトの目から涙がこぼれ落ちた。
「か、かならず、かならず、君ともう一度戦おう、約束する」
「待ってるわ、エアハルト」
心を鍛えなさい、エアハルト、あなたは良い相撲取りになれるわ。
エアハルトは泣いた。
子供のように号泣した。
こうして、アリアカ場所は終わった。
不正は正され、悪は報いを受けた。
そして、私たちは明日へ向かって歩き出す。




