第33話 相撲令嬢は、アリアカ国技館地下支度部屋へ行く
エントランスに入る。
半透明のお相撲さんがもぎりに立っていた。
『いらっしゃいませ~』
良く見ると前世で昔大好きだったお相撲さんだった。
「またあえて嬉しいですわ」
『恐れ入ります、今日は開館記念日なので、入場券は必要ございません。フローチェ関はこちらへ、お部屋の皆様もどうぞ』
半透明のお相撲さんは私たちを先導してくれる。
しかし、ピカピカで凄い建物ね。
「なんというか、圧倒されるなあ、なんだあのガラスの透明度は」
「きょろきょろするな馬鹿弟子。しかし、こんな宮殿でスモウか、素晴らしいな」
「フローチェ親方、私は軍の入城を指揮してまいります」
「おねがいね、マウリリオ、いつもありがとう」
「とんでもございません」
マウリリオ元将軍が去って行く。
彼は将軍でなくなったのに、兵の事を良く思う素敵な漢だわ。
「すごいね、フローチェ、王宮よりもピカピカでモダンな感じだね」
「ええ、両国国技館よりも立派だわ」
突き当たりには展示があって、たしか元の国技館だと賜杯などが飾ってあったのだけど、今は何も飾っていないわ。
これから、私たちが沢山の勝負で歴史の証をここに残していくのね。
開いたドアから中を覗くと、視界いっぱいに枡席がならんでいた。
そして、その奥に、緑色の座布団が敷き詰められて、その中央に土俵が見えるわ。
「わあっ、すごいなあっ、あそこでスモウを取るんだね。柱が無いのに屋根がある、魔法?」
「いいえ、上からワイヤーで吊されているのですよ」
四方に、赤、青、黒、白の房がかかった、紫色の垂れ幕がついた立派な吊屋根だ。
大広間の階段を降り、地下に入る。
クロークを抜けると、通路になっていて、その先が審判部屋らしい。
半透明の名力士の親方衆が座り込んで談笑していた。
なんか、実体化が進んでないかな?
大相撲が隆盛になると、完全にこっちの世界に来たりして。
それはそれで嬉しいけど、次元的にはどうなのだろうか。
……、まあ、私が心配する事でもないわね、駄女神にお任せしよう。
さらに先に進むと、行司部屋があった。
『それでは木村さんはここで』
「わかった、フローチェ嬢、がんばるのだぞ」
「わかりましたわ、アルヴィ王陛下」
「行ってくるね、お父様」
「うむ、精進するのだ、リジー」
「はいっ!」
リジー王子の元気の良い声がとても心地よい。
はぁどすこいどすこい。
通路の先に、東の支度部屋はあった。
わあ、結構広いわね。
「うおおっ、すっげー、なんだこのマット!!」
ファラリスが歓声を上げて、一段高い位置の畳に飛び込んだ。
「草を編んだものですかな、良い匂いだ」
「イグサというのよ、ユスチン」
「へえ、フローチェ親方は博識だな」
そう言いながら、クリフトン卿はファラリスの雪駄を脱がすわ。
意外に世話好きなのよね、彼は。
さて、支度といっても、王都に入る時からマワシドレス姿だから、別になんの用事もないわね。
ジョナス王子や、ヤロミーラ、エアハルトは西の支度部屋で支度をしているのかしら。
というか、お城を国技館に改造された時点で、彼らの負けは確定しているのでは無いかしら。
これ以上は鉄拳制裁みたいになって、少し嫌だわね。
どやどやと、花道の方から一群が現れて、東の支度部屋に入ってきた。
「フローチェ! こ、これは、僕たちからの最後通牒だ!!」
「兄上……」
ジョナス王子が後ろにヤロミーラとエアハルトを連れて入ってきたわ。
「ぼ、僕たちはお前たちに決闘を申し込む、ス、スモウでかまわんっ!!」
「そうですか」
なんの風の吹き回しかしら。
「しょ、勝負は三本だっ!! 二本勝ちを収めた陣営の勝ちで、勝った方はなんでも言うことを聞く、これでどうだっ!」
「どうだと言われましても、王様のご意向もありましょうし」
「誰と誰が戦うというのだ、ジョナスよ」
立行事の装束をぴしりと着たアルヴィ王陛下が廊下から来たわ。
あと、半透明の式守のおじいちゃまと、審判委員長の故元横綱も現れたわ。
「い、一番勝負は、僕とリジーだっ!!」
「王子、それはあなた……」
「年齢も体の大きさも違いすぎないか、ジョナス王子」
ユスチンとクリフトン卿が抗議した。
「黙れ黙れ黙れっ!! 王権をかけての勝負だ、逃げはしないよな、リジー」
リジー王子は立ち上がって、ジョナス王子を睨みつけた。
「いいよ、兄上、ねじ曲がった兄上なんかに土俵の上で僕は負けない」
ジョナス王子は、引っかかったなという卑しい笑いを浮かべた。
そうね、ジョナス王子は、リジー王子がこの旅の中で、どれだけ強くなったか知らないのだわ。
「解りました、一番勝負はそれでかまわないわ、二番目は、まさかヤロミーラ?」
「そ、そうよ、あんたが出来る相撲なら、私もできるわっ!」
「あなた、前世で相撲の経験なんかないでしょ?」
「え?」
「駄女神が白状してたわよ、馬鹿を転生させて酷い目にあったって」
「え、ええっ?」
「前世はゲームオタクかなんかでしょ、相撲できるの?」
「え、なんで、フローチェ、なんで?」
ヤロミーラはいぶかしげな表情で私に問いかけた。
血の巡りの悪い女ね。
「私が転生者だって可能性に気がつかないの?」
「えっ、えええっ!! そ、そんなのずるいわよ、私がこのゲームの主人公なのよっ!!」
「馬鹿じゃ無いの、ゲームの世界かもしれないけど、みんなちゃんと生きてるのよ。データじゃないのよ」
「き、汚いわっ!! わ、割り込んで来てっ!! 私の幸せを無茶苦茶にしてっ!!」
「あんたが勝手に自滅してるんじゃないの、知らないわよ」
きいいいっ! と超音波を発してヤロミーラは地団駄を踏んだ。
リアルで地団駄を踏む人を見るのは初めてだわ。
「何時まで訳のわからん会話をしておるのだ。二番勝負はどうする?」
「あ、俺、俺、おれやりたーいっ!」
ファラリスが立候補した。
「あ、子供っ!! いいわ、あなたと相撲するわっ!!」
「よーし、負けないぞ~~っ!!」
「可愛いわねっ、お姉さんと勝負よっ」
……。
「ヤロミーラ、本当にファラリスとやって良いのね」
「もちろんよっ!」
フローチェ部屋のみんなは全員半眼になって、あーあという顔をした。
まあ、本人が良いなら良いでしょう。
エアハルトがファラリスを見て、ぎょっとした顔をしたが、別に抗議はしなかった。
「三番勝負は、僕と、フローチェ嬢だ、問題は無いね」
「かまわないわ、結びの一番ね」
三番勝負か。
一番も落としたく無いわね。




