第32話 アリアカ国技館召喚(コール・スモウキャッスル)
さて、私の出番かしら。
アルヴィ王が前線から退いたので、私が前に出る。
「ジョナス王子、ヤロミーラ、今すぐ、降伏をして、王城の門を開けなさい!」
「断るわ、ばっかじゃないのっ! 私たちは籠城するのよっ!!」
ヤロミーラのキンキンとした声が王城前広場に響いた。
群衆が声を揃えてブーイングをした。
「王都はアルヴィ王の威光で制圧されたわ、どこからも補給は入りません、日干しになるつもりなの、ヤロミーラ!」
「お、お前なんかに負けるぐらいなら、餓死を選ぶわっ! 反逆令嬢フローチェ・ホッベマー!!」
「戴冠も済ませてない偽の王を戴き、女神に絶縁された偽りの聖女が籠城して誰が助けにくるのっ?」
「うるさいっ!! 来るったら来るんだっ!! その時にギャフンというのはお前だっ!!」
何を期待しているのかしら、あの馬鹿は。
「お嬢様、今こそ近衛力士で城門を破砕、その後二万の軍で城内の兵を皆殺しにいたしましょう。大丈夫です、向こうは近衛騎士とはいえ、五千、半日もせずにすりつぶせます」
「アデ吉、黙りなさい」
「アデ吉はやめてください~」
なんて怖い事を考えるのかしら、この粗忽呼び出しは。
背中のなとりのロゴが煤けるわよ。
さて、どうしようかしらね。
「包囲して日干しにしてもいいのだけれど」
「我が軍の物資なら、一週間は包囲可能です、その後は商人から調達になります」
マウリリオ元将軍が声を掛けてきた。
一週間も二週間も時間をかけたくないわね。
土俵を呼んで、門の上の連中を呼び出そうかしらね。
橋の上に土俵は呼べるのかしら。
観客席はどうなるのかしらね。
うむむ。
『お困りのようですな』
あ、行司の式守家のおじいちゃまが出てきた。
「橋の上に土俵は出せるかしら」
『水場の上はあまりお勧めいたしませんな』
「そうなの……」
式守家のおじいちゃまは馬上の王様に近づいた。
『木村さん、あの城はあなたのですかね?』
「キムラ……、ああ、余か、そうですな、王城は余の物でありますぞ」
『そうですか、ならば、王城全体を国技館として改造しませんか』
「コクギカン? 相撲をする場所か?」
『はい、観客席は三万人収容、地上二階、地下一階、地下には焼き鳥工場があります』
「焼き鳥工場、なにか解らぬが心を引かれる言葉だ」
「ふむ、王城を残して、庭園スペースに建てたら良いかもしれないわね」
『王城を残す配置もできますな。ただ、建材の関係で城壁は無くなりますな』
王城の城壁が無くなると、堀だけが防御施設になる、だが、国技館があれば王城への壁にはなるわね。
「どうします、アルヴィ王」
「ふむ、コクギカンを作れば、あの門の上の馬鹿三人はどうなるね?」
『外に吐き出す事も出来ますし、中に取り込む事もできますぞ』
「よし、作ろうではないか、奴らは中に取り込んでくれ。どうすれば良いのか」
『王城の所有者である木村さんと、たぐい希なる相撲力を持つフローチェ関が声を合わせて、唱和してください【アリアカ国技館召喚】」
私はアルヴィ王の顔を見る。
彼は深くうなずいた。
「「アリアカ国技館召喚」」
王と声を合わせ、朗々と唱和した。
その瞬間、アリアカ王城の正門がガラガラと崩れだした。
「な、なんだとっ!!」
「きゃあああっ!!」
「なにいっ!!」
門の上に乗っていた三人は崩れ落ちる門の中に落ちていく。
ゴゴゴゴゴと轟音と共に、大きな国技館が地面からせり出してくる。
両国国技館のデザインじゃ無いわね。
明治に建てられた、旧国技館を大きくしたような洒落たデザインだわ。
「お、大きいな」
「お城に食い込んだわ」
『思ったより、大きかったようですな、アリアカの国技館という事で工務店がよくないハッスルをしたようですのう』
アリアカ国技館はお城を半分飲んだ所で成長を止めた。
元々一つの建物だったみたいにマッチしているわね。
半透明の式守のおじいちゃまのトランシーバーが鳴った。
『こちら設営班A、聖騎士団四千七百五十六名を拘束、二階枡席に送致完了、オーバー』
『了解、暴れ出さんように、枡席に結界にて閉じ込めておきなさい、オーバー』
『こちら設営班B、城内の侍女、メイド、執事、コックさんたちを確保、二階席に誘導します、オーバー』
『了解じゃ、くれぐれも丁寧にな』
『こちら設営班C地下牢にて、収監されていた方々を解放、これより二階席東に案内します、オーバー』
『了解、具合の悪いお方や、病気のお方はいるか? オーバー』
『こちら設営班C全員、特に問題はありません。水を差し上げてもかまいませんか、オーバー』
『かまわない、現場の判断でおもてなしするのじゃ。設営班E応答せよ』
『こちら、設営班E、現在枡席の整備中です。何か? オーバー』
『地下牢に捕らわれた人が二階東に案内される。苦労なさった方々ゆえ、お土産セットは松セットから横綱セットに変更せよ、オーバー』
『こちら、設営班E、了解いたしました。おしぼりも三本ずつ追加してもよろしいか? オーバー』
『うむ、ミネラルウォーターも三本追加せよ。オーバー』
なんというか、バルハラの人たちはどうかしてんじゃないと思うぐらい有能ね。
『さて、万事整いましたぞ、軍の方々も入城できますな』
アルヴィ王は民を振り返った。
「民が見られる場所は無いのか」
式守のおじいちゃまはふんわり笑った。
『それでは、立ち見席を増設いたしましょうぞ。さすがは木村さん、お優しい』
「いやあ、馬鹿息子がフローチェ嬢にどやされる所を民にも見せたいだけだよ、優しくはないぞ」
そう言って、アルヴィ王はカカカと笑った。
私は近衛力士を引き連れて橋を渡る。
入り口は大きく開放されて、半透明の人たちがお辞儀で迎え入れてくれた。
どこからから、寄せ太鼓が聞こえる。
と、思ったらアデ吉が櫓の上で打っていた。
さあ、行くわよっ、アリアカ場所、いきなり千秋楽よ!!




