第23話 フローチェとリジーの領都♡どっきりデート②
領城を出て南に向かうと海がある。
海浜公園になっているのね。
「わああっ! 海だああっ!!」
リジー王子が海を見て駆けだした。
公園は波打ち際が砂浜になっていて、砂を蹴立てて王子は走る。
「わあ、海だよ、フローチェ、冷たいよっ!! あははっ!!」
王子は海に膝まで入り、海水をすくって飛び散らせた。
ああ、光の中ではしゃぐリジー王子が尊い。
はぁどすこいどすこい。
「すごいねえ、フローチェ、どこまでも水が続いているよ」
「遠く新大陸や蓬莱にも続いていますのよ」
「すごいねえ、海は広いね」
「おおきいね~♪ 月は昇るし、日は沈む~♪」
「綺麗な歌だね。フローチェは色んな歌を知ってるね」
「歌が好きなんですよ」
私もハイヒールを脱いで、海につかる。
波が寄せて、足下の砂が動いていく。
ああ、ここはオフィシャル空間じゃないのね。
ヒールも脱げるわ。
ああ、推しキャラと海で戯れる。
なんという至福かしら。
綺麗な海だわね。
この世界は海水浴があるので、夏なんかは水着の観光客でごったがえすわね。
風が吹いて潮の匂いがするわ。
「フローチェ、お魚がいるよっ! 食べられるかなっ!」
「どれどれ、ああ、鰯ですね、捕まえると食べられますよ」
「よーしっ! わっ、逃げたよっ! 素早い~~!」
うちの粗忽メイドが靴を脱いでやってきて、熊手とバケツを出した。
ああ、潮干狩りね。
魚を捕まえるよりも簡単だし、美味しいわね。
「リジー王子、貝を捕りましょう」
「貝? 朝のちゃんこにも入っていたあれ? 捕れるの?」
私は足で海底の砂を探り、アデラから熊手を借りて貝を掘り出した。
蛤ね。
「わ、わあああっ! すごいっ! フローチェすごいっ!! どうやるのどうやるの?」
「足で砂を探って、何かあったら熊手でほって見てください」
ズボンを膝まで上げて、足で海底を探るリジー王子は尊い。
なんという、細くて尊い足。
はぁどすこいどすこい。
「これかな、わあああっ! 貝!! 大きいっ!!」
「沢山取って、お夕飯のちゃんこにしましょう」
「え、僕が取った貝を、フローチェとか、ユスチンとかに食べて貰えるのっ!!」
「食べますよ、楽しみですわ」
「よーし、頑張るぞ~」
リジー王子が張り切って蛤を取り始めた。
わたしも手伝って貝を掘る。
蛤をバケツに一杯取った所でアデラに渡す。
「私たちは市場を見てくるから、アデラはこれを領城へ持って行ってね」
「解りました。では、市場でまた」
私たちは波打ち際の東屋に行って、足に付いた砂を落とし、靴を履いた。
「たくさん捕れたね、蛤美味しいかな」
「きっと美味しいですよ」
タオルでリジー王子の足を拭き、靴下をはかせてあげる。
細い、尊い。
はぁどすこいどすこい。
靴を履かせてできあがりです。
「さあ、市場に行きましょうね」
「市場? 何が売ってるの?」
「お魚とか、お野菜とか、お肉とか売ってますよ」
「いくっ! わあ、初めてだよ、フローチェ!!」
リジー王子の手を引いて市場へ向けて歩き出す。
道行く人が私を見つけて黙礼してくれる。
学園に行く前はこの街で育ったから私の顔を覚えている市民は多いわ。
海浜公園から、市場までは歩いてすぐだわ。
市場に入ると、活気の良い取引が活発に行われているわ。
「わあああっ! フローチェ、いっぱい魚がいるよ。いろんな種類があるんだねっ」
「そうですよ、この地方では、よく魚を食べるので、種類も沢山ですわ」
「よお、姫さんっ、ご無沙汰だなあっ、なんでも軍隊引き連れて帰ってきたんだって」
「あ、おじさん、お久しぶりね。なにか美味しいお魚入ったかしら」
「おうよ、今日はアンコウの良いのが入ったぜ。キモだけでも買っていきない」
アンコウ。
蛤と合わせて醤油ちゃんこも良いわね。
ここらへんだとアンキモだけ食べて、身は捨ててしまうか、猫の餌にしちゃうのよね。
もったいないわ。
「三尾ほど、お城に届けてね」
「あいようっ、まいどありっ!」
リジー王子がアンコウのコワイ顔をみて、おっかなびっくり触ろうとしているわ。
腰が引けてる姿も尊い。
はぁどすこいどすこい。
「コワイ顔のお魚もいるんだねっ、世界ってすごいやっ」
「リジー王子はこれから沢山の世界を見て、大きくなっていくのでしょうね」
「うん、そうだね……。でも、僕は自信が無いよ、フローチェ。兄上を押しのけて王様になんて成っていいんだろうか」
「丘の上の公園にまいりましょうか」
「うんっ」
リジー王子の手を引いて、市場を出る。
領都と言っても、王都の四分の一ぐらいの規模だから、歩いて一周できるぐらいの大きさよ。
「リジー王子、私はこう思うのです。親兄弟でも悪い事は悪いと」
「うん……」
「生まれとか、事情とか、人には色々あるでしょう、それによって悪事に手を染めてしまう者もいるでしょう」
私たちは坂を上がって行く。
洗濯物を抱えた奥様がたが黙礼をしてくる。
「悲しい人、苦しい人、学が足りない者、そんな者たちに同情する気持ちは尊いものです」
「うん」
「リジー王子は優しいお方です。ですから、こう考えたらどうでしょうか」
「どういうの、フローチェ」
「悪い事をする人は、誰かに叱られたいのだと」
「……え?」
丘の上の公園に着いた。
ここから見下ろす領都は美しい。
港に、帆船が行き来しているのが見えて、まるでおもちゃの船のようだ。
「わああああっ!」
「ここが領都ホッベルズです。貿易で栄えた港街ですわ」
「すごいなあっ、すごいなあっ」
領都を一望する絶景ポイントに魅了されたリジー王子は尊い。
はぁどすこいどすこい。
このお方は良き王になる資質を持たれている。
ジョナス王子よりも、ずっと賢明で考え深い。
だが、お優しすぎる。
だから、とてもお悩みになられるのだ。
「悪い事をした人は、誰かに罰せられるのを待っているのです。だからそれを見過ごすのは優しさではありません。無関心です」
「そう、なのか……」
「はい、ジョナス王子はヤロミーラに騙されて道をお外しになられました。危うく、王を手に掛け、弟さまを殺す所まで行ってしまいました」
「うん、とても残念だよ」
「怒ってあげましょう。ジョナス王子を怒り、正道にもどす事ができるのは、リジー王子、あなた一人なのです」
リジー王子は深くうなずいた。
私の語った言葉がしっくりとどこかに収まったのだろう。
目に覚悟が宿ったように見える。
「解った。僕が兄上を助ける。罪を問い、罰を与える。それが兄上が今一番望んでいる事なんだね」
「はい、もともとジョナス王子は善良なお方です。今回の事は気の迷いなのです。王子がお救いしてあげてください」
「ありがとう、フローチェ、君のおかげで気持ちが固まった。僕は王として、兄上を討つよ。協力してくれるね」
「当然でございます、リジー王子、私はあなたの僕でございますわ」
リジー王子は深くうなずいた。
そして、私に抱きついてきた。
「大好きなフローチェ、僕は君を妃に迎えたい。だ、だめかなあ」
わああ、大事な告白の最後でへたれるリジー王子が尊い。
尊すぎるっ。
鼻血がでてしまうかもっ!
なんという、なんという。
「お、王子が、そうですね、十六才に成ったときに、同じようにまた求婚してくださいませ。その時には謹んでお受けさせていただきますわ」
「わあっ!! 本当っ!! フローチェッ!! 嬉しいよっ!! わああいっ!!」
喜ぶリジー王子をぎゅっと抱きしめる。
小さいお体だ。
十六才になったらもっと大きくなりますわよね。
私はその頃は二十二、悪くはない、悪くはないですわ。
ええ、悪くはないですわね。
「門にや~ 松竹♪ 注連縄飾り~♪ 内にや~ 七福~ 鏡の餅よー♪」
「フローチェの歌が好き。もっと歌って」
喜びのあまりに、思わずこぼれた私の甚句に、リジー王子が反応して、催促をしてくれた。
私は丘の上の公園のお花畑の前で、王子と抱き合って幸せの甚句を詠った。
いつまでも。
いつまでも。




