第2話 相撲令嬢は偽りに満ちた王宮を破壊しながら地下を目指す!
ジョナス王子が一連隊の重装備の兵士と共に階段を上がってくる。
「抵抗は無駄だっ! 浅ましく忌まわしいフローチェ!! お前には絞首刑がふさわしいっ」
「そうですか……。心底見下げ果てました、ジョナス王子」
私は階段一杯に広がった軍勢を見下ろした。
「き、気を付けてっ!! その女は不思議なジョブを手に入れてるわっ!!」
背後から、光の聖女ヤロミーラ・シュチャストナーのわめく声が聞こえる。
「フローチェ、貴様、悪魔にでも魅入られたかっ、貴様は何の職業に就いたというのだっ!! 呪術師かっ!! それとも暗黒騎士かっ!!」
「違うわ」
私は片足を高々と上げた。
淑女のやるポーズではないが、かまわない。
なぜなら、私は……。
「今の私は一塊の相撲取りよっ!!」
ダアン!!
ダンスホールに力強い四股の音が響く。
神聖なその音は、兵士達を怯ませる。
「くっ!! スモウトリだとっ! なんという怪しい職業名だっ!! お、恐れるな兵士達よ、奴は只一人だっ!! そして、奴の後ろには光の聖女がいるっ!! 恐れてはならない、恐れる兵士は魔に捕らわれた裏切り者だっ!! 恐れず奴を誅殺せよっ!!」
「「「応っ!!!」」」
巨大な甲虫の群れのように兵達は階段を上がってくる。
すこし前の私なら恐怖で気絶するような光景なのだが、少しも怖くはなかった。
相撲魂の効果かとも思ったが、ちがう。
私は腕組みをして笑みを浮かべる。
倒せるからだ、倒して蹂躙できるからこそ私は兵を恐れない。
剣も、槍も、私の相撲の前では無力だ。
そう、確信した。
握りしめた両手に何かがあった。
見てみると白い。
塩……。
清めの塩か。
何かのスキルなのだろうか。
どこからともなく、寄せ太鼓の音がする。
これは相撲の興行がある地域で、太鼓の音により相撲の開始を知らせる音だ。
そうかそうか。
開始の合図か。
大相撲、アリアカ城場所の開催だっ!
「くらえ、【清めの塩】!」
私は、両手の中の塩を上がってくる兵士に向けてぶちまけた。
「ぎゃああっ、目が、目が~~っ」
「ぐおおおおっ!!」
目を押さえる者、悲鳴を上げる者、さらには溶け出す者もいる。
まさか、王宮の兵士に魔物が混じっているのか?
私は左手で塩を投げ、右手で張り手をして、兵士で一杯の階段を降りていく。
悲鳴と怒声が私と一緒に下へ移動していく。
ジョナス王子との間合いが近づく。
彼は恐怖の表情であちこちを見回し、私を倒すように配下に怒鳴った。
見苦しい。
まったく見苦しい事。
仮にも人の上に立つものはどっしりと構え、慌てないものだ。
あなたは、それでも王子か。
私は泣きそうな顔の王子との間合いを一瞬で詰め、彼の首を喉輪でつり上げた。
「うがががっ、や、やめろっ、くそうっ、ぼ、僕は王子なんだぞっ、こんな扱いはっ!!」
「どうして、私に罪をなすりつけたの?」
「お、お前がいては、ぼ、僕とヤロミーラが結婚が出来ないではないかっ」
「それだけ?」
「そ、それだけだっ、お前のような粘着質で陰気な奴は素直に婚約を破棄してはくれないだろうからなっ」
「なぜ、処刑のお膳立てまで?」
ジョナス王子は喉輪につり上げられながら、憎々しげな目で私を見下ろした。
「お前が大嫌いだからだっ!! 陰気で、うじうじしたお前なぞ、見たくないからだっ!! お前なんか死ねばいいんだっ!!」
そうだったのか、だが、王子のそんな告白を聞いても、私の心は少しも動かなかった。
なんという器の小ささかと、呆れただけだった。
私はジョナス王子をゴミのようにダンスホールに投げ捨てた。
汚い悲鳴をあげながら王子は床をごろごろと転がった。
あたりには沢山の兵士が倒れ、まるで前線の死骸のようである。
私の行く手を阻む者は誰一人としていない。
私の中の相撲感覚が王宮の地下に興味をしめしている。
なんだろうか。
私はダンスホールを横切り、ドアを開けて、王宮の廊下に出た。
感じる。
たしかに、なにか、地下にある。
誰かが呼んでいるような、そんな感じが、相撲感覚にビンビンと反応する。
私は足早に駆けて行く。
迷路のような王宮の内部を相撲感覚だけを頼りに走り抜ける。
古びた螺旋階段を降りきると、そこは地下牢であった。
肌寒い温度の中、かび臭いような悪臭が漂っている。
前方に甲冑を着込んだ見目麗しい騎士がいた。
神殿騎士のオーヴェ・ソレンソンだ。
「困りますね、フローチェさま、こんな所まで来るなんて、悪いお方だ」
彼も「光と闇の輪舞曲」の攻略対象である。
凄腕の剣客にして聖騎士であった。
彼の向こうにお目当ての存在がいるようだ。
そう、ささやくのだ、私の中の相撲感覚が。
む、また相撲感覚が別の何かを私に伝えようとしている。
「番付表オープン?」
私が声にだした瞬間、墨色も鮮やかな番付表が目の前に現れた。
今の私は赤い文字の所か。
ふむ、まだ十両八枚目なのか。
そして、目の前のオーヴェの名前は前頭四枚目の部分にあった。
これは、大体の敵の強さをはかれるな。
便利である。
西の横綱は王宮近衛騎士団長であった。
だが東の横綱は私の知らない名前だ。
まだ見ぬ強敵が、この国にいるのか。
私の胸は熱く騒いだ。
「何ですか、その紙は?」
「あなたは知らなくて良い物ですわ」
「そうですか、あなたを見かけたら倒せと、光の聖女さまから命令されております。あなたに恨みはありませんが、神の名の下に、天国に送ってさしあげましょう」
「相手にとって不足なしっ!! いざ尋常に勝負ですわっ!」
土俵。
地下牢獄へ続く廊下に徳俵が付いた土俵が現れた。
これも、私の相撲力の現れだというの。
大一番が始まる予感がした。