第11話 マワシに悩んでいる相撲令嬢に相撲感覚が出した答えとは
さて、ドレスを着替えてマワシをするわ。
実は、昨晩、大変な事を発見してしまって、ショックを受けているの。
この世界は乙女ゲームなので、ディフォルトで服装が決められてるっぽいわ。
もちろん、お風呂とか、自室でくつろぐときとか、粗忽メイドを追いかけて裏庭までうっかり寝間着で出るときとか、そんな時は服装を変える事はできるのよ。
たぶん、学園とか、王宮とか、フォーマルな場所ではドレスコードが世界に掛かっていて、悪役令嬢だった私はドレスにハイヒールしか身につけることができないみたいなのよ。
で、召喚してきた土俵もフォーマルな場所扱いらしいのよ。
土俵上でハイヒールを脱ごうとしたら脱げなかったわ。
あと、普段着でも入れないわね。
ですからこれからも私はドレスにハイヒールで土俵に上がる事になりますの。
これはきっと、乙女ゲームの世界に、相撲要素を投げ込んだ悪影響ね。
ただ、ドレスでもマワシはしたいわ。
昨日のような緊急事態の時は仕方が無いけれど、むこうには私が掴めるベルトがあって、こちらが無いのは正々堂々していない気がするのよね。
相撲というのは、正々堂々同じ条件で戦うのが基本よ。
神事なのだから、勝った負けたは神様が決める事、我々力士は鋭意努力を重ねて、勝率をあげるのが本道なのだわ。
なんとか方法はないかしらと首をひねっていると、相撲感覚が何かを伝えてこようとしている。
「また新機能かしら、おしゃれチェンジコーナー?」
そう唱えた瞬間の事だった。
軽快なBGMが鳴り、私は光が飛び交う異空間にいた。
「これは……。光と闇の輪舞曲のオマケコーナーのキャラクターおしゃれチェンジコーナーね」
ヒカヤミでは、スチルの回収状況やエンディングを踏んだ数に合わせて特典が出て、その一つが、このおしゃれチェンジコーナーの服装だった。
ヒカヤミのヒロインや攻略対象、はては悪役令嬢の私にまで、色々な服が用意されていて、着せ替えて遊ぶという、女児が喜びそうなオマケであった。
前世の私もはまってしまい、リジー王子の体操服ほしさに、見たくも無い攻略者のエンドを踏んだりしたものでしたね。
しかし、マワシで悩んでいたのに、なぜここに?
と、いう疑問はすぐに解けた。
おしゃれグッズの中に真っ黒なマワシが浮かんでいたからだ。
なんという違和感。
まわりはカチューシャだの、ハンドバッグだの、日傘だというのに、その中に、マワシ。
だが、その思い切りは良し。
私は念でカーソルを動かし、マワシをクリックした。
キラキラした音と共に、マワシがドレスの私の回りに動いてくる。
どうやら、マワシは、ハンドバッグや日傘などのおしゃれアイテム扱いのようだ。
ドレスとマワシがドッキングし、キラキラした効果音と共に、私は現実空間に戻ってきた。
腰にはがっちりとした黒のマワシ。
すばらしい感触ね。
ちゃんとお尻の方からドロワースの上を通って、前で止まっているわ。
ドレスとの接合点は切れ込みが入っているようね。
すばらしい。
これで、ますます相撲道に邁進できるというものよ。
私はドレスに黒マワシをつけて、颯爽と部屋をでて、宿の階段を降りた。
裏庭には、フローチェ部屋の面々がマワシ姿で柔軟体操などをしていた。
「フローチェ親方、おはようございます。お、腰の物はまさか」
「ええ、マワシを締めてみましたわ」
「すばらしい、良くお似合いです」
ユスチン氏は大人なので、口がお上手ですこと。
そして、彼のマワシ姿は惚れ惚れしますね。
見事なソップ型の勇ましい姿。
レスリングは体重も必要ですから、うっすら脂肪が付いているのですよね。
その脂肪が打撃に対する防御にもなるのですが、マワシ姿にとても良く似合います。
「ユスチン、マワシがよくお似合いですわね」
「ありがとうございます、フローチェ親方。これは気持ちが引き締まりますな」
「わはは、やっぱりドレスにマワシだったのか、フローチェ……親方」
それに比べて、クリフトン卿のマワシ姿の貧相な事。
乙女ゲームの細マッチョイケメンでも、筋肉量が足りないので、どうしても、電信棒にマワシを付けた感じになってしまうのね。
それに足が長すぎですわ。
「クリフトンはもっとちゃんこを食べて太りなさいませ」
「えーー、あーー、でも確かに師匠みたいな体型は憧れるなあ」
「そうだぞ、馬鹿弟子、もっと食べて太れ」
「よし、頑張ろう」
クリフトン卿は性格がチャラいですが、格闘技を愛する心は本物ですわね。
そこは評価すべきポイントですわ。
「ど、どうかなフローチェ?」
リジー王子がもじもじと言ってきますが、パーフェクツ!!
黄色いマワシが、成長前の華奢な体に似合っていて、とてつもなくパーフェクツ!!
ああ、尊い尊い、尊い地平に私は溶けて消え去りそうですわ。
はぁどすこいどすこい。
「素敵ですわ、リジー王子、見惚れてしまいます」
「やん、そんなに見ちゃいやだよ」
ああ、恥ずかしがって猫耳がぴくぴく動くのが、なんという尊さ!!
ナイスファイトですわ、リジー王子!!
はぁどすこいどすこい。
アデラが褒めて欲しそうになとりの法被を着てすましてますけど、呼び出しに興味はありませんわね。
「さあ、朝稽古をはじめますわよ」
「えー、お嬢様、わたしはわたしはっ?」
うるさいですわっ。