【SS】アカリパパ視点: ナフュールさんの方が聖女っぽい
「その方がいいわ。そんな危険な真似ばかりしていたら、ご両親だって心配でしょうに」
ほのかさんの言葉に、ナフュールさんは少しくすぐったそうに笑う。
「そうですね。両親が生きていたら、今のように叱ってくれていたのかも知れません。親とは、こんな感じなのでしょうか」
「まぁ、ご両親は?」
「私が物心つく前に亡くなったそうです。魔物に殺されたのだと聞きました。私は孤児院に引き取られたそうですが、割と早くに癒しの力がある事が判明したので、ほぼ教会で育ったようなものです」
「苦労したのね」
「苦労した感じは特にないのですが……癒しの力は女神エリュンヒルダ様からの賜り物ですし、親を失った私を養い、教え導いてくれた教会にはとても感謝しています」
穢れをまったく感じない、清い笑顔に圧倒される。さすがにこれだけ生きてれば、人間の嫌なところだって幾らだって見ただろうに、こんなに清廉に成長するもんだろうか。
うちのアカリだって優しい、人を思いやれる子に育ってくれたとは思うけれど、この域に達するのは難しいだろう。
むしろナフュールさんの方が聖女っぽい。
「ですが、こうしてアカリのご両親に心配していただけるのは嬉しいですね。なんだか、心が温かくなるような、くすぐったいような、不思議な気分です」
なんとも幸せそうに笑うから、こっちまでじーんと来てしまった。
誰に頼る事もなく、自分の身を削るようにして他者を救い続けてきた聖者が屈託なく浮かべる笑みに、僕だけではなくほのかさんもアカリも目を逸らす事ができない。
もしかしたらナフュールさんは、他人を救う事が自分の生きる意義だとでも思っているのかも知れない。
さっきナフュールさんは、こっちの世界に戻ってきたアカリに会うために、生まれて初めて自分自身の願いを込めて祈ったのだと照れくさそうに話してくれた。人間なんて入る隙間がなさそうなこの聖者の心に、アカリが人間らしい気持ちを吹き込んだのが誇らしい。
アカリの親である僕らも、彼が癒される空間を少しだけ提供できればいいんだが。
「ナフュールさんと話してみて、アカリはとても素敵な人とご縁を持ったんだなと安心したよ。アカリのパートナーは僕らにとっても息子同然だ。月並みだけどさ、僕らを親だと思って時には甘えてくれると嬉しいね」
「そうそう! 生まれた世界も常識も違うから、きっとあれ? って思う事もお互いあるでしょうけど、そこはちゃんと言葉にして変に溜め込まずにいきましょ! これからよろしくね、ナフュールさん」
「はい、ありがとうございます。やっぱりアカリのご両親は素敵な方ですね」