【SS】アカリパパ視点: さすが異界のお方
「そして今もナフュールさんは、街や村を回ってたくさんの人を癒したり、魔物を退治したりしてる」
「アカリだってこの店でたくさんの方を幸せにしています。時には料理で、時には奇跡で」
柔和な笑みで言った後、ナフュールさんはアカリを愛しげに見つめて言った。
「私も、アカリと一緒に居るだけで幸せですよ」
おお〜……さすが異界のお方……めちゃくちゃスマートに愛情表現するなぁ。照れるアカリと、頬をおさえてうっとりするほのかさん。たったひと言で、二人の女性を虜にしてしまった。
神官だというのに甘い言葉も吐けるらしい。
若干のジェラシーを感じる僕の腕を、ほのかさんがくいくいと引っ張って耳打ちした。
「さっきの! さっきのセリフ、後でお家に帰ったら言ってみて……!!」
ああ……とんだとばっちりだ。恥ずかしいセリフを最低でも三回は言わされる羽目になってしまった。
「これで信じてくれるよね」
「もちろんよ」
アカリの言葉に、ほのかさんが応える。僕もはっきりと頷いてみせた。
「良かったぁ! さすがに聞いただけではいそうですか、とは信じられない話だからさ、ちょっと緊張しちゃった」
二人の話が本当にあった事だと証明できた事で落ち着いたのか、アカリは少し冷めてきたコーヒーを淹れなおして僕らをテーブルへと促してから、今度は自分もゆっくりとコーヒーを口に含む。
「美味しい……」
「そうだな。爺ちゃんの味に随分と近くなった」
「えへへ、ありがとう」
香り高いコーヒーを楽しみながら、僕とほのかさんは、アカリとナフュールさんが話してくれる異世界での旅の話に驚き、アカリがこっちに帰ってきた後にナフュールさんがどんな旅をしてきたのかを聞いて涙した。
安全で清潔な国に住む僕らでは、ナフュールさんが生まれ育った国の厳しさなんて想像しようもない。
これからもアカリとナフュールさんは異界とこちらの世界を行き来しながら沢山の人、国、世界を助けるお役目があると聞き、誇らしいような気持ちもあるが、圧倒的に『心配』が勝ってしまう。
アカリはまだ、この店が主体で危険な目に遭うことは少ないだろう。
けれど、話を聞いていくだけでも、近々僕らの息子になるだろうこの美貌の婿殿は、周りが心配になるくらいに清廉で、我が身を削って他人の為に尽くす人のようだ。
旅路は過酷で、魔物も野盗も普通に出るという。
しかも彼は倒れるまで他者を癒やすこともしばしばあるようだ。
聞けば聞くほど心配になってしまう。




