【SS】アカリパパ視点: アカリとナフュールさんの現実
アカリがゆっくりと扉を開く。
そこには隣の家の壁……ではなく、石造りのどっかの部屋だった。
豪奢なシャンデリア。カーテン。絨毯。ベッド。アンティーク調の重量感溢れる家具達。
え???
どこのお屋敷???
まるで一流ホテルのスイートルームのような高級そうな調度が揃っているけれど、壁の重々しさがホテル感を拭い去っている。ホントにどこだよ、この部屋。
「このドアをね、さっき言ってた異世界につなげて貰ったの。エリュトゥール国のお城の一室につながってるんだよね」
「い、異世界の、お城……」
さっき外から見たときは、これまでとなんら変わらない外観だった。隣の家もなんにも変わって無くて、この扉の向こうがこんな部屋になっているはずがない。
これまで何度も使ってきた扉、見たことがある外観だからこそ、この異様さが際だって感じられる。
「あたしとナフュールさんだけは、この扉を通じてどっちの世界にも行けるんだよね」
ぴょん、と扉から石造りの部屋に出て行ったアカリは、意味が分からない部屋の中で手を振ってみせる。
「他の人はこの扉を通り抜けられないから、ちょっと扉から手を出そうとしてみて。ゆっくりね」
「りょーかい」
「ダメ!!!」
早速腕をつっこもうとするほのかさんの腕を慌てて止めた。
「僕がやる」
何か起こったらどうするつもりだ。
「えー、やってみたい」
「僕がやってみて無事だったらやっていいから」
頬をぷくっと膨らませるほのかさんを押しとどめて、開いた手のひらをぐっと扉から突き入れようとしてみたけれど。
確かに。
何かに阻まれて腕はぐっと押し戻されてしまった。
「本当だ。見えない壁があるみたい」
「えー! 面白そう! 健吾さん、私もやってみていい?」
「うん。危険は無いみたいだから」
手を入れようとしてみては押し戻される感触を楽しんでいるほのかさんの元に、向こうの部屋からアカリが戻って来てなんなく見えない壁を通過してくる。
まるでマジックを見ているようだけれど、これがアカリとナフュールさんの現実だと言うことなんだろう。
「信じられないような話だったけれど、この先にアカリが救った世界があるのね」
ほう……とため息をついて、ほのかさんが呟いた。
「あたしが救ったわけじゃないよ。あたしは女神様のお言葉を伝えただけ。魔物と戦ったのは主にユーリーン姫とコールマンだし、浄化したのはナフュールさんだよ」
笑ってそう言ったアカリは、ナフュールさんを誇らし気に見上げる。




