【SS】アカリパパ視点: 信じがたい話の連続
アカリは目が潰れそうな美形、って言ってたけど……。
確かに。
高級そうな輝きを放つ銀糸の髪をアメジストの瞳、一見嫋やかそうに見える造形なのに、肌は陽に灼けて身体は意外にも頑丈そうだ。
アカリが手早くコーヒーを淹れてくれて、それをひとくち口にして落ち着いたところで、ついに異次元美人がゆっくりと口を開いた。
「本日はご足労いただきありがとうございます」
おお……! 恐ろしいことに声まで麗しい。
麗しいというか、穏やかで優しい、心が凪いでいくような不思議な声だ。
「私はエリュトゥール国にて第五十六代神官長の任をいただいております、ナフュールと申します」
真剣な表情で、いきなり突っ込みどころ満載な自己紹介がきた。
エリュトゥール国ってどこ? 聞いたことがない。
第五十六代って言うからには歴史ある王朝な気がするが……。
しかも神官長って言ったらかなり重要なポジションだろう。何か特別な宗教だったらどうしよう。僕たちも改宗を迫られたりするんだろうか。
若干の不安を感じていたら、アカリが真剣な表情になってこんな事を言い出した。
「お父さん、お母さん、これから説明する話はきっと、信じられない話になるとは思うんだけど……」
言いにくいことを言う時のアカリ特有の、そっと目を逸らす仕草。
でもアカリはすぐに、まっすぐに僕達を見た。
「でも、あたしとナフュールさんがどう出会って、今後どう二人で生きていきたいかに関わることだから、取りあえずは黙ってひととおり聞いて欲しいの」
その視線の強さに、アカリの真剣さが窺える。
僕とほのかさんは顔を見合わせてから、こちらも表情を引き締めて話を聞く体制に入る。それから聞かされた話は、アカリの言うとおり、まさににわかには信じがたい話の連続だった。
「い……異世界」
そもそもそこからびっくりだ。
いや、このナフュールさんの異次元のたたずまいと美貌を見たら、さもありなんとは思うけど。
「うん、信じられないよね。だから、この店に来てもらったの」
「?」
「こっちに来てくれる?」
アカリが席を立って僕たちを誘うのは、キッチンの奥にある扉。
僕もほのかさんも何度も使った事がある勝手口だ。普通に食材を搬入したりゴミを出したりするのに重宝する、開けたって人ひとり通れるくらいの細い隙間が隣の家との間にあるだけ。
勝手口の前に佇んで、にっこり笑って見せるアカリに、僕もほのかさんも疑問符しか浮かばない。
いったい何がしたいんだろうか。
「開けるね」




