【SS】アカリパパ視点: 何コレ? ドッキリ?
なんだか脱力して笑ってしまった。
そうだな。
そんなに不安に思うことなんて、本当はないのかも知れない。
アカリはほのかさん譲りの明るさも、気合いで物事を切り拓いていく強さも持ち合わせている。
心配性の僕がおろおろと心配してるうちに、軽やかに問題を解決していたりするんだから。
「うーん、黒のタートルネックも捨てがたい。健吾さんスタイルいいから、何着ても似合っちゃう!」
僕の気分を上げようとしているのか、ほのかさんが一生懸命に褒めてくるのが可笑しくて、僕もほのかさんに笑いかけた。嬉しそうに笑い返してくれる優しい笑顔を見ていたら、ひとりだけ心配しているのが馬鹿らしくなってくる。
「ほのかさんの言う通りなのかも知れないね」
「ん?」
「ほのかさんの言う通り、アカリを信じる」
「……うん! それでこそ健吾さん」
満面の笑みでちゅ、と頬にキスしてくれる僕の奥さんは、いくつになっても愛らしかった。
***
そしていよいよ来るべき時がやってきた。
ほのかさんと連れ立ってアカリの店に向かう僕は、やっぱりどうしようもなく緊張している。こればかりはどれだけ自分に「落ち着け」と言い聞かせたところで無駄だった。
「健吾さん、なんだかデートみたいで楽しいわね!」
対するほのかさんはどこまでも呑気で、いっそその強心臓がうらやましい。楽しそうなほのかさんと話しながら歩く内にアカリの店が近づいてきて、ついに僕たちは臨時休業を知らせる札が下がっている扉の前に立った。
「あー、デートが終わっちゃうな~。アカリの大切な人に会えるのは楽しみだけど、ちょっと寂しいわね」
ほのかさんが僕を見上げてにっこり笑う。
ぎこちなく笑い返してから、僕は覚悟を決めてドアノブに手をかけた。
「いらっしゃいませー!」
開けると同時にアカリの元気な声が迎えてくれる。
「あっ、ついいつもの癖でいらっしゃいませ言っちゃった」
そう言って笑うアカリの後ろに。
この世のものとは思えない、美麗な人が立っていた。
「まぁ! この方がナフュールさん? 初めまして、アカリの母です」
ほのかさんに応えようと、緊張した面持ちで口を開きかけた異次元美人を押しとどめ、アカリが居住スペースへ続く扉を指差す。
「挨拶は座ってからにしよう? お父さん、お母さん、奥の部屋の方に来て」
僕が言葉を失っている間に奥の部屋に通されて、いつの間にかテーブルを挟んで異次元なレベルの美人と向かい合っていた。
何コレ? ドッキリ?
いや、ドッキリに違いない。




